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STAGE 7 答え
それからどれ位の時間が経過したのだろう。もう何日もこうして外を眺めている。自分が置かれた状況は、何となく把握できるようになってきたが、行動を起こすまでには行かない。今はまだこうして考える時間がたっぷりあるが、いつ襲われるかも分からない。 ルカは肩を落とした。窓から見える青い空を仰いだ。心なしか、溜息がこぼれる。 『何か特別な力を持っている。』 ゾルグの言葉を反芻する。特別な力って何だろう。ルカは自分の手を見た。まだまだ子供の自分に、何ができるんだろう。世界を一瞬に変えてしまうような力を持っていると言うのだろうか。 繰り返し考えても、答えなんて出てこない。 ふと見た窓の外に異様な感じを覚えた。 「まさかっ。」 ルカは窓を大きく開け、城の外を見た。 「来る・・。」 確信はないが、そんな気がした。 「ルカッ。」 ドアを乱暴に開け、ロキが入ってくる。 「ロキ。まさか・・。」 「そのまさかだよ。こっちへ。」 ロキに言われるまま、ルカは部屋を後にした。 ロキに連れて来られた場所は、城の最上階の部屋だった。窓から侵入者たちがこっちに向かっているのが見えた。 「この場所が知られてしまったようだね。」 ゾルグはやっぱりという口調で言った。ルカは生唾を飲み込んだ。決断の時は、もうすぐそこまで来ている。 「ルカ、心は決まってるのか?」 ゾルグに問われ、曖昧に頷いた。 「何となくは。・・・簡単には決められないよ。」 「そうだな。」 「ねぇ・・あの人たちと・・話せないかな?」 「話す?」 「あの人たちが何を目指しているのか、知りたい。」 ルカは向かってくる侵入者たちをずっと見つめていた。 「分かった。行こう。あそこまで。」 ロキがルカを促した。ロキについて、ルカは歩き始めた。何となく振り返ると、ゾルグが複雑に微笑んでいた。 「行って来るね。」 ルカがそう言うと、ゾルグは優しく微笑んだ。 「あぁ。悔いがないようにな。」 息子を思いやる父親の顔だった。ルカは複雑な思いで背中を向けた。 侵入者たちの前にルカが出ると、彼らは歩を止めた。ルカを見るやいなや、侵入者たちはルカに跪いた。 「!」 突然の行動にルカは驚き入った。平静を保ちつつ、声を出す。 「貴方たちの目的は何ですか?」 イキナリの質問に、一同は顔を見合わせていた。 「この世を終わらせること?」 誰も答えないので、もう一度問う。その瞬間、辺りがざわめく。 「そうだよ。」 誰かが立ち上がり、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。 「この世界を一度終わらせて、新しい世界を作るんだ。」 「それが人類の終わりかもしれないとしても?」 「そうだ。そうなればそうなる運命だったんだ。」 ルカの問いにそう答えた。 「確かにこの世界は・・正しいと言えるものではないかもしれない。だとしてもよりよい世界って何だ?」 「平等な世界、貧富の差や権力の差がない世界だよ。」 向かってくる男はそう言った。 「それを・・貴方たちが作ると?」 「そうだ。」 「それを作ったとして、本当に平等な世界になると思う?」 ルカの問いに、再びざわめきが起こる。 「それを作るんだよ。俺たちの手でな。」 ゆっくり向かってきた男は、いつの間にか手に剣を持ち、ルカに向かって来た。ルカは身動きが取れなかった。 「ルカ!」 誰かが目の前に立ちふさがり、ルカの代わりに体に剣を受けた。ルカは目の前に横たわった人物に目を疑った。ルカの目の前に倒れたのは、紛れもなくゾルグだった。 「ど・・して・・。」 さっき見送ってくれたはずの人物が、何故ここに居るのだろう。ルカは倒れたゾルグを抱き上げた。 「嫌な予感がしたんだ。今度こそ君を守りたかった・・。」 震える手でゾルグはルカの頬に触れた。暖かいその手にルカは思わず涙が溢れた。 「俺なんか・・・助けなくていいのに・・。何で・・。」 「君は僕の大切な息子だからだよ・・。」 そう言って微笑んだ。 「ゾルグ様。喋らないでください。」 いつの間にか現れたエレインが傷を癒そうとしている。ルカはエレインとロキにゾルグを任せた。 「本当にこれが・・お前らの望んだことなのか?」 怒りを抑えながらそう言うと、剣を持った男は白々しく答えた。 「新しい世界を作るには、これぐらいの犠牲は必要だろ?それにあの男が勝手に出てきたんだ。」 自分は悪くないと言う口ぶりにルカは怒りが頂点に達した。 「だとしたらっ!お前らそれなりの覚悟はあるんだろうな。」 ルカは異様なオーラを発した。ロキが異変に気づく。 「ルカっ!ダメだっ!!怒りに任せて力を発動したらダメだっ!!」 そんなロキの言葉は怒りの頂点に達しているルカに聞こえるはずがない。 ルカは異様な光を放ちながら、剣を持った男に近づいた。男はまるで何かの力で押さえつけられているかのように身動きができなかった。 「あ・・あ・・。」 逃げたくても逃げられない状況に、男は恐怖を感じていた。 「もう一度聞く。新しい世界を作るには犠牲が必要なんだよな?」 「あ・・あ・・・。」 男は恐怖で返事ができない。 「だったら、お前が犠牲になってみるか?」 ルカは自分の拳を男に突きつけた。何も武器を装備していない。しかしその目は氷のように冷たく、男はたじろいだ。周囲にいた男の仲間たちは、ルカが放つ光に恐れをなし、何も手出しができなかった。 「ルカさん!」 ふと声が聞こえ、後ろを振り返るとマリアが泣きそうな顔で立っていた。 「何してるんですかっ?!話し合いに来たんでしょ?そんなことして・・どうするんですかっ!」 マリアの声に我に返る。そうだ。話をしに来たんだった、と今更ながらに気づく。 「もらったぁあ!!」 背後で男の声がした。ルカが振り返ると男がルカに剣を振り下ろすところだった。 『ヤバイ!』 とっさにルカは自分の腕で顔を庇った。顔を覆ったルカは殺られると思っていた。しかしいつまでも剣が下りて来ない。おそるおそる目を開けると、剣を持った男が居ない。 「あ・・あれ??」 手を外し、ルカは辺りを見渡した。周りに居た人間は固まっているようだ。何が起こったのか、ルカには分かっていなかった。 ふと目の前を見ると、さっきまでなかったはずの灰が落ちていた。 「・・灰?」 「ルカ・・。」 ロキが話しかける。 「何が起こったんだ!?」 ルカがロキに突っかかるように聞いた。 「君のその力で、一瞬のうちにあの男を灰に。」 「え・・。」 ルカはやっと自分の周りに浮かんでいる光に気づいた。 「何だこれっ!?」 「それが、君の特別な力・・。」 ロキが答える。 「さっき怒った時に抑えきれなくなり、ルカの内奥から開放されたものだ。さっきので分かっただろうけど。」 そう言いながらロキは灰を見つめた。 「君はこの世界を動かす力を持っているんだよ。」 「・・・。」 何と言っていいか分からず、ルカは立ち尽くしていた。 特別な力。人を瞬時に灰にしてしまうような、強大な力。 ルカは自分の両手を見つめた。自分を包む異様な光。これが力の表れなのだろうか。 「この・・力は・・一体何のために・・。」 ルカは疑問だらけだった。自分に与えられた特別な力。 「ルカ、君は今や神の領域にいるんだよ。その力で世界を意のままにできる。築き上げることも、破滅させることも。」 ロキの言葉にルカは首を横に振った。違う。そんなことをしたい訳じゃない。 「どうして・・俺なんだ・・?もっと他に相応しい人居るはずだよ。」 「君が最も相応しいからこうして力があると思うが?」 ロキのセリフが正当な気がして、何も言えなくなった。 ふと周りを見ると、あの群集が恐れを抱いてルカを見ているのが分かった。目の前で仲間が一瞬にして灰にされたのだ。それもそうだろう。 「ルカ、これからのこと、どうしたいか決まったのか?」 「決まったよ。この世界をもう一度作り直す。」 その言葉に辺りがざわめいた。 「ただし、犠牲者を出さずに。」 「え?」 「誰一人としてって訳には行かないかもしれないけど。極力犠牲者を出さないようにね。」 「そんな方法・・あるの・・?」 ロキは思わず聞いた。 「だからそれを今から調べるんじゃん。」 ルカはニッと笑った。 「調べるったって・・何をどうやって?」 ロキはルカがとんでもないことを言い出したので慌てた。 「言い伝えが・・あったんだよね?特別な力を持つ者が生まれた時、空に異変が起きると。」 「あぁ・・そうだけど・・それが何か・・?」 聞き返してロキはハッとした。 「そうか。」 「うん。言い伝えがあったんなら、この世界を終わらせたとしても、犠牲者が出ないようなやり方がもしかしたら載ってる書物があるかもしれない。」 「書物・・。」 ロキが深く考えた。 「そんなのあったかなぁ・・。」 思い出そうとしても思い出せない。 「だったらそれを探すしかないだろ。」 ルカはそう言うと城に向かって駆け出した。ロキとマリアがそれを追う。 「・・・なぁ・・俺たち・・どうしたらいいんだ・・?」 「さぁ・・?」 侵入者たちはほっとかれているこの状況にどうしていいか分からなかった。 ルカとロキは城の中の書庫に来ていた。 「きっとあるはずだよ。言い伝えがあったのなら・・。」 ルカは古い書物を漁り始めた。 「そんな都合よくあるかなぁ・・。」 ロキは半信半疑だった。マリアも一緒に書物を探す。 ルカは必死で探した。誰かを犠牲にするなんてできない。それが正しいとしても、何か方法はあるはずだ。 日はすっかり落ち、夜になっていた。 「そろそろ・・少し休憩したら?」 書庫にやって来たエレインが声をかけた。 「ゾルグ様は?」 ロキが問うと、エレインは微笑んだ。 「大丈夫。回復したわ。それに夕食の用意ができたから、皆を呼びに来たの。ゾルグ様がお待ちよ。」 エレインの言葉にルカは持っていた書物を置いた。 「ねぇ。言い伝えって・・何かに書いてあったとかじゃないの?」 「・・・そうねぇ・・。何かに書いてあった気はするけど・・。」 「何?何に書いてあったの!?」 ルカはエレインに食いかかるように問いかけた。 「エレイン、何か知ってるのか?」 ロキも問う。 「まだ私が子供の頃に、お婆様が持っていた古文書だったのかしら・・。」 「それはっ!?どこにあるの?」 「うーん。」 「思い出してよ!!」 「そう言われても・・。」 エレインは困り果てていた。 「ルカ、とりあえず夕食を取ろう。それからでもいいだろう。」 ロキがルカの肩に手を置き、優しくそう言った。ルカはコクンと頷き、皆と一緒に夕食を取る事にした。 ゾルグはもうすっかり良くなっているらしく、既に席に着いていた。 「お待たせしました。」 ロキが挨拶をする。ゾルグは気にするなというように手を振った。 「探し物は見つかったか?」 ゾルグに問われ、ルカは首を振った。 「そうか。」 ゾルグは置いてあった食前酒を飲んだ。 「ルカの気持ちは分かるよ。誰も傷つけたくないということも。でもそれって無理なことかもしれない。」 ゾルグの言葉に、ルカは膝の上で拳を握った。薄々は感じていた。犠牲を誰も出さずに、世界を変革させようなんて無理なことなのかもしれない。だとしても、何か方法があるんじゃないかと、必死で探した。諦めたくなかった。 「本当に・・本当に諦めるしか・・ないのかな・・。」 呟くように言った。 「それならいっそ・・こんな力なんて要らなかった・・。」 ルカは泣き出しそうな声で呟き、自分の両手を見た。男を一瞬で灰にしてしまったことがフラッシュバックする。 「ルカ。」 ゾルグは震えるルカの肩を抱いた。 「その力は何のためにあると思う?何かを壊すため?何かを守るため?」 そう言われ、ルカはふと考えた。 「何かを守るために力を使えばいいんじゃないのか?世界を変えるとしても、何かを守りたいって気持ちはあるんだろう?」 そう言われ、ルカは顔を上げた。心配そうに見つめるマリア、ロキ、エレインが目に入る。 「守りたい・・もの・・。」 「自己中心的なのかもしれないが、守りたいものを守ることに力を使えばいいんじゃないのか?」 ゾルグの言葉はもっともなように思えた。 守りたいものなら、ある。一緒に旅をしてきたマリア。ずっと一緒に居てくれたロキ。そしてその二人の大切な人、エレイン。更には血の繋がった本当の父親ゾルグ。 今、自分が守りたいもの。 でもそれって不公平じゃないのか?自分が守りたいもの以外の人間はどうなってもいいなんて、思えない。 「まぁ、今は食事にしよう。色々あってお腹も空いただろう?」 ゾルグは目の前に用意された食事に向き直った。ロキたちも食事の席に着いた。 「どうした?ルカ。食べないのか?」 「ごめん・・。俺ちょっと考えたいから食事いいや。」 ルカはそう言って自分に与えられた部屋に戻った。 ルカは窓の外に浮かぶ月を眺め、今までのことを考えた。 この旅で出会った人たち。この世界を終わらせようとしている自分をどう思うのだろうか。 何とも言えない感情が湧き上がってくる。 本当はどうしたいんだろう。新しい世界なんて本当に作れるんだろうか? 頭の中にぐるぐると回る疑問。答えなんて出ない。 何時間経ったんだろう。もうずっと月を眺めている。 ふと月が動いた気がした。 「え?」 目を疑った。月が動くなんて。しばらくして気づいた。月が動いたんじゃない。地上が動いたんだ。 「な・・なんで・・。」 疑問が浮かんだ。どうして動いているんだ?地震とはまた違う。揺れているんじゃない。明らかに動いている。しかししばらくすると、揺れは収まった。 「・・な・・何だったんだ・・?」 ルカが疑問に思っていると、ゾルグ、ロキ、エレイン、マリアが部屋に入ってきた。 「ルカッ!無事か!?」 「あ・・うん。・・でも今のは・・一体・・。」 「分からない。今衛兵が外の様子を・・。」 ロキがそう言い掛けたとき、慌しく衛兵が飛び込んでくる。 「お逃げください。早くっ!!」 「一体どうしたんだ!?」 「説明している暇はありません。早く!!」 衛兵に急かされ、ルカたちは部屋を出た。 「こっちです!」 衛兵に先導され、逃げている途中、マリアは何かを感じ取った。 「何か・・とてつもなく大きな負の妖気が・・。」 「負の妖気・・?」 マリアの呟きにルカが問いかける。 「えぇ。今までになくとても巨大な。」 「そうね。私も感じるわ。」 エレインが同意する。 「さっきの地震のようなものは・・それが漏れ出したのかもしれない。」 ロキが呟く。 「漏れる?どゆこと??」 「とりあえず安全な場所へ。そこで話そう。」 安全な場所があるのかどうかは分からない。静か過ぎる夜は、これから起こる嵐の静けさのようで、ルカは身震いした。 「大丈夫か?」 ゾルグがルカに声をかけた。 「うん。」 心配をかけぬように笑ってみせる。弱音は吐かないことにした。もし口に出せば、崩れてしまうかもしれない。 ルカはこれから何が起こっても動じないように再び心に決めた。 どれくらい走ったのだろう? 建物内は危ないと、外に出たのはいいのだが、何処が安全な場所なのかさえ分からない。 その時、背後で大きな音がした。ガラガラとさっきまで居た建物が崩れていった。 「間一髪ってとこか・・。」 ゾルグが呟く。一同、ホッと胸を撫で下ろした。 何とか走り続け、小高い丘の上に避難した。マリアとエレインはさっきの負の妖気を探っていた。 「ねぇ、ロキ。さっき言ってた『漏れ出した』って言うのはどういうこと?」 「あぁ。古い言い伝えとされてることなんだけど。」 そう言って話し始めた。 「その昔、この地上は魔族と人間が住んでいたんだ。これは本当で、秩序が乱れるからと、ある時魔族が魔界に引き払ったために今みたいに魔族と人間の交流は少なくなったんだが、その魔族がこの世界を出て行くずーっと前。ある時モンスターが繁殖しすぎて、魔族や人間を襲い始めた。人間や魔族を食べたモンスターは成長して、どんどん巨大化して行った。」 ロキの話を聞いて、旅の途中で襲ってきたモンスターを思い出した。魔族のダークを体の中に取り込んだまま、9年も人間を食らってきたモンスター。あれが何だったのか、今でも分からない。 「そのモンスターを倒すための特殊部隊が組まれたんだ。数々の難関をクリアしてきた精鋭を集めて、モンスター狩りをした。数人の犠牲者を出したものの、結局モンスターを倒すことができたんだ。その亡骸は、火で燃やした後、箱の中に入れられ、魔法で厳重に固められて土に埋められたんだ。」 「何でそこまで・・。」 「復活してくるかもしれなかったからだよ。どんなモンスターなのかよく分からなかったからね。」 「じゃあ・・『漏れ出した』って言うのは・・。」 「10年前、この地域で大きな地震があったんだ。」 「10年前・・。」 ダークが言っていたことと関係あるのか? 「10年前の大地震で、地下に変動があった。そして一時期、モンスターが大繁殖した。しかも奇形の。」 「!!」 「処理が早かったために、そのモンスターは捕らえられ、同じく火で燃やされて、箱に封印された。でも数匹は既にここから居なくなっていたらしく、捜査したが見つからなかった。」 ロキの言葉で繋がった。 「それだ・・。」 思わず呟く。 「ん?」 「ダークが言ってたろ?10年前、人間界で異変が起こったって!そのこと言ってたんじゃないのか?大地震が起こってモンスターが繁殖しすぎた・・。」 「あ・・そうか・・。」 ロキは今気づいたらしい。 「あの時の魔物はやっぱりその地震後に出てきたモンスターだったのか・・。じゃあ・・さっきマリアたちが感じてた負の妖気ってのも・・。」 「もしかするともしかするかもしれない。しかもとんでもなく厄介な魔物。」 ロキが呟く。 「ホントに厄介だわ。」 エレインが苦笑する。 「え?」 「一匹どころじゃないわよ。これ。」 「えぇ!?」 「一匹どころじゃないって!?何匹居るの?」 ルカは思わず大声で聞いた。 「分からない。ただ一つ言える事。ここだけじゃない。世界中で出没しているみたいよ。」 「そんな・・。」 世界中に散らばっていたら、それを倒しに行く前に犠牲者が出てしまう。 「どうすれば・・。」 ルカは呆然とした。 「それこそお前の力を使うべきじゃないのか?お前の力なら、ここに居ても世界中のモンスターを殺すことができるんじゃないのか?」 ゾルグがあっけらかんと言う。 「使うったって・・。」 自分の能力がどんなもので、どう扱ったらいいのかすら分からないのに使える訳がない。 「モンスターって言っても種類によって倒し方が違うから無理ですよ?一気に倒すなんて・・。」 「それもそうか・・。」 ロキの言葉に妙に納得する。 「一気に倒すことは無理かもしれないけど・・力を弱めることならできるかもしれないわよ?」 エレインの言葉にルカは顔を上げた。 「どうやるの?」 「モンスターの力を貴方が吸い取るの。」 「は?」 エレインの言葉の意味を掴めず、思わず聞き返す。 「気を集中させれば・・可能かもしれないけど・・危険が多すぎるわね。」 言った本人が止めようと言い出す。 「じゃあ・・どうしたら・・。」 その時、突然ゾルグが咳き込んだ。異様な咳をし、血を吐いた。 「こりゃ・・ヤバイな・・。」 血を吐いた本人がそう呟く。 「僕の・・力が・・尽きようとしてるみたいだ・・。」 ロキに支えられ、木を背もたれに座る。 「えっ!?」 「魔物が突然現れ出して、僕の力が吸い取られてるみたいだ。」 息苦しそうに答える。どうにもできないのだろうか。ルカは考えた。 「ねぇ・・俺の力、もし全開にしたらどうなる?」 ルカの問いにロキは少し考え答えた。 「全てが滅びるか・・魔物だけが滅びるか・・分からない。」 「そんな・・。」 ルカは他に方法はないかと考えた。その間にゾルグは段々弱ってきた。 「ゾルグ様・・。」 エレインが魔法でどうにかしようとしているようだが、全然効かないようだ。早くしないとゾルグが死んでしまうかもしれない。 「・・カ・・。・・ル・・カ・・。」 力ない声で呼ばれ、ルカはゾルグに駆け寄った。ゾルグはルカの頭を撫でた。 「もうすぐ・・僕は居なくなる。・・・そうすればルカが・・全部決めなきゃいけない・・。思ったことを・・やればいい。ルカが・・正しいって・・思ったことを。・・きっと・・お前ならできるよ・・。」 ゾルグは途切れ途切れにそう言った。ルカは涙が込み上げて来た。ゾルグは相変わらず優しく微笑んでくれた。余計に涙が溢れる。 「・・父さん・・ありがとう・・。俺・・正直怖いけど・・やってみるよ。」 初めてゾルグは『父さん』と呼ばれ、とても嬉しかったのかいっそう優しく微笑んだ。しかしゾルグの顔色はみるみる悪くなっていた。意識も遠のいているようだ。死期を悟ったゾルグはルカに自分のしていた指輪を渡した。 「僕が居なくなった後・・頼んだよ。」 そう言うと、ゆっくりと目を閉じた。 「嘘・・だろ・・。父さん!!父さん!!!!」 ルカは信じられずにゾルグを揺らしたが、反応はなかった。 「ゾルグ様・・。」 あまりにも穏やかな顔をしているゾルグを、ロキはゆっくりと寝かせた。 ルカはゆっくりと立ち上がった。 「ねぇ、皆。俺・・力を全開にしてみようと思う。もしかしたら、皆死んじゃうかもしれないけど・・。・・どっちにしても、このままだとあの魔物にこの世界をダメにされてしまう。そうなるより、この力に賭けてみようって思う。」 ルカの話を聞いたロキは頷いた。 「いいんじゃないか?ゾルグ様もルカが正しいって思ったことをしろって仰っていたし。僕は覚悟してる。」 「私も。貴方が思ったようにやればいいわ。」 エレインがロキに同意する。 「あたしも・・覚悟はできてます。」 マリアも頷き、ずっとマリアの肩に乗っていたじぇらも「ニャー」と返事した。 ルカはロキたちに背を向け、前方に感じる負の妖気を見据えた。 「どんなことになっても・・後悔しないよ・・父さん。」 そう呟き、ルカは深呼吸した。この力がどれ程の威力を持っているのか、正直分からない。だからこそ、覚悟が必要だった。もしかしたらルカ自身も死ぬかもしれない。周りに居るロキたちも。 ルカは気を集中させ、力を全開にした。 その瞬間、辺りは無音になり、真っ白な光に包まれた。 どれ程の時間が経ったのか、分からない。 だがもう東の空が明るくなり始めていた。 ルカが目を開けると、目の前にマリアが倒れていた。急いで起き上がり、ゆすってみる。 「マリア・・マリア!」 「・・ん・・。」 何とか生きているようだ。 「マリア、大丈夫?怪我してない?」 「ルカさ・・。」 マリアはゆっくり起き上がった。 「大丈夫です。怪我してません。」 笑顔で答える。 「よかった。」 マリアが抱いていたじぇらも無事だった。 「ロキ!!エレイン!」 今度は2人をゆすってみる。 「・・ん・・・。」 「・・あれ・・。」 何とか意識を取り戻す。 「・・生きてる・・。」 「よかった。無事で。」 ロキたちも無事と分かり、ルカはホッと胸をなでおろした。 ふと辺りを見ると、瓦礫の山が見えた。魔物のせいではなく、恐らくルカの力だろう。 「魔物は消えたようね。」 エレインが気を探り、そう告げる。 「他に誰が生き残ってるとか・・分からない?」 ルカに問われ、エレインは首を振った。 「残念ながら分からないわ。」 「そう。もし・・俺たちだけだとしても・・新しく世界は作れるよね?」 明るくルカが問うと、ロキたちは頷いた。 「できるよ。きっと。」 希望の言葉を噛み締めて、ルカは空を仰いだ。 姿を現した太陽が希望の光のようにルカたちの上に降り注いでいた。 |