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STAGE 4 危機
一行は誰も居ない町を通り抜け、再び街道に入った。この先の街へ行くには数日かかるだろう。誰一人として話さなかった。いや、話せなかった。ただダークの言葉が頭の中をグルグルと回っていた。 昼頃になると、日も高く昇り、疲労感が増してきた。 「あの・・そろそろお腹空いてきませんか?」 「そう言えば・・。」 マリアの言葉にルカが同意する。 「よし、あの辺で休憩しよう。」 シュンは少し先の休憩できそうな場所を指差した。一同は石を椅子代わりにして座り、朝マリアが作った弁当を広げた。おじいさんの家にあった食材で作ったもので、どうやって食材を手に入れたのかは謎なのだが、夕食を食べても大丈夫だったので、マリアが料理し弁当を作ったのだった。 「いただきます。」 そう言ってルカとシュンは食べ始めた。マリアはロッピーや猫にも分けながら弁当を食べた。しかしやはり無反応な2人にマリアは不安になった。 「あの・・美味しくなかったですか?」 「え?あ、ううん。美味しいよ。」 ルカは慌てて否定した。 「よかった。お口に合わないかと思いました。」 マリアはホッと胸を撫で下ろした。 「ごめんな、気利かなくて。うまいよ。」 シュンも言葉を付け足した。 「ありがとうございます。」 マリアは嬉しいのか笑顔になった。 「ピィ!ピィ!」 「ロッピーも美味しいってさ。」 ルカが説明する。 「ありがとう。」 マリアはロッピーの頭を撫でた。 「ニャー。」 「じぇらも美味しいって。」 分かるはずないのだが、ルカが説明した。 「ありがとう。」 そう言ってマリアは猫の頭も撫でた。 「話は変わるんだけどさ。あの魔物が倒れて死んだ時、マリアは何か感じなかった?」 シュンの突然の問いにマリアは首を傾げた。 「いやさ、ルカたちに会う前のこと話してくれただろ?村が焼き尽くされた時、力が西の方に向かったって。今回はそういうの感じなかったのかなって。」 シュンの言葉にマリアは首を横に振った。 「ダークさんの霊気の方が強くて・・。もしかしたらそう言うのがあったのかもしれないんですけど・・。」 気づかなくてごめんなさい、と言うように頭を下げた。 「いや、仕方ないよ。魔力が残っていたとしても微量だろうし。」 シュンは慌てて弁護する。 「にしてもあの魔物は何だったんだろうね。人食いってのはよく聞くけど。食べた人間を吸収するなんてさ。」 「さぁなぁ。」 ルカの質問の答えを分かるはずがない。 「あの・・。」 マリアが口を開いた。 「西で合ってる気がします。どんどん、力が強くなってる気がします。」 マリアはそう言って腕を擦った。 「とにかく西に向かうしかないね。この石の組織の謎もまだ解けないし。」 ルカはそう言って両親が持っていた石を握り締めた。 お昼を食べて少し休憩した後、一行は再び西に向かって歩き始めた。泊まれる場所を探しては寝泊りし、数日歩いた。歩けど歩けど、町は見えてこない。 「一体いつになったら次の町に着くんだ?」 いい加減疲れてきたルカがぼやく。 「あ、あれ。そうじゃないですか?」 マリアは少し先を指差した。微かにだが町らしき場所が見える。 「結構遠いな。もう一頑張りだ。」 シュンはルカを元気付けるように肩を叩いた。遠くに見える町を目指し、一行は歩き続けた。 ザワザワッ。 マリアは嫌な予感がして、鳥肌が立った。 「マリア?」 みるみる顔が悪くなるマリアにルカが気づく。 「何か・・嫌な予感がします・・。」 「嫌な・・予感?」 「それは俺のことかな?」 ふと声がして、顔を上げると、目の前に見知らぬ人が立っていた。人なのかすら分からない。 「誰だ!」 「誰って言われて答える義務はないな。」 シュンの問いかけにそう言いながら、男は剣を取り出した。 「悪いけど死んでもらうよ?」 笑顔で言い放つ。ルカたちはよく分からないまま、武器を手に身構えた。 「無駄な足掻きはしない方が楽に死ねるよ?」 男はそう言いながら剣を掲げた。そして詠唱を始める。すると掲げた剣が赤く光り始めた。 「さぁ。ゲームの始まりだ。」 男は楽しそうに笑った。ルカたちは身構えたまま動けなくなっていた。 「大人しく死んでね♪」 楽しそうに言う男はニコッと笑うと、剣を一振りした。赤い光を放っていた剣から赤い玉のようなものが生まれ、物凄い勢いでルカたちに襲ってきた。マリアがとっさに防御の呪文を唱え、猫の力でその防御の力を高めた。すると赤い光の玉は防御の壁に跳ね返った。 「へぇ。やるねぇ。でも次はどうかな?」 そう言いながら、こっちに向かってきた。ルカとシュンは左右に分かれ、男を挟み撃ちしようとした。しかし、男はふっと上空へ逃げた。 「大人しく死んでってばっ!」 男は少しムッとしていた。『死んで』と言われて『はい』と素直に死ぬ人なんているんだろうかとルカはふと緊張感のないことを思ってしまった。 「来るぞ。」 シュンの言葉に、ルカは気を引き締めた。空も飛べるなんて・・やっぱりこいつは人間じゃないのだろうか? 向かってくる男はマリアに背を向けた。ちょうどマリアとルカ、シュンが挟んでいる形になる。男はマリアが防御しかできないと思っているらしい。 「死ねやぁ!」 男は血走った目でルカとシュンに向かってきた。 「お前が死ねっ!!」 シュンが言い放ち、ルカよりも先に男の胸に飛び込んだ。男はシュンに切りかかった。ルカはマリアに目で合図した。マリアは攻撃の呪文を唱え始めた。 「今だ!!」 タイミングを計ってルカが叫ぶと、マリアは男の背中を目がけて攻撃の光玉を放った。 「何ッ!?」 思いもよらぬ状況に男は怯んだ。その瞬間、シュンが男に切りかかり、更にマリアの光玉が背中に当たる。 「うぐっ。」 男は前後からの攻撃を避けきれず、その場にうずくまった。どうやらまだ息はあるらしい。ルカは剣を男の首に当てた。 「何で俺たちを殺そうとしたのか、訳を聞かせてもらおうか?」 男はキッとルカたちを睨んだ。 「言う義務ないね。」 飽くまでも言わないらしい。 「なら死ぬまでだ。」 シュンが剣を掲げ、振り下ろそうとした瞬間、男はスッと移動した。瞬間移動したらしい。 「だから死ぬのは俺じゃなくて、お前らだっつーの。」 上空へ逃げた男は再び詠唱をし、剣を赤く光らせた。 「もう3人まとめて死んじゃえ!!」 男は上空から3人に向けて光玉を放った。さっきの光玉とは比にならないくらい大きい。 マリアはとっさに防御の呪文を唱え、3人を包含した。しかし光玉の威力はかなり強大でマリアは支えているのがやっとの状況だった。猫が共になり、防御の力を上げているが、それでもキツイらしい。このままじゃマリアの体力が持たないかもしれない。ルカとシュンはタイミングを見計らい、防御壁から飛び出す。シュンはジャンプをし、道沿いに生えている木に登った。マリアは2人が飛び出した瞬間に、防御を解除し、マリアは猫とロッピーを連れて横に避ける。その瞬間、光玉は地面に穴を開け、消滅した。 「マリア、どっか隠れてろ。」 ルカはそう言って、戦闘に戻ろうとした。 「あ、待ってください!」 マリアはそう言うと、何やら呪文を唱えながらルカの剣に触れた。剣が青い光を放つ。 その間にシュンが男に向かって行っているのが見えた。シュンは木から男へと飛び掛った。 「人間のくせに俺に歯向かうなんて生意気なヤツだな。」 男は気に食わないといった様子で、シュンに剣を振り下ろす。 それが見えたルカは思わず剣を男に向かって振り下ろした。届くはずはないことは分かっていた。しかし、ルカの剣に取り巻いていた青い光は男の方に一直線に向かって行った。男が作ったような光玉は、しっかりと照準を合わせ、男に向かって行った。 「シュン、逃げろ!」 我ながら無茶なことを言ってるのは分かるが、もしシュンに当たったらシュンまで巻き込んでしまう。マリアは咄嗟に呪文を唱え、シュンに向かって放り投げた。 男は青い光の玉が迫ってくるのを見て、動けなくなっていた。 「うわぁああああ。」 青い光玉に吸い込まれるかのように、男は消滅した。 シュンは咄嗟に作ったマリアの防御壁で守られていた。しかし男が消滅する瞬間を目の当たりにし、言葉を失っている。 「今のは・・一体・・。」 シュンは防御壁に包まれたまま、地上に降りてきた。 「シュン!大丈夫か!?」 「あぁ・・。俺は大丈夫だけど・・。今のは・・一体・・。」 「俺もよく分からない。咄嗟にあの男に向かって剣を振り下ろしたら・・。」 ルカはどんどん声が小さくなっていった。 「今の・・やっぱり人間じゃなかったですね。」 マリアの言葉にルカは顔を上げた。 「さっきの攻撃呪文、モンスターを撃退するなんです。撃退・・と言うか消滅しちゃいましたけど・・。」 「それで・・。」 何となく分かったような分からないような・・。 「でも・・俺ら何で命狙われてるんだ?」 シュンの問いに一同言葉を失った。 「この石に関係してるとか?」 ルカは持っていた石を手のひらに載せた。 「分からないけど・・少なくともその可能性は否定できないね。」 シュンは石に触れようとした。するとバチバチッと静電気のような火花が散った。 「って・・。」 「何で・・?」 ルカが触れても何も起こらないのに、シュンが触れた瞬間に起こった現象。 「前までこんなことは・・なかったのに・・。」 シュンは驚き入っている。マリアもルカが持っている石に触れようとした。 バチバチッ。 「っ!」 「何で・・ルカだけ平気なんだ?」 「分かんないよ。」 何でこうなるのかすら分からない。マリアは今度は師匠の石を触ってみた。 「あれ・・これは大丈夫みたいです・・。」 触れても、何も起こらない。しかしシュンが触ろうとするとやはり同じ現象が起こる。逆にルカがマリアの石を触ろうとすると、火花が散った。 「これは・・一体・・・。」 しかも何故か西に近づけば近づくほど石の色が変わっている気がする。色・・と言うより光を少しずつ放っているような気がする。 「何なんだ。一体・・。」 それしか言葉が出てこない。 「やっぱり・・西に何かあるんですね・・。」 マリアの言葉に一同頷いた。 「行こう。またさっきみたいなやつが来るかもしれないけど・・。」 「ココで引き返す訳にも行かねぇだろ。」 ルカの肩を叩きながら、シュンが励ます。 「うん。正直、すごく怖いけど・・。でももう引き返せないね・・。」 ルカは真っ直ぐに西の方向を見た。目の前に見える町。ルカは深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。 もう逃げられない。逃げる訳には行かない。 一行は再び西に向かって歩き始めた。 目の前に見える町は意外と遠く、数日かけて辿り着いた。広い町のようで、町は賑わっていた。 前回の町の件もあり、それすらも疑わしく思えてくる。 「これ・・幻影とかじゃないよね・・。」 何となくルカが口走る。 「多分な・・。」 シュンが短く答える。マリアは何も言わず辺りを見回していた。 「マリア、どうかした?」 「いえ。別に・・。」 「気になることあったら、言ってよ?」 魔力を感じられるのはマリアだけなのだ。 「はい。」 マリアだけじゃなく、ロッピーや猫も何やら警戒している。緊張しなきゃいけない場面なんだろうが、ルカはそれどころじゃなかった。 グゥ・・。 何とも緊張感に欠ける音が響く。腹減った・・・。ここ数日、まともな食事をしていない。森育ちのロッピーと一緒に集めた果物だけしか食べていないので、やはりお腹が空く。 ルカはシュンとマリアを盗み見た。2人とも周りに敵が居ないか、神経を尖らせている。 『腹減ったなんて考えてるの、俺くらいか・・。』 軽く落ち込むが、鳴り止まぬ腹の虫にルカは緊張感を無くしていた。 |