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novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.2 敵と味方 2-2  

 副委員長の優子は先生に何かと用事を頼まれることが多い。副委員長だから仕方のないことだが、今は委員長である健太がいないため、その仕事量は二倍になる。
 今日も優子は、放課後も残って先生に頼まれたプリントをまとめていた。
「まだ……帰らないの?」
 突然声がして、驚いて振り返ると、教室の入口に谷沢由美がいた。彼女はこのクラスの女子の中心グループの一人だ。まさか話しかけられるとは思っていなかったので、優子は驚いた。
「あ……先生に……頼まれたから……」
 そう言うと、由美は近づいてきて、向かいの椅子を引き、優子の目の前に座った。その行動に驚いていると、由美が口を開く。
「手伝うよ」
「え……でも……」
「一人より二人のが早く終わるでしょ」
 思わぬ展開に、優子は驚いて声が出せなかった。だけど勇気を振り絞る。
「あ……ありがとう」
 由美はプリントをまとめながら、話しかけてきた。
「木元さんって、どこの中学だったの?」
「……北中」
 何とか声を絞り出す。
「そっかー。じゃあ委員長と一緒だ?」
 聞かれたので頷いた。話しかけてくれるのは嬉しいが、うまく話せない自分が歯痒い。
「委員長と仲良いみたいだけど、付き合ってるの?」
 思わぬことを聞かれ、優子は思わず顔を上げた。
「え? あ……。え?」
 どう反応したらいいのか分からなくなるが、首を思いきり横に振った。
「そ、そんな、まさか……」
「何だ。違うの?」
 今度は縦に首を振る。
「健太くんは……幼馴染……」
 消えるような声でそう言うと、何とか納得してくれた。
「あー、なるほどね。漫画なら恋愛に発展するパターン多いけど、現実はそうでもないよね」
 由美はケラケラと笑った。確かにそうだと、優子も頷く。
「あたしも幼馴染いるけど、恋愛対象として見たことないし」
「幼馴染?」
 思わず聞き返したことに自分でも驚いた。
「うん。隣のクラスの清水健介。って知らないか」
 そう言って由美はまた笑う。優子はその名前に聞き覚えがあった。
「……知ってる。一年の時、同じクラスだった」
 そう言うと、由美は嬉しそうに笑った。そのキラキラとした笑顔が眩しくて、優子は視線を下に落とす。
「木元さ……」
「由美」
 突然教室に声が響いた。入口に顔を向けると、そこにはこのクラスの中心人物である中田真由子とその取り巻きの女子二人が立っていた。
「何やってんの? 帰るよ」
 真由子は優子を一瞥すると、そう言い放った。
「あたし、これ手伝って帰るから。先に帰ってて」
 由美の言葉に真由子が不機嫌になったのが、優子にも分かった。
「そんなの木元さんに任せとけばいいじゃない」
「そうよ。木元さんの仕事でしょ」
 真由子の言葉に便乗するように取り巻きが口を開く。
「木元さんの仕事って……これ、あたしたちが使うプリントだよ?」
 由美は負けじと言い返すが、真由子の機嫌を損ねるだけだった。
「だけど由美は関係ないじゃない。木元さんだって一人の方が作業しやすいだろうし」
 それは暗に『お前一人でやれ』と言われていることと同じだ。
 胸の奥が痛い。蓋をしたはずの記憶が蘇ってくる。
 だけど、今はだめだ。優子はグッと拳を握った。
「……いいよ」
「え?」
 か細い声に、由美は聞き返した。
「……もう、あとこれだけだし……一人で大丈夫」
「でも……」
「ほら、本人もそう言ってるじゃん」
 真由子は優子の言葉にほくそ笑んだ。
 由美は優子を見やるが、下を俯いているだけで、視線を合わせようとしない。だけどグッと拳を握りしめているのは見えた。
「そう……。じゃあ、あとよろしく」
 由美はそう言って立ち上がる。
「またね。木元さん」
 由美が去っていくのを、優子はまともに見られなかった。
(これでいい。これでいいんだ)
 自分に言い聞かせるようにそう心の中で繰り返す。
 自分はあの中には入れない。入っちゃいけない。だからこれでいいんだ。
 優子は握りしめた拳をゆっくりと離し、再びプリントをまとめ始めた。 ヨクは歩きながら、考え込んでいた。
(あれ……絶対死のうとしてたよなぁ……)
 一瞬目を疑ったが、確実に窓枠に足をかけていた。
 理由は、ヨクが一番知っている。
 でもどう助けになればいいのか、分からない。やはりコレばかりは本人の気持ちを変化させるしかない。
 自分に何ができる? どうすれば優子の心の闇を晴らすことができるんだろう?
 自問自答を繰り返しても、答えはそう簡単に出てこない。
 ポケットに手を突っ込むと、何かが指先に触れた。不思議に思いつつ取り出すと、それはダンに渡されたクレジットカードと現金だった。
『何かの役に立つだろうってミカエル様に頂いたものだ』
 そう言ってこれを手渡してきた。こんなもので何ができると言うのだろう?
「まずは……優子の心を開くこと」
 決意するようにそう呟くと、ヨクは再び歩き始めた。

 翌日。やはり憂鬱な表情で優子が登校して来た。人間に成り済ましているヨクは、翼として優子に近づく。
「おっはよー」
 元気よく挨拶すると、優子は驚いた表情をした。
 しまった。明らかにテンションを間違えた。
「お、おはよう」
 俯きがちにだが、挨拶が返って来た。それだけで何だか嬉しい。
 しかしクラスメートはどうして優子に挨拶するんだろう? と言う不思議な表情で見ている。だけど翼はそんなことを気にせずに、優子に話しかけた。
「見て見て。俺、ケータイ新しく買ったんだ」
 翼はそう言って、新機種の携帯電話を見せた。
「……そう」
 か細い返事が聞こえる。
「番号交換しよう?」
 そう言うと、優子は不思議そうに翼を見つめた。
「どうして?」
「友達になりたいから」
 翼の真っ直ぐな言葉に、優子は思わず顔を逸らす。
「ダメ?」
「……あたしなんかと友達になっても、何の得にもならないよ?」
 その言葉を聞いて、翼は悲しくなった。
「友達は損得勘定で決めるんじゃないだろ」
 優子がハッとして顔を上げると、翼は悲しそうに微笑んだ。
「それとも木元さんは、俺なんかとは友達になりたくない?」
 そう訊かれ、優子は慌てて首を振った。
「そんなこと……」
「じゃあ、友達になってくれる?」
 優子が頷くと、翼はこれ以上ないほど嬉しそうに笑った。
「ありがとう」

 携帯番号を交換し終わると同時にチャイムが鳴った。担任が入ってきてショートホームルームが始まる。
 優子は隣に座る翼を盗み見た。
 どうして彼は自分なんかと友達になりたいと言ったのだろう? 何故自分なんかに話しかけてくるんだろう?
 最初に挨拶したから? でも翼にはもう既にたくさんの友達ができているのに。
 だけど、正直嬉しかった。こんな自分と友達になってくれて。
『ありがとう』
 そう言って彼が笑ってくれたこと。
 お礼を言うのは、自分の方なのに、彼はそう言ってくれた。
 初めて自分の存在を認めてくれた気がして、そんな些細な言葉で胸の奥が暖かくなった。

 人間と言う生き物は、気に入らないことがあるとすぐに排他的になる。
「翼くん、どうして木元さんなんかとケー番交換したの?」
 休み時間、クラスの女子に囲まれ、そんなことを言われた。
「何で?」
「だって、木元さん暗いし、何考えてるか分かんないし、翼くんと釣り合わないじゃない」
 その発言に翼は呆れた。
「釣り合うか釣り合わないかで友達を選んでるわけじゃないよ」
 翼の言葉に女子たちは何も言い返せなくなった。
「君たちは木元さんの何を知ってるの?」
 そう訊いても、何も答えない。答えられるはずがない。翼はそれをよく知っている。
「知ろうともしない癖に、そんなこと言わないで欲しいな」

 副委員長の優子は先生に何かと用事を頼まれることが多い。副委員長だから仕方のないことだが、今は委員長である健太がいないため、その仕事量は二倍になる。
 今日も優子は、放課後も残って先生に頼まれたプリントをまとめていた。
「まだ……帰らないの?」
 突然声がして、驚いて振り返ると、教室の入口に谷沢由美がいた。彼女はこのクラスの女子の中心グループの一人だ。まさか話しかけられるとは思っていなかったので、優子は驚いた。
「あ……先生に……頼まれたから……」
 そう言うと、由美は近づいてきて、向かいの椅子を引き、優子の目の前に座った。その行動に驚いていると、由美が口を開く。
「手伝うよ」
「え……でも……」
「一人より二人のが早く終わるでしょ」
 思わぬ展開に、優子は驚いて声が出せなかった。だけど勇気を振り絞る。
「あ……ありがとう」
 由美はプリントをまとめながら、話しかけてきた。
「木元さんって、どこの中学だったの?」
「……北中」
 何とか声を絞り出す。
「そっかー。じゃあ委員長と一緒だ?」
 聞かれたので頷いた。話しかけてくれるのは嬉しいが、うまく話せない自分が歯痒い。
「委員長と仲良いみたいだけど、付き合ってるの?」
 思わぬことを聞かれ、優子は思わず顔を上げた。
「え? あ……。え?」
 どう反応したらいいのか分からなくなるが、首を思いきり横に振った。
「そ、そんな、まさか……」
「何だ。違うの?」
 今度は縦に首を振る。
「健太くんは……幼馴染……」
 消えるような声でそう言うと、何とか納得してくれた。
「あー、なるほどね。漫画なら恋愛に発展するパターン多いけど、現実はそうでもないよね」
 由美はケラケラと笑った。確かにそうだと、優子も頷く。
「あたしも幼馴染いるけど、恋愛対象として見たことないし」
「幼馴染?」
 思わず聞き返したことに自分でも驚いた。
「うん。隣のクラスの清水健介。って知らないか」
 そう言って由美はまた笑う。優子はその名前に聞き覚えがあった。
「……知ってる。一年の時、同じクラスだった」
 そう言うと、由美は嬉しそうに笑った。そのキラキラとした笑顔が眩しくて、優子は視線を下に落とす。
「木元さ……」
「由美」
 突然教室に声が響いた。入口に顔を向けると、そこにはこのクラスの中心人物である中田真由子とその取り巻きの女子二人が立っていた。
「何やってんの? 帰るよ」
 真由子は優子を一瞥すると、そう言い放った。
「あたし、これ手伝って帰るから。先に帰ってて」
 由美の言葉に真由子が不機嫌になったのが、優子にも分かった。
「そんなの木元さんに任せとけばいいじゃない」
「そうよ。木元さんの仕事でしょ」
 真由子の言葉に便乗するように取り巻きが口を開く。
「木元さんの仕事って……これ、あたしたちが使うプリントだよ?」
 由美は負けじと言い返すが、真由子の機嫌を損ねるだけだった。
「だけど由美は関係ないじゃない。木元さんだって一人の方が作業しやすいだろうし」
 それは暗に『お前一人でやれ』と言われていることと同じだ。
 胸の奥が痛い。蓋をしたはずの記憶が蘇ってくる。
 だけど、今はだめだ。優子はグッと拳を握った。
「……いいよ」
「え?」
 か細い声に、由美は聞き返した。
「……もう、あとこれだけだし……一人で大丈夫」
「でも……」
「ほら、本人もそう言ってるじゃん」
 真由子は優子の言葉にほくそ笑んだ。
 由美は優子を見やるが、下を俯いているだけで、視線を合わせようとしない。だけどグッと拳を握りしめているのは見えた。
「そう……。じゃあ、あとよろしく」
 由美はそう言って立ち上がる。
「またね。木元さん」
 由美が去っていくのを、優子はまともに見られなかった。
(これでいい。これでいいんだ)
 自分に言い聞かせるようにそう心の中で繰り返す。
 自分はあの中には入れない。入っちゃいけない。だからこれでいいんだ。
 優子は握りしめた拳をゆっくりと離し、再びプリントをまとめ始めた。

「由美。あんた何考えてんの?」
 廊下を歩いていると、真由子が突然そう訊いてきた。
「何が?」
「何であんな奴の手伝いなんかしてたの?」
 真由子の言葉に呆れながらも、由美は口を開いた。
「委員長、入院してるから大変だと思って」
 そう言うと、真由子は小馬鹿にしたように笑った。
「あんた、何で高村が入院したか、知ってんの? あいつ庇って怪我したんだよ?」
 それは健太の見舞いに行ったと言うクラスメートの男子から聞いた話だ。
「あいつが入院すれば良かったのよ」
「真由子。それは言い過ぎだよ」
 あまりの言いように嗜めると、真由子は睨んできた。
「何それ? あんた何イイコぶってんのよ」
「イイコぶってなんかないよ」
 そう言い返すと、真由子はジッと由美を見つめた。
「分かった。あんた、翼くんに言われたから、あいつに近づいたんでしょ」
『知ろうともしない癖に、そんなこと言わないで欲しいな』
 翼の言葉が反芻する。確かにそれはキッカケにはなった。けど、本当は……。
「それは、違う」
「何が違うのよ? だったら何で今まであいつと関わろうとしなかったのよ」
 そう言われ、言葉に詰まる。
「それは……」
「ほら見なさい。やっぱり翼くんにいい顔しようとしたんでしょ」
「だからそれは……」
 言い返そうとするが、真由子はそれを振り切った。
「今後一切、あいつと口利かないで。じゃなきゃ絶交だからね」
 真由子はそう言って睨むと、由美を置いて取り巻きの二人と帰って行った。
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