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ACT T 出逢い 「芹華!」 芹華は先輩のパスを受け、3Pシュートを放った。ポスッと気持ちのよい音がして、綺麗に入る。一気に歓声が沸く。そこでちょうど試合終了の笛が鳴る。 「やったやん。芹華の1人勝ち!さっすが小学校からバスケやってるだけあるわ。」 先輩が後ろから背中を叩く。そう、彼女はバスケをしていた兄の影響で、小学校のときからやっているのだ。おかげで身長が170pもある。実は結構コンプレックスだったりする。かわいい女の子でいたいのに。髪を伸ばしてもカッコイイ女に見られてしまう。男の子たちは芹華のコトを男友達としかみてくれない。おかげで彼氏ができない。最近ではもう諦めかけている。 「芹華。」 聞きなれた声がした方に向くと、幼馴染でしかも隣に住んでいる水槻遼平が入り口に立っていた。その後ろには小学校のときからの遼平の友達である、朝倉響介がいた。芹華は2人のところへ行った。 「芹華サン、良かったっすよ〜!さっきの試合。めちゃめちゃカッコ良かったっス!」 響介が遼を割って話しかけてきた。 「あっ、ありがと。」 響介の力のこもった話し方にちょっと迫力負けしてしまった。その後遼平達は男子バスケ部に入部した。 『彼』に初めて逢ったのは男女混合で新入生の歓迎会をしていたときだった。彼は遼平と同じクラスで名前は赤樹哲哉。彼は185pという身長のため、遠野(男子バスケ部部長)にスカウトされたのだった。彼は意外に上手くて、遼平たちはもちろん誘った張本人である遠野も正直驚いていた。綺麗な顔立ち、スポーツ万能の秀才。そしてクールというのがうけて、体育館の周りはいつも女の子が群がっていた。また彼は普段は眼鏡をかけているのだが、部活のときはしていないので彼の素顔を見ようとする人が多かった。しかし黄色い声援を浴びても顔色一つ変えなかった。それがまたうけた。いつの間にか遼平たちと仲良くなっていた。響介はイジメられやすい性格なのか、この2人の毒舌に耐え切れず芹華に泣きついてくることが、しばしばあった。 「せーりーかーさぁーん。」 「何?響介。」 「遼と哲哉がオレのコト、イジメるぅー。」 まるで小さい子供のようだ。 「よしよし。」 芹華は仕方なく響介の頭を撫でた。 「嫌ならここにおればええよ。向こう行ったらまたイジメられるんやろ?」 「芹華サン。やっぱ 「遼と一緒にせんといてよ。」 芹華はツッコんだが、胸にズキッと突き刺さった気がした。『いい人』。今まで何回言われただろう。好きだった男の子に言われた言葉が蘇る。 『やっぱお前っていい その場では笑うしかなかった。「そう?やっぱり?」と苦笑いした。好きだという気持ちを押し込めた。それから数日後、彼が 『カワイクナレナイ。』 なりたくても、この身長ではカワイイ服は似合わない。自然とボーイッシュになってしまう。 「芹華さん?大丈夫っすか?」 響介が不思議そうに覗き込んでいる。その言葉で我に返った。 「えっ?ああ、大丈夫よ。何でもない。」 芹華は手をひらひらと振った。思い出すのはよそう。辛いだけだ。帰ってこない響介を彼が迎えにきた。 「やだ。向こう行ったら、またお前らイジメるやんか。」 響介は必死に抵抗している。よっぽど嫌なのだろう。芹華の後ろに隠れる。肩越しに哲哉を見る。哲哉はため息を 芹華はいつものように朝練をするため、誰もいない体育館に足を踏み入れた。しかし、すでに誰かが来ていた。いつもは芹華1人の自主練なのに・・珍しい。 「赤樹くん?」 声をかけると、シュート練習をしていた彼の手が止まった。 「萩原先輩・・。」 芹華の名前を知っているのは、きっと遼平にでも聞いたのだろう。 「どしたん?朝練?」 「ええ。まぁ。」 彼は少し照れたように答えた。芹華は転がっているボールを1つ拾った。 「ねぇ。1on1、やらん?」 芹華の唐突すぎる提案に哲哉は少し戸惑った。しかし、すぐに笑顔を浮かべた。 「いいっすよ。でも、手加減しませんよ。」 「望むところよ!」 こうして2人は予鈴が鳴るまでずっと1on1をしていた。 それからは毎日2人で練習するようになった。たまに取る休憩のときには、お互いのことを話すようになった。 哲哉はなんと《赤樹コンツェルン》という建築業界で5本の指に入ると言われている大会社の御曹子だった。だからこの学校に入学したらしい。(本当は半強制的だったらしいが。) ここの学校は工業科と工芸科が一体化している、珍しい高校なのだ。ちなみに芹華はデザイン科で哲哉たちは建築科である。また哲哉には2人の兄がおり、今その2人はそれぞれ海外に留学しているらしい。 芹華はというと、6人兄弟の上から3番目で上には姉と兄が1人ずつ、下には妹1人に弟2人だ。はっきり言ってうるさい。特に下2人。 そんな家族の話をしているとき、哲哉を見るとなぜか寂しそうな目をしていた。だが、そのとき芹華は哲哉がなぜそんな目をするのか、理解できなかった。 1学期が終わる頃には、芹華と哲哉はとても仲良くなっていた。一部の女子の反感を買ったが、芹華はカッコいいと評判で女子にもモテる。 だからあまり問題にはならなかった。つき合ってもいないのに、お似合いの2人だと校内中に噂が広がった。2人はあまり気にしない性格なので、噂のことは訂正しなかった。 しかしいつまでもこんな生活が続くわけではなかった。 |