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novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.3 彼女の事情 3-3  

 放課後、由美は帰ろうとする真由子を呼び止めた。
「真由子」
 真由子はチラリとこちらを見て由美だと確かめると、めんどくさそうに口を開く。
「何?」
「話があるの。少しだけいい?」
 そう訊くと、真由子はゆっくりと頷いた。しかし取り巻きの二人は相変わらず真由子の傍にいる。
「真由子と二人で話がしたいの。少しだけ、外してくれる?」
 由美がそう言うと、真由子が「先に行ってて」と付け足した。それで二人は渋々真由子の傍から離れる。
「で? 話って何?」
 真由子とは前回の一件から話すことはできていない。だからきっとこんな態度なのだ。
「この間の話なんだけど……」
「この間? 『あいつに近づくな』って言ったこと?」
 真由子はすぐに思い当たったようだ。由美はゆっくりと頷く。
「そう」
「それがどうかした?」
 何を聞かれるのかと、真由子が身構えていることに由美は気づいた。だけど話をしないと、前には進めない。
『大丈夫。君ならできるよ』
 別れ際、そう言ってくれた翼の言葉が頭に浮かんだ。
(大丈夫)
 心の中でそう呟き、由美は口を開く。
「どうして真由子は、木元さんの事をよく思ってないの?」
 そう訊ねると、真由子は眉根を寄せた。
「どうしてって……。何でそんなこと言わなきゃいけないの?」
 強情な真由子はやはり言い返してきた。由美はギュッと拳を握った。
「あたしは……木元さんと仲良くしたいと思ってる」
 そう言った瞬間の真由子は驚きの余り、大きな目を更に見開いていた。
「何言って……」
「だけどあたしは、真由子との友情も捨てるつもりはない」
 その言葉に真由子は一瞬固まり、そして目を逸らす。
「だから教えて欲しいの。真由子が木元さんをよく思っていない理由を」
 真由子は由美から視線を外したまま、口を開いた。
「どうして言わなきゃいけないのよ。……あんたに関係ないでしょ!」
 叫んだ言葉は、由美の心に深く突き刺さった。
「関係……ない?」
 聞き返すと、後戻りできなくなった真由子はヤケになって言い放った。
「そうよ! あんたには関係ないことよ!」
 予想していたこととはいえ、本当に言われると胸が苦しくなる。だけど深く息をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「そう……。関係、ないんだ」
 声がしっかり出ているのかさえ、由美自身よく分からない。だけど真由子にはきちんと聞こえていたようだ。
「そう! だから言う義務はない!」
 言いたくない理由があるのなら、そう言えばいいのに。
 由美は心の奥で冷静にそう思った。真由子が不器用なのは、よく知っている。
「そう。じゃあ、あたしが木元さんと仲良くしても、真由子には関係ないよね」
 真由子の言葉を逆手に取ってそう言うと、真由子はキッと由美を睨んだ。しかし由美は怯まない。
「だってそうでしょ? 木元さんに近づいて欲しくない理由があたしに関係ないんなら、あたしが木元さんと仲良くする理由も、真由子には関係ないよね?」
 そう言うと、真由子はグッと拳を握ったのが目に入った。
「……好きにすれば」
 そう言い放つと、真由子は由美に背を向けて歩き出した。

『本当にいいの? 中田さん、強情っぽいから、きっと思ってないことを君に言ったりするかもしれないよ?』
 昼休みの翼との会話が頭をよぎる。
『いいの。あたしはもう、あの頃のあたしでいたくない。後悔したくないの』
 そう決心した。その気持ちに嘘はない。
『そう。谷沢さんがそう決めたんなら止めないけど……。でも本当にいいの? 中田さんとの友情が壊れるかもしれないんだよ?』
 翼はもう一度訊ねた。
『大丈夫。あたしは、壊したりなんかしない。……真由子はきっと、話せば分かってくれるよ。強情なところはあるけど、誰よりも温もりを求めている子だから』
 そう言うと、翼は少しの沈黙の後、口を開いた。
『分かった。だけど、これだけは覚えといて。何があっても、絶対に諦めないで。中田さんに何を言われても、友情が壊れそうになっても』
 由美はその言葉に深く頷いた。すると翼は優しく笑ってくれた。
『大丈夫。君ならできるよ』

 そう、壊しちゃいけない。壊すつもりはない。
 分かってるのに、遠くなる後姿を追いかけたいのに、足が動かない。
「追いかけないの?」
 不意に後ろから声がした。
 驚いて振り返ると翼が立っていた。由美はゆっくりと顔を戻し、真由子の後姿を見つめ、口を開く。
「追いかけたいけど、足がすくんで動けないの」
 そう言うと、翼はその手で由美の背中に優しく触れた。
「大丈夫。君ならできるよ」
 まるで魔法の呪文のようにそう呟くと、ゆっくりと背中を押した。
 何かの呪縛から解かれたように、右足が一歩を踏み出す。押し出された体を支えるように次の一歩も踏み出し、自然と走り出した。
「大丈夫」
 翼は由美の後姿を見ながらそう呟いた。
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