novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.2 敵と味方 2-1  

 ヨクは歩きながら、考え込んでいた。
(あれ……絶対死のうとしてたよなぁ……)
 一瞬目を疑ったが、確実に窓枠に足をかけていた。
 理由は、ヨクが一番知っている。
 でもどう助けになればいいのか、分からない。やはりコレばかりは本人の気持ちを変化させるしかない。
 自分に何ができる? どうすれば優子の心の闇を晴らすことができるんだろう?
 自問自答を繰り返しても、答えはそう簡単に出てこない。
 ポケットに手を突っ込むと、何かが指先に触れた。不思議に思いつつ取り出すと、それはダンに渡されたクレジットカードと現金だった。
『何かの役に立つだろうってミカエル様に頂いたものだ』
 そう言ってこれを手渡してきた。こんなもので何ができると言うのだろう?
「まずは……優子の心を開くこと」
 決意するようにそう呟くと、ヨクは再び歩き始めた。

 翌日。やはり憂鬱な表情で優子が登校して来た。人間に成り済ましているヨクは、翼として優子に近づく。
「おっはよー」
 元気よく挨拶すると、優子は驚いた表情をした。
 しまった。明らかにテンションを間違えた。
「お、おはよう」
 俯きがちにだが、挨拶が返って来た。それだけで何だか嬉しい。
 しかしクラスメートはどうして優子に挨拶するんだろう? と言う不思議な表情で見ている。だけど翼はそんなことを気にせずに、優子に話しかけた。
「見て見て。俺、ケータイ新しく買ったんだ」
 翼はそう言って、新機種の携帯電話を見せた。
「……そう」
 か細い返事が聞こえる。
「番号交換しよう?」
 そう言うと、優子は不思議そうに翼を見つめた。
「どうして?」
「友達になりたいから」
 翼の真っ直ぐな言葉に、優子は思わず顔を逸らす。
「ダメ?」
「……あたしなんかと友達になっても、何の得にもならないよ?」
 その言葉を聞いて、翼は悲しくなった。
「友達は損得勘定で決めるんじゃないだろ」
 優子がハッとして顔を上げると、翼は悲しそうに微笑んだ。
「それとも木元さんは、俺なんかとは友達になりたくない?」
 そう訊かれ、優子は慌てて首を振った。
「そんなこと……」
「じゃあ、友達になってくれる?」
 優子が頷くと、翼はこれ以上ないほど嬉しそうに笑った。
「ありがとう」

 携帯番号を交換し終わると同時にチャイムが鳴った。担任が入ってきてショートホームルームが始まる。
 優子は隣に座る翼を盗み見た。
 どうして彼は自分なんかと友達になりたいと言ったのだろう? 何故自分なんかに話しかけてくるんだろう?
 最初に挨拶したから? でも翼にはもう既にたくさんの友達ができているのに。
 だけど、正直嬉しかった。こんな自分と友達になってくれて。
『ありがとう』
 そう言って彼が笑ってくれたこと。
 お礼を言うのは、自分の方なのに、彼はそう言ってくれた。
 初めて自分の存在を認めてくれた気がして、そんな些細な言葉で胸の奥が暖かくなった。

 人間と言う生き物は、気に入らないことがあるとすぐに排他的になる。
「翼くん、どうして木元さんなんかとケー番交換したの?」
 休み時間、クラスの女子に囲まれ、そんなことを言われた。
「何で?」
「だって、木元さん暗いし、何考えてるか分かんないし、翼くんと釣り合わないじゃない」
 その発言に翼は呆れた。
「釣り合うか釣り合わないかで友達を選んでるわけじゃないよ」
 翼の言葉に女子たちは何も言い返せなくなった。
「君たちは木元さんの何を知ってるの?」
 そう訊いても、何も答えない。答えられるはずがない。翼はそれをよく知っている。
「知ろうともしない癖に、そんなこと言わないで欲しいな」
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