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  ACT.12 everyday life 12-2  

 奈月は週末、バンドの練習前に沙紀の妹、真紀の見舞いに来ていた。
「見て。綺麗やろ?」
 奈月は持ってきた花束を真紀に見せた。
「わあ。どしたの? こんなにたくさん」
 聞かれ、奈月は一瞬返答に困った。実は一真のファンから送られてきたものだったりするのだ。しかし一真のことはまだ真紀には話していない。
「実はお兄ちゃんがもらってきたんやけどね。うちってほとんど家、留守にするから勿体ないなぁって」
 嘘ではない。
「そっか。ありがとね」
 真紀は素直に納得し、お礼を言った。何故か少し心が痛む。
 一緒に来ていた沙紀が、その花束を持って病室を出て行った。奈月はそれを見送り、真紀に向き直った。
「今日は体調ええの?」
 真紀はベッドを起こし、座っている。もちろん体調がいい悪いに関わらず、あまり長居はしないようには心がけている。
「今日は気分がいいんだ。天気がいいからかな?」
 真紀はそう笑顔で答え、窓の外を見やった。外は青空が広がっていて、近づいてくる夏を予感させるほどの晴天だった。梅雨は一体どこに行ったのだろう? と思わず首を傾げてしまうほどだ。
 真紀の顔色がいつもより良いことに気づき、奈月はホッと胸を撫で下ろした。
「そう言えば、お兄ちゃんが奈月ちゃんのバンドに入ったって本当?」
 奈月に向き直った真紀の目が妙に輝いている。
「あー、うん。そうやけど。情報早いね?」
 奈月がそう言うと、真紀はフフッと笑った。
「武ちゃんに聞いたの」
 その言葉に奈月はなるほどと納得した。それにしても武人は情報を伝えるのが早い。沙紀が加入したのは先週の話だが、沙紀はまだ話していないと言っていたので、今日はその話をしようと思っていたのだった。
「そっか。うちが言おうと思ってたのにー」
 恨めしくそう言うと、真紀はクスクスと笑った。
「でもどう? お兄ちゃんが入って、何か変わった?」
 真紀に聞かれ、奈月は頷く。
「うん。何よりベースボーカルから解放されたんが一番かな?」
 そう言うと、また真紀は笑った。
「あはは。やっぱり大変なの? ベースボーカルって」
「結構大変。リズムキープしながらってのが……」
 そう答えると、真紀は「そっか」と頷いた。
「奈月ちゃんの歌、聞いてみたいな」
 真紀が呟く。奈月は思わず苦笑いを浮かべた。
「でもまだ聞かせられるようなんとちゃうからなぁ」
「ライブとかしないの?」
 間髪入れずに真紀に聞かれる。
「一応はライブ目標でやってるんやけど。……もし外出許可出たら、ライブ見に来てくれる?」
 そう聞くと、真紀は明るい笑顔で頷いた。
「もちろん」

 しばらく談笑をした奈月と沙紀は病室を出て、駐輪場に向かった。今日も例のごとく沙紀のバイクでやって来たのだ。
「そっか。武に先に言われてたか」
 沙紀がバンドに入ったことを言おうと決めてたのに、先に言われてたのでちょっとつまらなかった。そのことを沙紀に報告すると、沙紀は笑った。
「武ちゃんも酷いよねー。うちも真紀ちゃんが驚くの楽しみにしとったのに」
 ぷぅと頬を膨らませると、沙紀は更に笑った。
「それは直接本人に文句言え」
「ホンマね! 絶対文句言うたる」
 そう言うと、また沙紀は笑った。武人のオロオロする姿が目に浮かぶようだ。
 しかし沙紀が何故笑ってるのか分からず、奈月は首を傾げた。
「何笑っとん?」
「いや、別に」
 いつもそう言って、はぐらかされる。別に面白いことを言っているつもりなんてないのに……。沙紀の笑いのツボがよく分からない。

 お昼はまた智広の実家の食堂で済ませ、二人は武人の家に向かった。
「おー。来た来た」
 二人が着くと、武人が待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。秀一は既に来ていたが、まだ練習は始めていなかった。
「まだ練習始めとらんの?」
 いつもなら先に二人で合わせてたりするのに、と奈月が尋ねる。
「あ、そうそう。そのことなんだけど!」
 そう言いながら、武人が勢いよく立ち上がった。
「今日はスタジオでやってみないかい?」
「え? スタジオ?」
 あまりに突然の提案に、奈月は首を傾げる。
「予約してんのか?」
 沙紀が訊くと、武人は首を振った。
「ううん」
 あまりにあっさりと首していたので、沙紀は呆れて溜息をついた。
「お前な。平日ならまだしも、週末は予約しなきゃ入れないだろ!」
「大丈夫だよ」
「何が?」
 何とも自信たっぷりに言われ、沙紀は怒る気力が失せながらも聞いてみた。
「ヤッさんとこだし!」
「……」
 武人の魂胆が丸分かり過ぎて、溜息も出ない。
「それはお前、奈月をダシに行くってことか?」
「んー、違うな」
 沙紀の問いに、武人はチッチッと右手の人差し指を振った。
「あ?」
「こないだヤッさんに会った時に、スタジオ練習したいって話したら、最近暇だからいつでも来いって言われたのさ!」
 武人は右手の親指をグッと突き立てた。
「いくら暇でもそれは常識としてどうなんだ?」
 秀一も呆れながらツッコんだ。
「大丈夫だって。行こうって」
「待て」
 武人が意気揚揚と出て行こうとするのを、沙紀が肩を掴んで引き戻す。
「何だよ?」
「先に電話しろ」
「えー?」
 沙紀の言葉に武人はおもむろに嫌な顔をした。
「いいからしろ」
 沙紀の気迫に負け、武人は渋々携帯電話をジーンズのポケットから取り出した。電話帳を検索する。
「えーっと……あれ? ヤッさんにかけたらいいんだっけ? 店?」
「どっちでもいいだろ」
 武人の問いに、沙紀は呆れつつ答えた。
「らじゃ」
 武人はめんどくさくなり、履歴を探して、泰仁にかけることにした。
「ねぇ、沙紀くん」
「ん?」
 電話をしている武人を横目で見ながら、奈月は沙紀に話しかけた。
「ヤスくんのスタジオって?」
 まさか経営はしていないだろうが、武人の話だけではよく分からない。
「あぁ。ヤッさんのバイト先だよ。結構長いことバイトしてるから、店長代理みたいな感じになってる」
「店長代理?」
 まさかとは思ったが、結構すごいポジションにいることに奈月と秀一は驚いた。
「でもなー、スタジオが結構狭くて。その近くに他にもスタジオが新しくできたりして、あんま客来ないって言ってたな」
 沙紀は愚痴られた事を思い出し、溜息をついた。
「やから『暇だから来い』なんて武ちゃんに言うたんかな?」
「多分な」
 奈月の問いに、沙紀が頷く。
「だったら普通に予約取れるんじゃない?」
 秀一が言うと、沙紀の眉間に皺が寄った。
「多分な」
「沙紀くん、何でそんな難しい顔してんの?」
 奈月がそう聞くと、今度は頭を掻いた。
「……何か嫌な奴に遭遇しそうでさ……」
「嫌な奴?」
 沙紀の言葉を秀一が聞き返す。
「嫌な奴って?」
 何だか興味津々で聞いてくる奈月に、沙紀はプイっと横を向いた。
「教えん」
「何でよ!?」
 沙紀の態度に、思わず怒鳴る。
「お前ぜってー首突っ込んでくるから」
「えー?」
 沙紀の言うことを否定しようとすると、秀一がクスクスと笑っているのに気づいた。
「秀ちゃん、何笑ってんの?」
「いやぁ……確かに首、突っ込みそうだと思って……」
 秀一が笑いを堪えながら答える。
「なっ!」
 秀一の言い分に、奈月は言い返す。
「首突っ込んだらあかんの?」
「そこかよ」
 思わず沙紀がツッコんだ。やはり沙紀はツッコミ役らしい。するとまた秀一が笑った。
「いい漫才コンビだな」
「漫才やってないから」
 沙紀が即否定する。
「沙紀くん、漫才嫌い?」
「お前、何か間違ってる」
 奈月の問いにまたツッコむ。そのやり取りにまたまた秀一は笑った。
「何か面白いことでもあった?」
 ようやく電話を切った武人が会話に参加する。
「別に何もねぇよ。それより何だって?」
 沙紀が話を進める。
「あぁ。空いてるからいつでも来いって」
「その割には長電話だったな」
 沙紀はそう言いながらベースを背負い直した。
「いやぁ……まぁね」
 何かを隠しているような武人の口ぶりに奈月が気づく。
「何かあったん?」
「え? いや。何もないよ」
 奈月に聞かれ、武人は慌ててそう答えた。
「何だ? 気になるから言え」
 沙紀が睨むと、武人がチラッと奈月を見やった。
「……練習の時に、ヤッさんも奈月ちゃんの歌聴きたいってごねるからさ……」
「何抜かしてんだ、あのオッサン」
 武人の言葉に、沙紀が暴言を吐いた。
「オッサンって……。沙紀くん、ヤスくんのこと嫌い?」
 さっきの『漫才嫌い?』の言い方と同じ言い方で奈月が問う。
「好きか嫌いで言ったら嫌いだな」
「そんなはっきり……」
 思わぬ即答に、奈月もどうツッコんでいいのか分からなくなった。
「まぁとにかくスタジオ行こうぜ。結局ヤッさんを説得できなかったけど」
「お前何気にすごいことをさらりと言ったな」
 武人の言葉を沙紀が拾う。
「いやぁさ、電話じゃ埒が明かないと思ったからさ」
「武、お前……」
「ん? 何?」
 何故か沙紀の眉間に皺が寄った。
「そんな難しい言葉知ってたんだな!」
「失敬な!」
 沙紀の驚き方に、武人は間髪入れずに言い返した。
「せやで。沙紀くん、失礼やわ。武ちゃんやってそれくらい知ってるよね?」
「う、うん」
 思わぬ奈月の加勢に、なぜか妙に複雑な気分になる。
「あれ? 武ちゃん。どうかしたん?」
「……何か妙に切なくなって……」
 そう言いながら、武人は胸を押さえた。
「え? 何で?」
「男心は複雑なんだよ」
 秀一がクスクス笑いながら、武人の代わりに答える。
「へ?」
「おら。ウダウダ言ってねぇで、さっさと行くぞ」
 ベースとエフェクターケースを持って準備万端な沙紀が、奈月の頭をペチッと叩いた。
「いたっ。もー。沙紀くん、暴力はんたーい」
「はいはい」
 二人は再び漫才をしながら、湊家のガレージを出て行った。
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