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novela 【裏切り者】エントリー作品− 

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  ACT.2  友愛 2-1  

 十一月半ばのある日。学生時代からの友人である平野知華からメールが入った。
『元気? 今度村西がこっちに来るらしいんだけど、久しぶりに飲み会やらない?』
 村西とは学生時代の男友達で、男女関係なく交流があった一人だ。今は地方で仕事をしているらしい。その彼がこっちに来るとなれば、仲が良かったグループが飲み会を開かないわけがない。
 予定の日付を見ると、金曜の夜だった。仕事が定時に終われば問題ない。
 美奈子は早速参加のメールを返信した。

 いつぶりだろうか? 学生時代の友人と会うのは。
 卒業してから、会う機会も少なくなりしばらく会っていなかった。それでもこっちにいる知華ともう一人の友人とは時々会っている。彼女も結婚式に来てもらえる予定だったのに……。
 暗い方へ考えが及んでいる事に気づき、美奈子は頭を振る。
「楽しみだな。飲み会」
 美奈子は予定を手帳に書き込み、その日を心待ちにした。

 それから一週間後の十二月直前の週末。美奈子は仕事を早めに終わらせると、待ち合わせ場所に向かった。
 そこには既に知華が来ていて、美奈子を見つけると手を振ってくれた。
「おーい。こっちこっち!」
 知華に言われ、美奈子は小走りに彼女に近づく。隣には同じく学生時代からの友人である野田諒介もいた。眼鏡をかけた優等生タイプの諒介と見かけは派手な知華は一見正反対なタイプなのだが、意外と考え方が似ているらしく、二人はとても仲が良い。
「知華! 野田くんも久しぶり」
 美奈子が近づくと、二人は笑顔になった。
「良かった。案外元気そうじゃない」
 知華はそう言って、美奈子の頬に優しく触れる。その手が温かくて、何だかくすぐったい。
「急、だったもんな」
 状況を知っている二人は美奈子を気遣った。その優しさに胸が温かくなる。
「ごめんね。心配かけて」
 そう言うと知華は首を振った。
「美奈子のせいじゃないでしょ」
 優しい言葉に泣きたくなる。
「お! みんな揃ってんな」
 聞き覚えのある声が頭上で響く。美奈子が振り返ると本日の主役、村西慶一郎がいた。
「よっ!」
 相変わらず彼は元気よく、風貌も変わっていなかった。短い黒髪と長身はやはり彼のトレードマークで、違うとすれば、それは彼がスーツを着ていることぐらいだろう。
「村西! 元気だった?」
 最初に声をかけたのは知華だ。
「おうよ。みんなも元気だった?」
 聞き返され、三人で頷く。
「んじゃま、寒いし、とっとと店行こうか」
 そう言うと知華は先頭を歩き、慶一郎と話ながら予約している店へと向かった。
 美奈子の隣には必然的に諒介がいる。
「江藤。もうだいぶ落ち着いたのか?」
 気遣う声が優しい。
「うん。てかまだ実感なくって」
「そうか」
 慶一郎はそれ以上聞くのを躊躇った。
「何か……気を遣わせてごめんね」
「え? あ、いや。そんなこと……」
「今日はさ、せっかくみんな揃ったんだから、何も考えずに楽しもうと思って。だから、気を遣わなくていいからね」
 美奈子の言葉に諒介は驚いたように目を見開いた。しかしすぐに穏やかな笑顔に変わる。
「お前も無理しなくていいからな」
「うん」

 お店はよくある居酒屋で、知華が予約してくれていた。案内された席には、美奈子と知華、向かいに慶一郎と諒介が座った。
「三時間飲み放題で三千円! 安いっしょ?」
 そう言いながら、知華はメニューを取り出す。
「一応このコースにしたんだけど良かったかな?」
 メニューに書かれたコースを見ると、デザートを含む十一品が出てくるようだ。
「十一品もついて三千円?」
 慶一郎が確認すると、知華は頷いた。
「そうだよ」
「やっす!」
 確かに安いと思う。知華はこうして安いのにボリュームがあるメニューがある店を探してくるのが上手い。なのでいつも集まる時の幹事は知華なのだ。
「じゃあとりあえず飲み物頼もう」
 知華はドリンクのメニューをみんなに見せた。
「やっぱ最初は生だろ」
 慶一郎がそう言うと諒介も頷く。
「俺もそれでいい」
「美奈子は?」
 知華に振られ、美奈子はメニューに目を通した。ビールが苦手な美奈子はカクテルにした。
「じゃあピーチウーロン」
「おっけ。すいませーん」
 知華が店員を呼び、注文をする。店員は注文を受けると、飲み放題とコースの説明をして下がった。
「それにしても久しぶりだな。元気だったか?」
 慶一郎は三人の顔を見ながら訊ねる。
「おう」
「毎日忙しいけどねー」
 諒介は短く答え、それを補うように知華がそう言った。
「江藤は? 仕事忙しい?」
 話を振られ、美奈子は頷いた。
「うん。年末だしね」
「やっぱりどこも年末は忙しいのかー」
 改めて確認するように慶一郎は言葉を吐く。
「今日は仕事でこっちに?」
 諒介が慶一郎に尋ねると、「そうそう」とめんどくさそうに頷いた。
「まぁおかげでみんなと会えたから良かったけどさー。明日も少し仕事してそのまま帰るから、今日じゃないとダメだったんだよ」
「なるほどね」
 何だか不思議な感覚だ。あの頃とメンバーは変わっていないはずなのに、それぞれが各自の仕事と生活をしている。同じ大学に通っていたあの頃とは何かが違う。
 それが時の流れというヤツなのだろうか。
「何か不思議だなー。学生んときと変わってないようで、何か違うもんな」
 美奈子は驚いて顔を上げた。今、自分が考えていた事と同じ事を慶一郎が口走ったからだ。
「同じ事思ったわ」
 知華が苦笑しながら告白する。
「俺も」
 諒介も笑った。
「実は、私も」
 美奈子がそう言うと、四人は顔を見合わせて笑った。やっぱり変わってない。
「なんだ。本当はあんま変わってないのかもな」
 慶一郎の言葉に三人は笑いながら頷いた。

 お酒が来ると、早速乾杯をして飲み始めた。そのうち料理も運ばれてきたので、四人は料理を食べながら近況報告を始める。
 それは仕事のことだったり、今の生活のことだったり。本当に当たり障りのない会話だった。
 どことなく胸が苦しくなってくる。知華と諒介はもしかして自分に気を遣っているんじゃないだろうか?
 もしかして自分は来ない方が良かったのではないか?
 そんな思いが頭のどこかで渦巻いている。
 笑顔の裏を詮索する自分に気付き、自己嫌悪に陥った。
 きっと三人はそんなことを思っていない。そう自分に言い聞かせる。
「美奈子? 大丈夫?」
 急に知華に声をかけられ、美奈子は顔を上げた。
「もう酔った?」
 知華は意地悪く笑う。その笑顔は学生時代と変わらず、優しい。
「ううん。何か懐かしくなっちゃって」
「そう? あ、もう空いてるじゃない。次、何頼む?」
 知華はメニューをもう一度美奈子に見せた。
 そうだ。こんなことで俯いてたら余計に気を遣わせてしまう。美奈子は気持ちを入れ替え、今この時間を楽しむことにした。
「じゃあ……カシスオレンジ」
「おっけー」
 知華は再び店員を呼び、グラスが空になった四人分の注文をした。
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