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STAGE 3  異変
朝食を取った後、3人は2匹を肩に乗せ、西に向けて出発した。
半日歩いたところで、新しい町に入る。今まで通った町よりも人々が多く、活気付いているようだ。
「この町結構広そうだな。」
シュンは辺りを見回しながら言った。
「だねぇ・・。」
人の多さから見て、ルカも同意する。
「マリア、大丈夫?」
人ごみに押されて、倒れそうなマリアをルカが支える。
「はい。何とか。」
「ロッピー、俺の肩に乗って。」
マリアの肩に乗っていたロッピーを、ルカが呼ぶ。ロッピーは言われた通り、ルカの肩に乗った。ちなみに猫はシュンの肩に乗っている。
「この人ごみだとここ通るの難しいな。ルカたちはあの木の下で待っててくれ。」
「あ、うん。」
そう言うとシュンは猫をルカの肩に乗せ何処かへ行ってしまった。
「何処・・行ったんでしょうか?」
「さぁ?」
ルカたちはシュンに言われた通り、人が居ない木の下で待つことにした。

しばらくしてシュンが戻ってきた。
「何処行ってたの?」
「町を見てきた。」
「え?」
「1番高そうな木の上に登って、町全体見てきた。」
短時間でそんなことをしていたのか、と驚く。
「大体のものは把握した。人通りが少ない道を歩こう。」
シュンの言葉にルカたちは驚きつつも頷いた。そしてシュンの後をついて歩いた。
シュンの後について、町を通過する一行は、人通りの少ない道を歩いていた。
「さっきの通りと全然違うな。」
ルカは辺りを見渡しながら言った。さっき通っていた通りには人が溢れるくらい居たのに、この通りには誰も居ない。
「俺もびっくりしたんだよ。何でこんなに差があるのか分かんねぇし。」
店もあるし、家もある。道は向こうの方が広い気がするが、それ以外変わったところは・・。
「・・マリア?」
顔色が段々悪くなっているマリアに気づいたルカが声をかける。
「ごめんなさい・・。ちょっと休んでもいいですか・・?」
小さい声だったが、そう聞き取れたので、近くの木の下で休むことにした。
「疲れたか?」
シュンが問うが、マリアは首を横に振った。
「すごく強い魔法の力が・・近くにあったんです・・。それに圧倒されちゃって・・。」
「今は?」
「今は・・大丈夫ですけど・・。」
「魔法か・・。」
シュンは辺りを見回した。特に変わった様子はないように思える。何かを思いついたのか、シュンは木の上に登った。
「シュン、何かある?」
ルカが問うが、首を横に振って言った。
「いや。特に変わった様子はないけど・・。」
町全体を見渡しながら、シュンが言った。
「魔法の力って・・良いものとか悪いものとかあるの?」
ルカは気になって聞いてみた。
「明らかに悪いものっていうのは本当に邪悪な気を感じるので、分かりやすいんですけど、あたしはまだ見習いなので、小さな気だとよく分からないんです。」
「そうなんだ。」
「今まで感じた魔法は、どちらとも言えないんです。明らかに悪いって感じはしなかったので。」
「そう・・。」
手がかりになると思ったが、もし本当に悪い魔法の力なら、気づいた時にマリアが自分から言ってるだろう。
「ちなみにさっきのは?」
木から降りてきたシュンが問う。
「どっちかまでは・・。ただ物凄い強い力でした。」
「そっか。何かあるかもな。この町。」
シュンの言葉にルカもマリアも頷いた。
しばらく休憩した後、ルカたちは再び通りを歩いた。
「今日はこの町で宿見つけないとな。」
シュンの言葉にルカたちは頷いた。と言っても、宿屋らしきところがなかなか見つからない。この通りにも店はあるが、どこも締め切っている。
「やっぱあっちの大通りの方にしか宿ないんじゃないのか?」
ルカが言うと、シュンは頷いた。
「そうかもな。・・・ちょっと見てくるよ。この辺に居てくれ。」
そう言うとシュンはさっさとさっきの大通りの方へ走って行った。
「何か・・シュンにばっか見に行かせて悪い気がするなぁ・・。」
「そうですね。」
走っていく後姿を見ながら、ルカとマリアが呟いた。

しばらくして戻ってきたシュンは、何と木の上から降ってきた。
「うわっ。」
驚いたルカは思わず声を漏らす。
「わりぃ。道走るより木の上伝ってった方が早かったんだよ。」
「・・・猿。」
「あぁん?」
ルカが呟いた言葉が聞こえたのかシュンが睨む。
「何でもない。」
「あの・・宿屋ありました?」
マリアは話を戻した。
「あぁ。一応あったんだが。何処もいっぱいで。宿のオヤジが言うには、丁度旅の一座がこの町に来てるらしくて、それを見に来た周りの村の人たちが泊まってるんだと。」
「じゃあ大通りの人が多いのも・・。」
マリアの問いに、シュンは頷いた。
「でも何でこっちとあっちでこんなに差があるんだろ・・。」
ルカは締め切っている店を見ながら言った。
「さぁ・・。」
2人は首を傾げた。
「今夜・・どうすんだ?」
「どうするって野宿しかないだろ。」
「野宿っても・・。」
ルカは辺りを見渡した。森のように寝られるような場所なんてない。
「・・・。」
シュンも言葉を失った。
「どうしたんじゃ?」
ふと声をかけられる。この通りにまだ人が居たのかと、一同驚いた。振り返ると、人の良さそうなおじいさんが立っていた。
「あ・・えと・・俺ら、旅の者なんですけど・・。泊まるとこがなくて・・。」
「あぁ。今日は一座が来とるからの。」
「えぇ。」
「ワシのとこに来るか?狭い家じゃが、お主らを泊められるくらいの部屋はあるぞ。」
「いいんですか?」
マリアが嬉しそうに言う。
「ああ。ワシしか住んどらんからの。気を使わんくてもええ。」
「じゃあ・・お言葉に甘えて・・。」
ルカはそう答えながら、何となくシュンを見た。納得していないような顔をしている。
「シュン?」
「あ・・あぁ。お世話になろう。」
「こっちじゃ。」
老人はルカたちを自分の家に案内した。

老人宅は程近い場所にあった。
「客室は・・二部屋しかないからの。」
そう言いながら老人は一行を部屋に案内した。
「俺とシュンが一緒になるから。マリアはロッピーと猫と一緒でいい?」
ルカの言葉にマリアは頷いた。
「飯は食ったんかの?」
「いえ・・。まだです。」
「今から作るからの。お主らは休んでおきなさい。」
「あ、手伝います。」
マリアが名乗り出る。ルカとシュンも手伝おうとしたが、老人に制される。
「お嬢さん、料理はできるのかね?」
「ええ。一応。」
「じゃあお嬢さんにだけ手伝ってもらうとしよう。お主らは休んでおれ。」
老人にそう言われ、ルカとシュンは部屋に戻った。
ルカとシュンはロッピーと猫を連れ、部屋に戻った。
「なぁ・・。」
沈黙を破ったのはシュンだった。
「あのじいさん、何かおかしいと思わねぇ?」
「そお?」
ルカが能天気に答える。
「あの通りには誰も居なかったし、誰も住んでる風でもなかった。なのに何であのタイミングで現れたんだ?」
「んー・・この家からあの位置結構近かったから、家から見えたんじゃない?」
「だとしても・・何か引っかかるんだよなぁ。」
シュンは眉間に皺を寄せながら言った。
「考えすぎじゃね?」
「お前は能天気過ぎんだよ。」
「・・・。」
シュンに言われ、ちょっと凹む。
「俺が敵だったらどうすんだよ。」
「ええ!?」
「例えばの話だよ。俺がもしお前らの敵だとして、寝首を掻かれても文句言えねぇぞ?」
「う・・。」
確かにシュンの事は賞金稼ぎで世界を回ってるとしか聞いていない。
「シュンが・・敵じゃないって言う証拠は?」
「あるわけないだろ。」
「・・・。」
あっさりきっぱり言われ、ルカは言葉を失った。
「お前、旅慣れしてないな。」
そう言われ、ルカは頷いた。
「俺・・ずっと森の奥に住んでたから・・。」
「そうか。」
「シュンの・・親は?」
「死んだよ。母親の顔は知らない。父親は1年前に死んだ。」
「・・ごめん。変なこと聞いて。」
「いいよ。俺、父親に連れられてずっと賞金稼ぎで生計立ててたんだ。だから一定の地で過ごしたことない。」
「そうなんだ。」
「森の奥に住んでて・・家族の他に誰も居なかったのか?」
シュンに問われ、ルカは頷いた。
「俺たち家族の他に誰も居なかったから。たまに山の麓の村に下りたりはしたけど。だから同じくらいの歳の子に会ったのってマリアが初めてだったんだ。」
「ほお。」
「シュンは友達とか・・居た?」
「いや。俺はずっと旅してるから。直ぐに別れると分かってる人とは関わらないようにしてるんだ。」
「そうなんだ。」
「お前もさ、あんま人と関わらない方がいいよ。」
「え?」
シュンの言葉に驚く。
「結局頼れるのは自分だけなんだからさ。」
シュンの言葉が胸を刺す。何だか辛い。
「確かに協力するのは大事だけどさ。結局最後は自分が大事なんだよ。皆。」
何処かを見つめるように言う。何かあったのだろうか。だとしても、そんなセリフ聞きたくない。
「・・・で・・何で・・そんなこと言うんだよ・・。」
ルカは泣きそうだった。
「お前も・・もう少ししたら分かるさ。」
「分かりたくねぇよ。」
「ルカ・・。」
「確かに・・自分が大事な人間だって居るだろうけど・・。それでも仲間は信じたい。シュンだってホントは信じていたいんだろ?」
「・・・。」
ルカの問いにシュンは答えなかった。何でこんな事を言ってるのか自分でもよく分からない。でもそんな悲しいセリフ、言って欲しくなかった。
その時ノック音が聞こえた。
「どうぞ。」
シュンが返事する。
「あ、夕食の用意ができたから、2人とも食べに来てください。」
「ありがとう。直ぐ行くよ。」
そう言ってシュンは立ち上がり、部屋を出て行った。マリアは動こうとしないルカを見て、心配して近寄った。
「ルカさん。大丈夫ですか?」
「・・ありがとう。大丈夫だよ。」
「何かあったんですか?」
「何もないよ。ロッピー、じぇら、行こう。」
そう言うとロッピーと猫がルカの肩に乗った。いつの間にか猫には『じぇら』という名前が付いていた。マリアはルカの後を付いて歩いた。
久しぶりに食べるまともな食事を、ルカとシュンは無言で食べた。
「ピィ。」
一口食べ、ロッピーが喋った。
「ん?どしたの?」
マリアが問うと、ルカが説明を加える。
「おいしい、ってさ。」
「そっか。良かった。いっぱい食べてね。」
「ピィ♪」
嬉しそうにロッピーが言う。そしてまた沈黙する。そこでマリアは会話を切り出した。
「おじいさん、どうしてあっちの通りとこっちの通りでは人の多さが違うんですか?」
気になっていたことを問う。
「・・・この通りには魔物が住んどるんじゃ。」
「魔物?」
「そうじゃ。人を食う魔物が居る。」
「えっ。」
おじいさんの言葉に一同動揺が走る。
「と言う噂が流れたんじゃ。」
「噂・・?」
「ある時期を境にこの通りの若い者が数人行方不明になってな。最初は何処か旅に出たんだと言っておったんじゃが、数日後、また人が消えての。それが・・寝たきりだった老人までもがじゃ。それで人食いの魔物が居ると誰かが噂して、この通りから人が居なくなったんじゃ。」
「居なくなったのは・・この通りの人だけ?」
「あぁ。何故かは分からんがの。」
ルカの問いに頷く。
「じゃあ・・どうしておじいさんはこの家にまだ住んでるんですか?」
マリアの問いに、おじいさんは少し間を置いて口を開いた。
「家族を・・待って居るんじゃよ。」
「家族を?」
「あぁ。ワシの家族全員居らんようになってしもた。ワシの妻と息子の妻が最初に消えた。そして孫が消え、息子も消えた。ワシは家族を待っておる。もし戻ってきたときにワシが居らんかったら心配するじゃろ。」
おじいさんは遠い目をして話した。
「ごめんなさい。変なことを聞いて。」
マリアが謝る。
「いいんじゃよ。でもお主らも気をつけた方がええ。魔物に食われたら、二度と戻って来れんかもしれん。」
「はい。」
おじいさんの注意を素直に聞いた。

その夜、ルカはなかなか寝付けずにいた。隣のベッドでシュンはもう寝入っているようだった。窓際のベッドのルカは窓から見える月を眺めた。下弦の月。何だか曇っている気がする・・。何だろう。胸騒ぎがする。
その時、部屋のドアの下の隙間からロッピーが駆け込んでくる。
「ピィッ!」
「どうした!ロッピー。」
慌しく入って来たので、心配になる。一緒に寝ていたマリアに何かあったのだろうか。
「ん・・。どうした?」
シュンも目を覚ます。
「ロッピーが・・。マリアに何かあったのかも。」
「!?」
ルカとシュンは武器を持ち、ゆっくりとマリアの部屋に近づいた。明かりが漏れている。でも蝋燭の明かりではない。
シュンは少しドアを開いた。隙間から中を覗き込む。そのシュンの下からルカが覗く。
部屋の中にはおじいさんが立っていた。猫がマリアを守るようにおじいさんに威嚇している。防御をしているようで、マリアと猫の周りにシールドが張られている。ルカとシュンは注意を集中しながら、相手を伺う。後姿は確かにあのおじいさんだが、猫やマリアの反応から、さっきのおじいさんと何か違うと気付く。
「どうする?」
ルカは小声でシュンに問う。
「・・タイミングを見計らって行かないと、俺たちもやられる。」
「それって・・。」
「あれはおじいさんなのか、それともおじいさんが言ってた魔物なのか。それを見極めないと。」
シュンは部屋の中を見つめながら、ルカに注意した。2人はタイミングを計りながら、部屋の中を見つめた。
マリアは気を集中して防御をしていた。魔法使いの勘なのだろうか?あれはもしかしたら本当に魔物なのかもしれない。
「シュン、あれじゃマリアが持たないよ。」
「そだな。よし。奴を外に誘き寄せるんだ。」
シュンはそう言ってイキナリ部屋のドアを開けた。
「おい。じーさん。イキナリ女の子襲うのは、卑怯なんじゃねーか?」
挑発するように、シュンが言った。グルッと向き直ったおじいさんの顔は、夕食時に見たおじいさんとは違っていた。目が赤く光り、顔は土色だった。明らかに違う生き物・・。
「どうした?来いよ。」
おじいさん・・らしき生き物は、挑発には乗らず、マリアに向き直った。
「マリア、外へ!」
ルカが叫ぶ。マリアは防御を弱めることなく、そのまま窓をぶち破って外へ出た。魔物(仮)はマリアを追って窓から外に出る。
「ルカ、こっち。」
シュンに言われ、ロッピーを肩に乗せ、ルカは外へ出た。

外に出ると、マリアはこちら側、魔物(仮)は月を背にこちらを向いていた。外はしんと静まり返っていた。
魔物(仮)は月に照らされ、おじいさんの姿の後ろに巨大な影のようなものが現れた。
「何だ・・あれ?」
ルカは思わず呟いた。
マリアはシュンやルカの周りにも防御で覆った。
「マリア、大丈夫?」
「じぇらが居るから、いつもより少しの力で大丈夫なんです。それより、あれがおじいさんが言ってた魔物じゃないですか?」
「だよな。おじいさんも食われたってことか?」
ルカとマリアは首を傾げた。
「そんなことよりも、倒さなきゃ俺らが食われるぞ。」
「でもどうやって?」
そんな話をしているうちに、魔物は呻き出した。
「な・・何だ・・。」
魔物の呻きに答えるように、どこからか人が出てきた。
「人・・?」
「え・・どこから・・。」
「違う・・人じゃない。」
ルカとシュンの言葉をマリアが否定する。よく見ると、さっきのおじいさんのように目は赤く光り、顔は土色になっている。しかもその人数は少しずつ増えている。
しばらくするとルカたちを取り囲むようにその人だったらしい生き物が増えてきた。
「な・・んなんだ・・一体・・。」
取り囲まれ続ける一行は、作戦を練ろうにも頭がパニックになっていた。
「どうしたらいいんだ?」
ルカが一言発する。
「おい。ルカ。」
「え?」
シュンに呼ばれる。
「お前、あの魔物の弱点分かるか?」
「弱点?」
ルカは巨大な影を見た。巨大な魔物。赤い目をしていて、大きな口が開いている。
「どこが・・弱点なんだ・・。」
「・・この取り囲んでいる人たちは・・・この魔物に食べられたってことでしょうか?」
マリアは防御を弱めることなく、聞いた。
「そうかもな。」
人の形をしているだけで、きっと理性はなくなっている。
「この人たちを元に戻すことは・・できないのでしょうか・・。」
「分からない。とにかくあの魔物を倒すしかないだろう。」
シュンの言うことが一番正論だ。取り囲む人・・の形をしたものを、ルカとシュンは剣でなぎ倒した。それでも迫ってくる。
「ルカさん、剣を魔物に向けてください!」
マリアに言われた通り、ルカは剣を魔物に向けた。マリアは防御をしながら、攻撃魔法の呪文を唱えた。そしてルカの剣に触れる。すると、剣は青い光に包まれた。
「これはっ・・。」
「あの魔物の弱点はきっと額の辺りにある、あの印だと思います。」
マリアはそう言いながら自分の肩に乗っていた猫をルカの肩に乗せた。代わりにロッピーを引き取る。
「その剣で、あの額を貫いてください。」
「分かった。」
ルカは言われた通り、剣を構えた。
「俺がヤツらを食い止めるから、ルカ行け!」
シュンはルカの前の人らしきものをなぎ倒しながら魔物へ向かった。魔物に近づくと、シュンが横に避けた。ルカは思い切りジャンプして、魔物の額を目指し、剣を振り下ろした。
「ぐわぁぁあああ。」
魔物は叫びながら、後ろへ倒れた。魔物が倒れると同時に、取り囲んでいた人たちも突然倒れた。
「やった・・のか・・?」
余りにもあっさりとしていたので、ルカは不安になった。
「いや、まだだ!」
シュンが叫んだ。と同時に、魔物の体から煙がゆっくりと上がった。
「何だ・・。」
ルカは剣を構えたまま、魔物を見つめていた。周りに倒れている人たちは、倒れこんだままだった。シュンやマリアも何が起こるのか予想ができず、その場で構えていた。
「うがぁぁぁあああ!」
魔物が叫ぶと同時に、黒い影のような体が消滅する。その瞬間、マリアは嫌な感じを覚えた。
「来る・・。」
マリアは小さく呟いた。雲行きが段々怪しくなってくる。
「これは・・。」
空を黒い雲が覆い始めた。
「やっぱり・・。あれは、結構上級の魔物ですね。」
「だな。」
マリアの言葉にシュンが同意する。
「え?え?」
ルカだけ状況が読み込めない。上級の魔物って何だ!?
「ルカ、よそ見してっと食われるぞ。」
分かってるが、どうしたらいいのか分からない。煙が魔物を取り巻いていて、全く見えない。
しばらくして、ようやく煙が引いてきた。人影が見える。
「ふう。この格好は久しぶりだな。」
そう言いながら出てきたのは、人間の形をしていた。ルカたちは驚き入っていた。
「どうしてあの魔物から俺が出てきたか不思議なようだな。」
そう言いながらルカに近づく。
「俺はダーク。魔族だ。」
「魔族?魔族が何故ここに・・?」
マリアが問う。
「お嬢さんは魔法使いのようだな。」
「見習い・・ですけど・・。」
警戒しながらマリアが答える。
「それでも大した力持ってるじゃねぇか。」
何故か褒める。
「魔族って・・本来人間界に来ちゃ行けないんだろ・・?」
シュンは眉をひそめながら言った。
「そうだ。そうだな・・。俺を助けてくれたお礼に、俺が何故ココに居るのか話してやろう。」
「助けた・・?」
ルカは意外過ぎる言葉に引っかかった。
「それをひっくるめて話すよ。」
「その前に、この人たちを元に・・。」
「悪いけど無理だよ。」
ルカの言葉はあっさりとダークに否定される。
「え?」
「俺が食った。正確には魔物が食ったんだが。もう元には戻らない。」
「そ・・・んな・・。」
「俺の記憶が正しければこの町の人、全部食ったよ。」
「え?」
「全部って・・。ココの通りだけじゃなくて?」
「当たり前だろ。」
あっさりきっぱり言われる。
「じゃあ、昼間の人だかりは?」
「幻影。」
ダークが余りにもあっさりと言うので、ルカたちは気が抜けそうになる。
「お前らをこの通りに誘い出すために作ったんだよ。あのじいさんもな。」
「え・・じゃあ、おじいさんはあたしたちに会った時点では既に食べられていたの?」
「そうだ。じいさんは幻影で、じいさんが話していたのはじいさんの記憶だ。」
どう反応したらいいのか、分からない。
「その・・幻影を使う能力って、貴方の力?」
マリアが問うと、そうだと言うように頷いた。
「じゃあ・・ダークを・・魔物にしたってのは?」
シュンが先を聞きたがる。
「それを話すにはまず俺がどうして人間界に来たかを話さなきゃな。」
そう言ってダークは口を開いた。
「俺は魔界で・・スパイみたいな仕事をしてるんだ。10年ほど前に人間界で異変が起きたのをきっかけに密偵に来た。もちろん人間のフリしてね。」
そう言いながら、ダークは姿をポンッと変えた。変身能力があるようで、見事に人間の格好をしていた。
「すげっ。」
ルカは思わず声を漏らした。
「1年ほど人間に紛れて調査していたんだが、ある日現れたさっきの魔物に食われたんだ。」
「え?」
一同驚く。
「普通の人間なら食われておしまいなんだけど、俺はとっさに霊力のバリアを張ったんだ。だからずっとあいつの中にいた。」
「じゃあ・・9年間も・・?」
「あぁ。不思議なことにヤツは俺の魔力も使えるようになってさ。普通霊力のバリアを張ったら俺の力は守られるハズなんだけどな・・。」
「確かに・・そう・・ですよね・・。」
マリアも不思議がる。
「まぁ、あいつもいろんなヤツ食ってたみたいだから、進化してったのかもしんないけどさ。」
ダークは魔物が居た周辺を見た。もう既に消滅してしまったのか、跡形も無くなっていた。それが消滅すると同時に、人の形をしていたソレも跡形も無く消えていた。
「食べられた人は・・総てを食べられちゃうの?」
いたたまれなくなったルカは聞かずには居られなかった。
「そうだな。肉体もそうだが、その人の能力、記憶、総てヤツが取り込んでしまう。だから、俺の能力を使ってじいさんの幻影を作り出して、じいさんの記憶を語ってたんだ。」
「高度な魔物だな。」
ようやくシュンが口を開いた。
「あの魔物もそうなんだが、やっぱり人間界に異変があったことと関係あると思う。俺はまた調査に戻るけど・・お前らも気をつけた方がいい。」
「うん・・。」
3人は頷いた。
ダークはそう言うと、一度魔界に戻ると言って、飛び去ってしまった。残された3人は何だか力が抜けた。
「何か・・・ダークの話って俺らが追ってるヤツらと関係あるような・・ないような・・。」
ルカが呟く。
「10年前って言ってたな。おかしくなったのが。」
シュンが言い、ルカとマリアが頷く。
「10年前ったって・・俺ら子供過ぎて分かんねぇよな。」
「でも・・あたしが師匠に拾われてあの村に来たのも・・10年前なんです・・。」
マリアが呟く。
「え?」
「詳しくは聞いてないんですが、師匠があの村に来る前にあたしを拾ったらしくて・・。」
「10年前がキーワードか。」
シュンが呟いた。
「だな・・。でもよかったよ。1つでも手がかりができたんだから。」
ルカは自分に言い聞かせるように言った。
「そうだな。」
「旅、続けよう。やっぱり俺、両親の復讐だけなんかじゃ終わらない気がする。」
ルカの言葉に2人は頷いた。
空は既に白みかけていた。