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  ACT.12 everyday life 12-1  

 翌朝。学校に行く準備を済ませた奈月は、まず朝食を作った。いい香りが充満しているにも関わらず、昨晩酔い潰れてリビングで寝ているsparkleのメンバーは誰一人として起きやしない。
 呆れつつ、奈月は朝食を取った。どうやってこいつらを起こそうか? と思案する。
 ただ揺すって起こしても、きっと起きない。
 布団を剥げばどうだろう? 冬なら効果はありそうだが、暖かくなってきた最近ではあまり効果はないかもしれない。
 しかし何もしない訳にもいかない。昨日、兄は午前中から仕事があると言ってたのだから。
「お兄ちゃん! 起きて!」
 まず一真を揺すって耳元で大声で叫んでみたが、眉根を寄せて寝返りを打たれた。
「起きろ!」
 今度は布団を剥いでみるが、寒いのか丸く縮こまっただけで、やはり起きない。
「どうしろって言うんよ」
 もうどうやったって起きる気配がないのだ。ふと時計を見ると、そろそろ家を出なければいけない時間だった。
「お兄ちゃん! うち、もう学校行くで?」
「うーん……」
 一応返事らしき声が漏れたが、やはり起きない。
「起きんで遅刻しても知らんよ?!」
 そう怒鳴ったとき、家の電話が鳴った。朝から誰だろう? と思いつつ、近くにあった子機を見ると、衛の名前が点灯していた。
「もしもし?」
『おはよー。奈月ちゃん』
 朝からテンションの高い声が受話器の向こうから漏れる。
「おはよ。衛くん、どうしたん?」
『いやー。あいつらどうしたかなぁって。どうせ起きてないんやろ?』
 どうやら心配だったらしい。衛はお酒を飲んでいないが、衛以外のメンバー四人は浴びるようにお酒を飲んでいた。衛の心配も良く分かる。
「ご名答。お兄ちゃんを揺すって耳元で怒鳴っても、布団剥いでも起きんよ」
 そう言うと、衛は「やっぱり」と大爆笑した。
『でもそろそろ奈月ちゃん、学校行かなあかんのちゃうん?』
「そうなんよ。どうしようかと思って」
 考えあぐねていたところに、衛から電話がかかってきたのだ。
『ならさ。俺そっち行って、そいつら起こすわ。奈月ちゃんは学校行きなー』
「え。でもどうやって入るん?」
 ここは一応一階の玄関でセキュリティがかかっている。暗証番号を入力するか、インターホンで開けるかのどちらかでしか開かない。
『大丈夫。俺、前に黒ちゃんに暗証番号教えてもらったことあんねん。それで入れるはず』
「それならええけど」
『そいつらは俺がちゃんと仕事連れてくから、奈月ちゃんは安心して学校行ちゃってー』
 奈月の選択肢には、衛に任せるしかもう残っていなかった。学校へ行く時間も迫っている。
「分かった。じゃあ、衛くん、お願いします」
『はーい』
 無駄に元気な返事が返ってくる。
「あ、朝ご飯作ってるから食べてね」
『マジで! ありがとう』
 衛は嬉しそうに返事した。
「何かあったら連絡してね」
『うんうん。そうするよ』
 奈月はこの場を衛に任せ、学校へと急いだ。

 一時間目が終わった休憩時間。奈月はメールが着ていることに気づいた。開いてみると、衛からだった。
『今仕事場に向かってるとこー。ちゃんと起こしたから安心してね! 朝食ありがとう! うまかった♪』
 添付されていた写真を一枚開いてみると、車の中で眠っている衛以外の四人が写っていた。
(やっぱり寝てるやん)
 思わずツッコんだが、一応起きて準備をしたのだろうからまぁいいとしよう。
 二枚目を開くと衛が大きな口を開けて、奈月お手製のサンドイッチを食べている姿が写っていた。
 衛らしいと思わず笑みが漏れる。
「何ニヤニヤしてんだ?」
 ツッコまれ、顔を上げるとあきらがいた。
「何でもない」
 この写真を見せるわけにはいかない。携帯電話を閉じ、ポケットに入れた。
「何だよ? 彼氏からか?」
「そんな人おらんって」
 あきらはいつもこうやって奈月をからかう。
「それよりどうかしたん?」
 あきらが声をかけてくるのは、珍しい。
「あー、うん。あのさ。昼休み、相談乗ってもらいたいことがあるんだけど。いいかな?」
「うん。ええよ」
 快諾すると、あきらは少しホッとした表情を見せた。
「よかった。じゃあ、昼休み」
 そう言って、あきらは自分の席に戻って行った。
(相談なんて珍しい)
 そう思いながらも奈月は次の授業の準備をした。

 そして昼休み。いつものメンバーで屋上に上り、昼食を取る。
「奈月、秀。遅くなったけど」
 そう言ってあきらが取り出したのは、以前に奈月と秀一がモデルになって撮った写真だった。
「あー、そういやこんなことしてたな」
「秀ちゃん。そんな他人事みたいに……」
 あまりにさらっと言い放ったので、奈月は思わずツッコんだ。
「おー。結構綺麗に撮れてんじゃん」
 武人も並べられた写真を覗き込む。
「当たり前だろ。あたしが撮ったんだから」
「いいのはモデルだろ?」
 あきらの言い分に、秀一がツッコんだ。
「両方いいんだよ!」
 妙な空気を察知した武人が叫ぶ。するとあきらはコホンと咳払いをした。
「まぁとにかく、相談って言うのは、これだ」
 そう言ってあきらは写真を指差した。
「写真がどうかしたん?」
 何を言いたいのかが分からず、奈月が訊く。
「この写真を、コンテストに出したいんだけど。いいかな?」
 思わぬ言葉に奈月たちは驚いた。
「コンテスト?」
 秀一が聞き返す。
「そう。これ」
 そう言ってあきらはポケットから紙を一枚取り出し、奈月と秀一に見せた。それは写真コンテストのチラシだった。
「これに出すん?」
 奈月の問いに、あきらが頷く。
「うん。腕を試したいんだ。自分が今どれくらいの技術を持ってるのか分からないけど、この写真は今までで一番良く撮れてるから」
「どれを出すんだ?」
 秀一が広げている写真を見ながら聞いた。
「おいらならこれだなー」
 武人が奈月のワンショットを指差す。
「あ、俺もそう思った」
 秀一が同意し、当の奈月も頷いた。
「うちもそれかなぁ? 自分で言うんも変やけど」
「三人ともアタリ。それを出そうと思ってた」
 あきらが苦笑する。その写真は、ちょうど天気雨が降リ始めた時の写真だった。他にも秀一とのツーショットがあるが、この写真だけは強い意志のようなものを感じた。
「奈月がいい表情してくれたからなぁ。この強い目がかっこいいよな」
 あきらは満足そうにその写真を眺めた。
「そうだな。凛としてて、かっこいいよな」
 秀一も同意する。
「何か……普段の奈月ちゃんとちょっと違う感じがするー」
 武人が唸る。
「いいんだよ。それで」
「へ?」
 あきらの言葉に、武人がマヌケな声を出した。
「写真ってのは、笑顔を写すだけじゃない。いろんな表情を捕らえるもんなんだ」
「そっか」
 納得した武人はもう一度写真を見た。
「……何かエロイな」
「え?」
 武人の呟きに奈月が驚く。しかし秀一はやっぱりという表情を浮かべた。
「武もそう思う?」
「やっぱり秀も?」
 男二人で何やら納得している。
「お前らなぁ。芸術作品に何て事を……。確かにエロイが」
「ちょっと! あきらまで何て事言うんよ?!」
 味方だと思っていたあきらまでがそんな発言をするので、奈月は焦った。
「いやぁ、この雨に濡れた髪とかさ。これはあんまり写ってないけど、濡れた服とかヤバイよ?」
 秀一が解説してくれるが、嬉しくない。奈月は写真をかき集めた。
「もー! そんなん言うやったらコンテスト出したらあかん!」
「じょ、冗談だって!」
 まさかの行動に出た奈月に、あきらが焦る。
「でもさ。俺はいいと思うよ。自分の力を試すって、すごい勇気のいることだけど、夢に少しずつでも近づけてる気がするよな」
 秀一の言葉に、奈月も頷いた。
「それは……うちもそう思う」
「じゃあ……」
 奈月の言葉に、あきらは期待する。
「ええよ。コンテスト出しても。てか、出すべきやと思う」
 奈月にそう言われ、あきらは笑顔で頷いた。
「うん」
「結果はちゃんと教えてくれよ」
「それはもちろん」
 秀一の言葉にもあきらは笑顔で頷いた。
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