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STAGE 6  真実
町を出てしばらくすると、突然視界が開いた。ただ一面の荒野。道すらなく、草木も茂っていない。ルカは息を飲んだ。
「方向・・合ってる・・よね?」
確認するようにマリアに尋ねる。
「はい。こっちで合ってます。」
マリアは太陽の位置を確認して、そう言った。
「よし。行こう。」
「はい。」
2人は一歩を踏み出した。しばらく歩くと、ロッピーがきょろきょろと辺りを見渡し始めた。
「どうしたの?」
肩に乗せていたマリアが問う。
「ピィ!!」
何か焦ったように言った。
「どうした?」
「ピィ!!!」
『そっちに行っちゃダメ!!』
突然ルカの頭に直接声が響いた。
「え?」
突然の事で驚く。
「どうしたんですか?」
マリアには聞こえていないようだ。
「今・・そっちに行っちゃダメって・・。」
ルカの言葉にマリアは首を傾げた。でも確かにそう聞こえた。
「今のは・・ロッピーが?」
「ピィ。」
『そう。近づいてきたからきっと聞こえるようになったんだね。』
ルカは不思議とロッピーの言葉を聴いた。
「聞こえるようになったって・・どういう・・。」
「ピィ。」
『今その事を話してる暇はない。来るよ。』
ロッピーはそう言うと、西の方角を見据えた。マリアには何も聞こえないらしく、首を傾げたままだった。ルカはロッピーが見据えた方向を見た。何かの気配がした。ルカは剣を構え、気配を探った。マリアも気配に気づいたようだった。詠唱を始め、防御を張ろうとする。
「待って。」
ルカが制止する。マリアは詠唱をやめた。ルカは気配に集中した。
「へー。逃げないんだ。」
現れたのは、綺麗な女の人だった。
「お前は誰だ。」
「お前なんて・・口の悪い子ね。せっかく迎えに来てあげたのに。」
「迎え?」
『気をつけて。』
ロッピーが言う。ルカは頷く。
「迎えって・・何のだ?」
「コレ、探してるんでしょう?」
彼女は石を取り出した。
「それはっ。」
「気になるんでしょう?コレ。」
ルカはマリアと顔を合わせた。
「もちろん、貴方1人だけじゃなく、そのお嬢さんにも来てもらうわよ。」
「拒否権なんて・・ないんだろ?」
「もちろんよ。嫌でも来てもらうわ。」
彼女は不敵に笑った。ルカはマリアと目を合わせた。
「分かった、行くよ。行けば・・全部分かるんだろ?」
「そうよ。貴方が疑問に思ってること総て解決するわ。」
「マリア。行こう。マリアの事は守るから。」
「はい。」
『ルカ、気を抜くなよ。』
ロッピーに言われ、「分かってるよ。」と答える。そしてルカたちは女の人に着いて行った。

女の人に連れられ、ルカたちは荒野のど真ん中に立っている門の前に立った。
「こんなことを言うのも変だけど・・。何があっても後悔しない?」
女の人が立ち止まり、ふとそんなことを聞かれる。
「今更何言ってる。俺はとっくに前から覚悟してるよ。」
ルカはそう答えた。
「あたしも覚悟してます。」
マリアは強くそう言った。
「そう。ならいんだけど。生半可な覚悟じゃ、壊れるのは貴方たちよ。」
「それってどういう・・。」
「さぁ、この門をくぐって。ここを通れば総てが終わるまで出れないわよ。」
ルカの言葉を遮るようにそう言った。
『気をつけてね。でも忘れないで。僕はずっとルカの傍に居るからね。』
「うん・・。」
ロッピーの言葉がルカを勇気付けた。
「行くよ。」
そう言ってルカたちは門をくぐった。

突然風景が変わる。荒野だったはずの場所は、手入れが行き届いた楽園のような場所だった。
「ココは・・一体・・。」
「こっちよ。」
何の説明もせずに女の人は歩き始めた。ルカたちは慌てて着いて行った。

着いた先には大きなお城のような建物が聳え立っていた。声も出ない。何故か圧倒される。
「さぁこっちへ。」
女の人に連れられ、建物に入る。そして大広間のような場所に通される。
「やぁ、来たね。」
偉そうに大きな椅子に座っている人物がこちらを見てそう言った。
「ココは一体・・貴方は誰ですか?」
ルカは注意深く聞いた。
「そうだね。こう言えば分かるかな?君の両親を殺すように命じた者。」
そう聞いてルカは睨み付けた。
「お前が・・・。」
『落ち着いて。ルカ、話を聞こう。』
ロッピーの言葉に、ルカは落ち着こうとした。
「どうして・・。」
「どうして?気に食わなかったからだよ。」
あっさりと言い放った男にルカは剣を抜いた。
「そんな理由で!!」
「あいつらは僕に逆らったからね。逆らって君を誘拐した。」
「え?」
男の言葉の意味が分からず、ルカは剣を構えたまま固まった。
「君はあいつらの実の子じゃない。」
頭の中が混乱してくる。血が繋がった親じゃない。
「そんな・・バカなっ・・。」
「何も・・知らなかったんだな。まぁ・・あいつらが言うとは思えないけど。」
男はそう言いながら余裕でワインを飲み干した。
「じゃあ・・俺は何者なんだっ!何で父さんたちが殺されなきゃならなかったんだ!お前は誰だっ!!」
ルカは一気に叫んだ。
「そう興奮するな。僕の紹介がまだだったね。僕はゾルグ。この世界の安定を保つためにこの城にいる。」
「あん・・て・・い?」
意味が分からない。
「この世界は僕の力で安定を保ってるんだよ。だから君たちは安全に生きていけるんだ。でもそれもバランスが崩れてきた。」
ダークの件を思い出す。
「魔物が横行し始めた。もう僕の力が尽きてきているのだ。」
「それが・・俺と何の関係が・・。」
「君が僕の跡継ぎなんだよ。」
「は?」
ルカはよく分からないまま、ゾルグの話を聞いた。
「跡継ぎ・・?」
突然そんなことを言われても困る。と言うか話が見えない。
「そう。僕の跡を継いで、この世界の安定を・・。」
「ちょっと待ってよ!・・・どういうことか・・全然分かんないよ・・。」
ルカは必死で頭の中を整理しようとした。世界の安定とか、後継ぎとか、訳が分からない。
「あのぉ・・。」
黙って聞いていたマリアが口を挟む。
「ルカさんも私も、突然連れて来られて、まだ混乱してて・・。できれば最初から話していただけませんか?」
「そうか。そうだね。あいつらは何も話してなかったようだしね。」
ゾルグは溜息混じりに言った。
「いいだろう。こっちへおいで。何も食べてないんだろう?」
そう言うゾルグの後をついて行った先は、大きな食事室だった。
「かけてお食べ。何も食べていないんだろう?」
ルカたちが席に着くと、食事が運ばれてくる。手をつけようとしないルカにゾルグが不思議な顔をする。
「食べないのか?」
「教えてください。俺の本当の親は?どうして・・父さんたちは俺を誘拐なんか・・・。」
ルカの問いに、ゾルグはルカの目の前に座った。
「君の本当の親はね、僕だよ。」
「っ!?」
思ってもみない答えにルカは声が出なかった。跡継ぎといわれた時点で気づくはずなのだが、混乱していてそこまで頭が回っていなかった。
「あいつらは・・この世界の安定の仕方がおかしいと言った。確かにそうかもしれない。1人が命を削ってこの世界を安定させるなんて。」
「命を削る・・。」
「そうだよ。この世界を安定させるってことは、命を削ってまでしないといけない。でもそうしないとこの世界は崩壊してしまうんだ。崩壊したらどうなると思う?」
「・・・?」
ルカは首を傾げた。
「世界の破滅。生物が生存することができない状態になってしまう。」
「!?」
「それは飽くまで推測だけどね。ずっと語り継がれてきたものだから、どこまで本当かは分からない。」
「じゃあ・・誘拐したのは・・。」
「君の養母は、元々乳母だったんだ。きっと情が移ったんだろうね。だから命を削ってまで、君にこんな仕事をさせたくなかったのだろう。」
ルカは優しかった母の笑顔を思い出す。
「苦労したよ。君を取り戻すのに15年かかった。」
「だから・・父さんたちを・・殺して・・僕を・・。」
ルカは込み上げてくる感情を必死で抑えた。
「本当はあの時点で君を迎えるつもりだった。でも少し見てみたかったんだ。君がどこまで来れるか。」
「試した・・ってこと・・?」
「そうなるな。でも君はちゃんとあそこまで辿り着いた。」
迎えが来た所まで。
「俺は・・そんなことを望んでたんじゃない!!」
ルカは立ち上がった。剣を抜く。
「俺は・・父さんたちを殺した奴を殺しに来たんだ!!」
あの日誓った。絶対に復讐すると。
『待って!!ルカ、ダメ!!!』
ロッピーが叫んだが、ルカの耳には届いていなかった。
「おらぁっぁぁぁあああああ!!!!」
力の限り剣を振り上げ、ゾルグに振り下ろす。ゾルグは逃げることすらしない。
ふとルカの視界に何かが飛び込んでくる。寸前で止めようとして、少しかする。
「ロッピー!!」
剣先が少し触れただけだが、体の小さいロッピーには深い傷だった。
「何で・・。こんなやつのために・・!」
ルカの目からずっと堪えていた涙が溢れる。
『まだ・・終わってないからだよ・・。』
痛みを堪えながら、ロッピーはそう言った。
「終わってないって・・どういうこと・・?」
その時ロッピーの体が光に包まれ始める。
「えっ!?ロッピー??」
「・・・。」
ゾルグが黙って見守った。マリアも呆然としている。
光に包まれたロッピーの体は、そのまま宙に浮き、空中で光が分散する。
何が起こったのか分からないまま、ロッピーの姿が消える。次の瞬間、光は元のように形を形成しながら集まった。
ルカの目の前に現れたのは、今までのロッピーと全く違っていた。ルカはただ言葉を失っていた。目の前に現れたのは、男の人だった。
「ロ・・ピー・・?」
確かめるように問う。
「そうだよ。」
穏やかに答える。
「え・・何で・・?」
ルカは頭が混乱してきた。目の前に居るのは、全く知らない人だ。
「魔法が解けたか。」
ゾルグは冷静にそう言った。
「ですね。」
「え・・どゆこと・・?」
混乱しているルカは、事態が読み込めない。
「初めまして、と言うのもおかしいね。君の安全を守るために魔法で姿を変えてたんだ。僕の声が聞こえるようになったのも、この城に近づいていたからだよ。」
声は確かに途中から聞こえたロッピーの声だ。
「安全って・・。」
「さっきゾルグ様が仰ったように、君は誘拐されたんだ。僕は君のことが心配で、コッソリ着いて行ったんだ。でもこのままの姿ならあの2人にきっと殺されると思ったから、姿を変えて君の近くにずっといた。」
「・・・・。」
言葉が出てこない。必死で頭の中を整理する。
「あのぉ・・。」
マリアが口を挟む。
「今関係ないと思いますけど・・この石とか・・今まで起きた事件とか・・全部関係あるんですか?」
ゾルグとロッピーは顔を見合わせた。
「話さなきゃ、いけないよね。マリアのお師匠さんのこととかも全部。」
ロッピーは口を開いた。
「どういうこと!?ロッピー。何か知ってるの?」
ルカはロッピーに掴み掛かる勢いで聞いた。
「落ち着いて。座って。」
ロッピーはルカを椅子に座らせた。
「分かってることを話すよ。だから、落ち着いて聞いて。」
ロッピーの言葉にルカは頷いた。
「まずこの石を持ってる組織ね。」
ロッピーは石を取り上げた。
「これは・・今の体制に反発している組織。ゾルグ様に背いて世界を作り直そうとしている組織。」
「作り直す・・?」
「そう。一度破滅をもたらし、そこからまた再生するという考えを持っている。そのためにルカを誘拐したんだ。跡継が居なくなれば、ゾルグ様が居なくなった後、誰も跡を継げないからね。」
「・・そっか・・。」
妙に冷静になってきた。少しずつ頭の整理をする。
「世界を作り直して、どうしようとしていたんですか?」
マリアの問いに、ロッピーは首を傾げる。
「さぁ。そこまでは・・。」
「私の師匠も関わってたってことですよね・・。」
「関わり方は違うよ。」
ゾルグが言った。
「君の師匠であるエレインは私の命令で君の住んでいた村に密偵として行ったんだ。」
「密偵・・。」
マリアが呟くと、ロッピーが「そう。」と口を開いた。
「僕はルカをさらった2人の動向を、エレインは村の人の動向を見るためにね。」
「村の人って・・じゃあ村全体で関わっていたって・・ことですか・・。」
「残念ながらね。」
マリアの問いにそう答える。2人は頭を整理しようと必死だった。
「・・じゃあ・・師匠はっ?何で居なくなっちゃったんですか?無事なんですか?」
マリアがふと気づく。
「ごめんなさい。マリア。心配をかけて。」
「師匠!」
声のした方を見ると、美しい女性が立っていた。マリアの師匠らしい。
「良かった・・無事で・・。」
泣き出しそうな声でそう言った。
「何も言わずに出て行って、ごめんなさい。」
マリアは溢れる涙を抑えながら、首を振った。
「そん・・な・・無事で・・よ・・かた・・。」
「あれ以上・・あの村には居られなかったの。正体がバレそうになった。もし正体がバレてしまったら、貴女にも危害が及ぶと思ったの。仲間だと・・思われるから。」
「でも・・・何で言ってくれなかったんですか?」
「貴女には安全に・・暮らして欲しかったの。・・結果的には・・関わることになってしまったけど。」
エレインは伏せ目がちにそう言った。マリアは涙を流しながら、首を振った。
「こんなときに言うのも・・あれ・・だけど・・マリアの本当の両親って・・?」
ルカが問うと、エレインは少し躊躇した。ロッピーと目で会話する。
「私の子よ。正真正銘、血の繋がった・・。」
意外な答えにマリアは涙が止まった。
「ぇ・・。」
「マリアは私の子。でもあの村に居る以上、本当の親子だと知られてたら、私の正体がバレた時、貴女も殺されると思ったの。だから・・。ごめんなさい。嘘を吐いてて・・。」
「じゃ・・じゃあお父さんは・・・?」
マリアは思わずそう聞いた。
「僕だよ。」
ロッピーが答える。
「えぇ!?」
今度はルカも驚いた。
「嘘・・だろ・・。」
「ホントだよ。」
ルカの言葉にロッピーが答える。
「嘘だー!ロッピーってそんな歳食ってたのかっ!!」
「失敬な。」
「一体何歳だと思われてたんだ?」
ゾルグが冷静に突っ込む。
「20そこそこかと・・。」
「若く見られて良かったな。」
ゾルグは嫌味げに言う。
「まぁ歳はどうでもいいでしょ。」
話題を逸らすように、マリアに向き直る。
「ずっとマリアのこと、見守っていたよ。」
ロッピーがマリアの頭を撫でると、マリアはまた涙した。
整理しきれないルカの頭はまた混乱してきた。マリアがロッピーの子供・・。
「あー、それと僕の本当の名前はロキだから。」
モンスターの姿のときにルカが名づけたのだが、人間の姿に戻った今は違和感があるらしい。
「えーっと・・。あのさ・・。最初の村が火事になったのは?」
ルカはどうにか整理しようと、順番に質問をすることにした。
「それは私が魔法を送ったから。マリアが巻き込まれないように、貴方と合流してからね。」
エレインが答える。
「何で俺と合流したって・・。」
分かったんだろう、と思ったが、すぐに予想がつく。
「僕が連絡したんだよ。」
ロッピー・・じゃないロキが答える。
「マリアの家に着いてからね。」
「でもマリアと会ったのは、偶然だったはずなのに。」
「僕もびっくりしたよ。でも、これはチャンスだと思った。あの村の者は全員事件と関わっていた。と言うか関わっている者があの村を作ったんだ。」
「それで、火事で・・・。」
そうだと頷く。
「じゃあ・・この石を持っていた人が殺されたのも・・。」
「他の精鋭部隊が任務を遂行したんだ。」
「ジョージも・・関わってたの・・・?」
信じられないと言う様子でルカが呟く。
「あれは・・僕らのせいじゃないよ。ジョージのお兄さんが関わっていたのは本当らしいけど。」
「それも調べたわ。彼のお兄さんが殺されたのは、あの組織に逆らったからよ。」
「じゃあ、ジョージさんが殺されたのは・・?」
エレインの言葉にマリアが問う。
「その組織のせいね。きっと。事情はよく分からないけど・・。」
「じゃあ・・クリスたちの親が居なくなったのは?」
皆あの石を持っていた。
「動こうと・・しているのかもしれない。」
ロキが冷静にそう言った。
「動くって・・・?」
「世界を作り直すために・・。」
「・・・。」
言葉が出ない。
「いずれ・・ここに乗り込んでくる。まぁ・・見つかればの話だが。時間の問題だろう。居なくなったものたちはディアノスのせいにして、自分たちが失踪したように見せかけているしな。」
「俺は・・どうしたらいい?」
「選べ。」
ゾルグが答える。
「選ぶ?何を?」
「僕の跡を継ぐか、あの組織のように、この世界を終わらせて新しく作るか・・。」
「そんな・・決められないよ!」
「決めなきゃいけないんだよ。ルカがね。」
ロキがなだめるように言う。
「でも・・。」
そんな重大なこと、自分に決められるはずがない。
「この世界を・・どう思う?」
「え?」
突然のゾルグの質問にルカが聞き返した。
「今ある世界は、完璧だと思うか?」
「・・・。」
質問の意図がよく分からないが、ルカは考えた。
「悪くはないと思うけど・・。でも完璧じゃない。」
皆が安心して暮らせるような世界じゃない。
「そうだな。」
「でもどうしたらいいのか・・分からない・・。何か・・いろんなことがありすぎて・・頭がパンクしそう。」
ルカは頭を抱えた。
「一気に話しすぎたかな?」
ロキが心配そうに言った。
「少し・・整理したいから、1人にさせて欲しい。」
「いいだろう。部屋を用意するよ。」
ゾルグは部下に命じ、ルカを1人にできる部屋に案内させた。
ルカは1人になって、今まで起きたことを考えていた。
この旅が始まったのは、両親が・・育ての親が殺されたからだった。ルカは復讐を誓い、旅を始めた。友達のロッピーを連れて。
そして山から降りた村で、マリアに会った。マリアの師匠も失踪し、一緒に旅をすることになった。その夜、村が火事になる。ルカとマリアは難を逃れたが、村全体は火の海に焼かれてしまった。
ロッピーは・・モンスターじゃなくて、ロキという名の人間だった。一緒に旅をしていたマリアのお父さん・・。マリアの師匠と思っていた人がエレインという名の実の親・・。村を焼いたのも、エレイン。ロキもエレインも、ルカの実の父であるゾルグの命令で密偵をするためにあの村にいた。
父さんたちも関わっていたあの石の組織。よくは分からないが、ルカの命をもしかしたら狙っているのかもしれない。
この世界を作り直す。それが間違ってるのかとか、正しいとか、そんな問題じゃない。もう・・無意味に人を殺されるのを見たくない。
ルカは拳を強く握った。
じゃあ・・どうすればいい?何が一番いい方法なんだろう?
ルカは窓の外を見た。日は落ち、空には蒼白い光を放つ月が浮かんでいた。
どれが一番正しい答えかなんて分かる訳ない。世界は・・何を望んでいるのだろう。自分は・・何を望むのだろう。
1人で考えていても無限ループのように、頭の中をグルグルと回るだけだった。

「ルカさん・・大丈夫でしょうか・・。」
マリアが部屋を出て行ったルカを心配する。
「大丈夫だよ。ルカならきっと正しい答えを出せるさ。」
ロキが答える。
「あの子は・・どんな答えを出すんだろうね。」
ゾルグが呟いた。誰も答えを期待していない。ルカが出す答えが、今後の世界に影響する。今1人の少年の肩に、この世界が託されている。どんな答えが出たとしても、皆ルカの言う通りに行動しようと決めていた。事情を知ったマリアも含めて。
「何か・・近づいてる・・。」
マリアが呟いた。
「ホントだ。マリア、よく気づいたわね。」
エレインが褒める。
「近づいてるって・・何が?どこまで来てるの?」
ロキが問う。
「まだだいぶ遠いけど、多分・・あいつらじゃないかしら。」
「もう・・来てるのか・・。」
「見つかるのも・・時間の問題だろうな。」
冷静にゾルグが言う。せめて見つかる前に答えが出ればいいのだが。マリアは蒼白く光る月を眺めた。

ルカはロキを部屋に呼んだ。
「聞きたいことがあるんだ。」
「何?」
「もし・・この世界を変えたいとしたら・・どうしたらいい?」
「世界を変える?」
ルカの質問を怪訝そうに聞き返す。
「変えるってのも変かもしれないけど・・。分かんないんだ。どうしたらいいのか。」
ルカは俯いた。
「・・ルカ・・。」
「1つだけ分かってることは。」
そう言いながらロキを見つめた。
「もう誰も血を流して欲しくない。」
ルカの言葉に、ロキはゆっくりと頷いた。
「うん。僕もそうだよ。でもね、それは無理だと思う。」
「やっぱり・・無理なのかな?誰の血も流さないって言うのは・・。」
「恐らくね。」
「何か・・方法はあるんじゃないの!?」
ルカはロキの腕をつかんだ。
「ねぇ!」
「分からない。でも・・時間もないことは確かだよ。」
「え?」
「あの組織が・・こっちに向かってるようだ。エレインとマリアがそう言ってる。」
ロキの言葉にルカは動揺した。
「下手すると、ゾルグ様だけじゃなく、皆殺しかもしれない。」
「・・・。」

その日の夜遅く、ルカは与えられた部屋で眠れずに窓の外を眺めていた。
もう一つ聞いていないことがあったと、突然思い出し、部屋を出る。もう寝ているかもしれないが、もしかしたら起きてるかもしれない。ルカは教えられたゾルグの部屋に向かった。扉をノックする。
「どうぞ。」
すぐに返事があり、ルカは扉をゆっくりと開けた。
「どうした?眠れないのか?」
ルカが頷く。
「もう一つ、聞きたい事があったんだ。」
「何?」
「俺の・・お母さんは・・?」
ゾルグが父親だということは聞いたが、母親の話を聞いていなかった。
「・・死んだよ。」
「え・・。」
思ってもみない答えに、ルカは驚きを隠せなかった。
「元々体が弱い女だった。でも君を身ごもったとき、どうしても産みたいと僕に言ったんだ。死ぬと分かっていたのに。」
「・・・。」
「僕には止められなかった。僕は彼女を愛していたから、どうしても産みたいと言う彼女の願いを聞き入れたんだ。君を産んでしばらくしてから亡くなったよ。」
ルカは込み上げてくる涙を必死でこらえた。
「僕は彼女の忘れ形見である君を守ろうと決めた。どんなことがあっても君を守ると。それなのに・・。」
ゾルグは目を伏せた。
「君の居場所はロキの報告ですぐに分かった。すぐにでも取り戻したかった。けど、そんなことをすれば、まだ赤ん坊だった君を奴らが殺めてしまうかもしれない。そう思うと、強行できなかったんだ。それに・・いい勉強になるとも思ったんだ。僕はこの城から出たことがない。小さい頃からずっとココに居たんだ。でも奴らの手の中にいるとはいえ、危害を加える様子はなかったから、しばらく様子を見ることにして、君が成長するのを見守ってたんだ。」
ゾルグはルカの目を見た。
「一度も君を思わなかった日はなかったよ。」
その一言で、ルカは堪えてた涙が零れた。ルカは溢れ出す涙を堪えながら、ゾルグに向き直った。この人はどんな思いで自分を見守ってくれていたんだろう。会いたくても会えない。この数年、どれだけ長く感じたのだろう。
「もし俺が・・この世界を終わらせるって言ったら・・どうする・・?」
ルカは何となく聞いてみた。ゾルグは驚いた顔すらせずに口を開いた。
「それがルカの出した答えなら、それでいいと思う。」
「でもそれじゃあ・・ずっと・・この世界を支えてきた人たちが・・無駄に命を落としたってことに・・。」
「違うよ。」
あっさりと否定される。
「確かに今までこの世界を支え、命を削った人たちは居る。だが、それは自分で出した答えなんだよ。そういう僕も・・自分で選んだ。」
「終わらせようとは・・思わなかったの?」
震える声で尋ねる。
「確かにそう願ったこともあった。でも・・何が正しいとか間違ってるとか、僕には分からなかった。」
「俺にも分からないよ・・。どうしたらいいかなんて・・1人の人間が決めることじゃないよ。」
「そうだね。でもそういう運命なんだよ。」
「運命って・・そんな・・そんな言葉で片付けられないよ。もし俺がこの世界を終わらせることを望んだら、皆死んじゃうかもしれないってことでしょ?そんなの・・!」
ルカは感情が高ぶった。
「落ち着いて。」
ゾルグはルカを椅子に座らせた。
「前に言ったと思うが、この世界を終わらせるって言っても、全人類が滅びると言う訳ではないはずだ。」
「・・どういう意味?」
前に聞いたが、頭が混乱していて整理し切れていない。
「この世が滅びるって言ったのは確証がない。誰もやったことないからな。飽くまで言い伝えだ。」
「滅びないかもしれないってこと?」
ルカの問いに頷く。
「あの組織は・・終わらせたいんだよね・・?」
「そうだな。」
また頭がこんがらがってきた。
「あの組織の目的は、よく分かっていない。調査中ではあるが、この世界をもっとより良くしようとしているんだろう。それには僕の存在は邪魔だ。」
ゾルグは説明するように言った。ルカはまだ分からなかった。
「より良い世界って何だろう・・。」
ルカはポツリと呟いた。
「分かんないよ。何が良くて何が悪いなんて・・まだ俺には分からない。」
「ルカ・・聞いてくれるか?」
ゾルグはルカの目の前に腰を屈めた。ルカの目をしっかりと見つめる。
「君は・・今までの僕たちとは違う・・何か特別な力を持っている。」
「え・・?」
「エレインが言っていたんだ。君が生まれたとき、東の空に赤い火のようなものが浮かんだって。」
「・・・?」
「言い伝えがあるんだ。特別な力を生まれた時に、空に異変が起こるって。・・・それが・・君だよ。」
「・・・。」
あまりの事に何も言えない。自分がそんな特別な力を持っているなんて、急に言われても実感できない。
「今日はもう遅い。たくさん話を聞いて、疲れたろう?もう休んだ方がいい。」
ゾルグに言われ、ルカはベッドに戻った。