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novela 【裏切り者】エントリー作品− 

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  ACT.2  友愛 2-2  

「で? みんなどうなんだ? 浮いた話の一つや二つ、ないのか?」
 慶一郎がそう言った瞬間、三人の顔が曇る。しかし慶一郎は空気が読めない男なので、そんなことに気づくはずがない。
「……ないよ! そんなの」
 知華が笑って誤魔化す。
「えー? そうなんか? 会社の同僚とかと合コンとかやんねーの?」
「やらないよ」
 二人が会話している中、美奈子は再び黒い物に包まれる感覚がした。
(ダメだ……。変な顔したらみんなに心配かけちゃう)
 そう言い聞かせて、平静を装うとする。
「何だよ。諒介は?」
「俺もねぇよ」
 諒介が冷たく答えると、慶一郎はまた不機嫌そうに顔を歪める。
「江藤は?」
 慶一郎はきっと何も考えずに話を振った。それは分かっているのだが、何だか上手く声が出てこない。
「あ、あたしも……ないよ」
「あれ? そうだっけ?」
「馬鹿」
 慶一郎の言葉に、諒介が冷たく言い放つ。それと同時に、我慢できなくなった美奈子は立ち上がった。
「江藤?」
 突然立ち上がった美奈子に慶一郎が声をかける。
「ごめん。トイレ」
 美奈子はそう言うと、席を外した。
「あれ? 不機嫌?」
 慶一郎は美奈子の背中を見送りながら呟く。
「ハァ……あんたホント空気読めないよね」
 知華は頭を抱えた。空気が読めない男だとは知っていたが、ここまで酷いとは情けない。
「つーか馬鹿だろ」
 諒介はやはり突き放した。
「へ? 俺、何か変なこと言った?」
 その言葉に二人が脱力する。
「馬鹿だとは知ってたがここまでとはな」
「ホント酷すぎる」
 諒介と知華の言葉の意味が分からず、慶一郎は余計に混乱した。
「え? え?」
 未だに分かっていない慶一郎に二人は再び呆れる。
「ホントにまだ分かんないの?」
 知華に駄目押しされるが、どう考えても思い当たらない。
 慶一郎の様子を見て、諒介と知華は目で会話をした。
「ちょ! 二人共何だよ! 俺の何が悪いんだよ!」
「お前は超が付く馬鹿だな」
 諒介は冷たく言うと、慶一郎の目が潤んだ。
「もう忘れたの? 美奈子の婚約者、亡くなったの知ってるでしょ?」
 知華の言葉に慶一郎は一瞬固まる。止まっていた思考が動き始めると、自分の言動の最低さにようやく気づいた。
「……ああー!!」
 大声で叫んでしまい、隣にいた諒介に後頭部を叩かれる。
「うるさい」
「やっべー。俺また空気読んでなかった!」
「今更気づいても遅いけどな」
 諒介にそう言われ、慶一郎は一気に青ざめた。
「どうしよー! 謝っても許してもらえないかな?」
「分からんけど、江藤のことだから……」
「帰るって言い出すかもね」
 諒介の言葉を知華が継ぐ。
「うわー。超やっべー」
「とりあえずどうやったら許してもらえるか、足りない頭で考えるんだな」
 諒介はそう冷たく言い放つと、ようやく来たお酒を少し口に含んだ。

 手洗い場の鏡に映る自分を見つめる。
 何て酷い顔をしているんだろう。今にも泣き出しそうで、情けない顔だ。
 大丈夫だと思っていた。話を振られても笑顔で対応できると。
 それなのに今の自分は何だ。笑顔で返すどころか、情けない醜態を晒しただけじゃないか。
「……馬鹿みたい」
 思わず自分を罵る。無理してここへ来て、せっかく集まったみんなに気を遣わせて、何をやってるんだろう?
 やっぱり来なければよかった。
 今更後悔したって遅いことは分かってる。だけどそう思わずにはいられない。
 空気を悪くしてしまった以上、自分がいてはダメだ。

 美奈子が席に戻ると、待っていましたと言わんばかりに慶一郎が立ち上がり、頭を下げる。
「江藤。ごめん!」
 突然謝られ、美奈子は驚いた。
「変な話、振っちゃって……」
「そんな……私も気まずくさせちゃったし……」
 美奈子は慌ててそう返す。その瞬間、一気に静かになった。
「……とりあえず座ったら?」
 知華の言葉で我に返る。慶一郎は素直に席に着いたが、美奈子は座ろうとしなかった。
「ごめん。私、帰るね」
「え?」
 美奈子の台詞に驚いたのは、他でもない慶一郎だった。
「何で? 何で帰るんだ?」
「せっかく誘ってくれたから来たんだけど、私……体調悪くて……。ちょっとお酒入って余計気分悪くなったから……」
 見え透いた嘘は知華と諒介には見破られるだろう。だけど、こうでも言わないと帰る理由にならない。
 瞬間、知華と諒介が目で会話をしたことに美奈子は気づいた。
「分かった。一人で帰れる?」
 知華の問いに頷く。
「うん。タクシーでも拾って帰るよ」
「そう。気をつけてね」
「うん。ありがとう。それから、村西くんごめんね。せっかくこっちに来たのに」
 そう言うと、まだ納得の行かない顔をしていた慶一郎だったが、珍しく引き下がった。
「ううん。俺も変な話してごめんな。気をつけて……」
「ありがとう。これ」
 美奈子は財布から一万円札と五千円札を取り出した。
「今日は私の奢り。だから、みんな楽しんでね」
「美奈子。多いよ」
 一人三千円なのだから、三千円多いことになるが、美奈子は首を振った。
「ううん。いいの。どうせ二次会とか行くでしょ。足りないかもしれないけど、使って」
 そう言うと、ようやく知華は納得した。
「分かった。じゃあご馳走様」
「ありがとうな」
 知華と諒介がお礼を言う。慶一郎は出遅れたと思い、慌てて口を開いた。
「ゴチ! ありがとう。また来るとき連絡するよ」
「うん。じゃあ、みんな楽しんでね」
 美奈子はそう言って別れを告げ、一人店を後にした。

「何で止めなかったんだよ」
 美奈子が帰った後、やっぱり納得していなかった慶一郎が文句を言う。
「止めたって、気分悪いのに楽しめないでしょ」
 知華はそう言いながらコースの料理を取り分けた。
「体調悪いとか嘘だろ?」
 慶一郎が珍しく言い当てたので、二人は驚く。
「よく分かったな」
 諒介がそう言うと、慶一郎はムッとした。
「俺だってそれくらい分かるよ」
「珍しい……」
 知華に言われ、更にムッとする。
「何だよ。俺のこと下に見過ぎじゃね?」
「当たり前だろ」
 あまりにもあっさりきっぱり言われたので、慶一郎は何も言い返せなくなる。
「まぁとにかく。これ以上、ここにいたって、美奈子は気にしてるだろうし、空気も悪いままだと思ったのよ。だから今回はしょうがないでしょ。誰かさんのせいで空気悪くなったんだから」
 知華の言う事が正論過ぎてやはり反論できない。
「だな。俺も帰らせて正解だと思うよ」
 諒介は相変わらずクールにお酒を飲んでいる。今は切り替わって焼酎だ。
「俺……どうしたら許してもらえるのかな?」
「許す許さないの問題じゃないだろ」
 間髪入れない諒介の言葉が胸に刺さる。
「こればっかりは時間しか解決してくれないのよ」
 知華の言う事も分かる。だけど、煮え切らない気持ちが渦巻いている。
「とにかく気持ち入れ替えて楽しもう? せっかく集まったんだから」
 知華の言葉に、二人は頷いた。
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