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novela 【裏切り者】エントリー作品− 

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  ACT.2  友愛 2-4  

「江藤!」
 突然呼ばれ、顔を向けると、慶一郎が立っていた。
「あ、村西くん」
「どういうことだよ」
 その言い方に怒りがこもっていることに気づく。
「どういうって……村西くん、何で怒ってるの?」
 そう聞かれても慶一郎は自分でもよく分からないのだから、答えられるはずがない。
「何だよ……もう新しい男作ったのかよ」
 慶一郎は忠和の顔を一瞥し、美奈子に向き直った。
「え?」
 何を言われているのか分からず、美奈子は反応ができない。
「何、言ってんの?」
 辛うじてそう聞き返した。
「江藤がそんな女だなんて思わなかった!」
 何故軽蔑されたのか分からず、美奈子はただ呆然としている。
「君……」
 忠和が口を挟もうとしたその時、鈍い音がしたと同時に慶一郎が吹っ飛んだ。
「え?」
 忠和も美奈子もその目に映った映像が信じられず、固まる。
「ってー! 何すんだよ!」
 吹っ飛ばされた慶一郎は、その吹っ飛ばした相手を睨み付けた。
「ああん?」
 逆に睨み返され、慶一郎は萎縮した。
「野田くん……」
 慶一郎を吹っ飛ばしたのは紛れもなく諒介だった。
「お前は何を言うとんじゃ。空気読めんのも大概にせーや」
「……キレてる……」
 やっと追いついた知華が呟く。諒介は普段こそ標準語だが、一旦キレると関西弁が出る。そして大抵キレるのは慶一郎に対してだった。
 それをよく知っている慶一郎は関西弁が出た瞬間、おとなしくなる。
「大体江藤が帰らなあかんくなったんは誰のせいやと思てんねや? それを棚に上げてようそんなこと言えるな」
 そう言われると言い返せない。慶一郎は俯いたままだ。
「それに江藤の話も聞かんと何で新しい男やって分かるんや? 仮にそうやったとしても、お前が口出しすることちゃうやろ」
「の、野田くん、もういいよ」
 美奈子がそう言うと、諒介は責めるのを止めた。
「村西くんも立って」
 そう言って手を差し出すと、慶一郎はばつが悪そうに顔を背ける。
「立て」
 諒介の一言で、慶一郎は怯えながらゆっくりと立ち上がった。
 そして、諒介は忠和に向き直り、頭を下げた。
「すみません。この馬鹿が変なことを言って……」
 驚いていた忠和もようやく我に返り、首を振る。
「いや、私は別に……。それより美奈子さんに謝った方が……」
 そう言われ、諒介は頭を上げて美奈子に向き直った。
「ごめんな。江藤。こいつだけは縛り上げて東京湾にでも沈めるわ」
「そ、そこまでしなくても……」
 そう反応すると、知華が割って入る。
「そうだよ。馬鹿は死んでも直らないから無駄よ」
「ちょっ!」
 知華のキツイ一言に慶一郎も思わず輪に入った。
「プッ」
 不意に吹き出した声に気付き振り返ると、忠和が口を押さえて笑っていた。四人の視線がこちらに向いていると気づいた忠和は、笑いを堪えながら口を開く。
「あ、すみません。仲がいいなぁと思って……」
 その言葉に、四人は思わず顔を見合わせる。瞬間、笑いが零れた。
「そうだ。美奈子、こちらの方は?」
 ようやく知華が忠和のことを尋ねる。
「あ、この方は後藤忠和さん。光くんの、大学時代からの親友なの。さっきばったりお会いして……」
「そうだったんだ。初めまして。平野知華です。美奈子の大学の友人なんです」
 知華は改めて忠和に向き直り、一礼した。
「初めまして」
「野田諒介です。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
 諒介も挨拶をして一礼する。忠和は慌てて首を振った。
「いえいえ。こちらこそ誤解させてしまって……」
「いえ。元凶はこの馬鹿ですから。慶、ちゃんと謝れ」
 諒介はまだふてくされている慶一郎を忠和の前に引っ張った。嫌々ながらも忠和の前に立たされた慶一郎は忠和の顔を一度見上げてから、頭を下げた。
「すみませんでした。俺の早とちりで……」
「いいですよ。むしろ私には光栄でしたよ。勘違いされて」
 そう言って忠和は柔らかく笑う。その笑顔にホッとする。
「私よりも謝る相手がいるんじゃないですか?」
 忠和にそう促され、慶一郎はようやく気づいた。
「あ。江藤……」
 美奈子に向き直ると、頭を下げた。
「ごめん。変なこと言って……。俺……」
「酔ってたんだよね」
「え?」
 思わぬ切り返しに、慶一郎は顔を上げる。
「村西くん、酔うといつも変なこと言うんだから。だから気にしてないよ」
 美奈子の優しさに慶一郎は胸が苦しくなった。こんないい子なのに、何であんな勘違いをしたのか、自分が恥ずかしい。
「ホント、ごめん。さっきも俺、江藤に酷いこと……」
 店でのあの一件だって、自分のせいだと十分分かっている。自然と目線が下がった。
「だから、気にしてないって。顔を上げてよ。ね?」
 美奈子は優しく慶一郎の腕に触れると、慶一郎はようやく顔を上げた。
「これから皆さんはどこか行かれるんですか?」
 話の決着がついたと思った忠和はそう切り出す。
「あ、はい。カラオケに行こうかなって。後藤さんもいかがですか?」
 知華が答え、忠和を誘った。
「いえ。私は……。明日も仕事がありますし」
 忠和がやんわりと断ると、知華は残念そうな顔をした。
「そうですか。では、またぜひ一緒に」
「ええ。もちろんです。……美奈子さん。食事に付き合わせてすみませんでした」
 そう言われ、美奈子は慌てて首を振る。
「あ、いえ。私の方こそ……。ありがとうございました。あのまま一人で帰っていたら、こうしてみんなと会うことも、仲直りすることもなかったですから」
 美奈子の言葉に、忠和は嬉しそうに笑った。
 空気が穏やかになっていくのを、全員が感じた。
 それは忠和がいるからなのかもしれない。彼の放つ雰囲気は柔らかく、温かい。
「では、私はこれで」
 そう言って忠和が去ろうとするので、美奈子は頭を下げた。
「はい。お気を付けて。今日はありがとうござました」
 忠和は再び柔らかい微笑みを美奈子へ向けると、他の三人にも軽く頭を下げ、タクシーを拾うために歩いて行った。

「いい人そうじゃない」
 忠和が帰ると知華が開口一番そう言った。
「雰囲気が光くんに似てるでしょ?」
 美奈子の言葉に、知華はゆっくりと頷く。
「後藤さんとは連絡取ってるの?」
 知華に質問され、美奈子は頷いた。
「うん。時々ね。『ご飯食べに行きませんか』って誘ってくださるの。忙しいのに、わざわざ時間を空けてくださって」
「そっか。美奈子が思ったよりも元気そうだったのは、後藤さんのおかげだったのかもしれないわね」
 知華の言葉に、素直に頷く。実際そうだと自分でも思う。
 一人じゃ抱えきれない苦しい気持ちを、彼になら素直に吐き出すことができた。それを窘めることをせずに、ゆっくりと包んでくれると分かっているから。
「はっくしょい!」
 突然空気を壊す壮大なくしゃみが聞こえた。何かと思えば、慶一郎が鼻をすすっている。
「ごめん。早くどこか入ろう?」
 美奈子が口火を切ると、二次会の話に戻った。
「カラオケ、美奈子も行くでしょ」
「うん」
 正直歌うのは得意ではないが、みんなが楽しんでいるのを見るのは好きだ。
 四人は国道沿いにあるカラオケボックスへと向かった。

 流石に週末ということもあり、混んでいたものの、案外すんなりと部屋へ通された。
「よーっし! 歌うぞー!」
 慶一郎は早速デンモクを取ると、慣れた手つきで曲を入れ始める。諒介もパラパラと歌本をめくり始めた。
 知華は歌本を美奈子と見ながら、話しかけた。
「ねぇ美奈子」
 呼ばれ顔を向けると、知華はいつになく真剣な顔をしていた。
「何があっても、私は美奈子の味方だからね」
 突然、何故そんなことを言うのか分からない。だけど、その言葉に勇気づけられた。
「ありがとう」
 何だか泣きたくなってくる。こんなに優しくて、温かくて、心強い仲間が、自分の傍にいてくれることが本当に有り難い。
「よし。歌うぞ」
 早速入れた音楽が流れ出し、慶一郎はマイクを手に立ち上がった。
「江藤」
 隣に座っていた諒介に呼ばれ、美奈子が顔を上げると、諒介はいつになく優しい笑顔をこちらに向けていた。
「俺も、味方だからな」
 どうやらさっきの知華の言葉が聞こえていたらしい。
「うん。ありがとう」
 諒介は慶一郎を見やると、口を開いた。
「あいつも馬鹿で空気読まないヤツだけど、本当はすごく江藤のこと心配してんだぜ」
 そう言われ、美奈子も慶一郎を見やる。彼はノリノリで歌っていて、こちらが何の話をしているのか気づく様子もない。
 確かに空気読まなかったり、自分勝手に行動したりして、いつも諒介に怒られる。だけどそれだけ行動力は人一倍良くて、誰よりもみんなのことを思っていることを美奈子は知っている。
「うん。分かってるよ」
 そう言うと、諒介は満足そうに笑った。
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