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STAGE 6  文化祭  6-4

「雄ちゃん!」
 電話をくれた雄治と涼は現場である体育館裏の廃材置き場にいた。雄治が中を指差すと、虎太郎がこの倉庫の中でスヤスヤと眠っているのが見えた。
「コタロォ……」
 樹里は安堵し、脱力する。
「何でこんなとこに?」
 晴樹が訊くと、雄治は「さぁな」と呟く。
「ちなみにココ、鍵かかってたぞ」
「え?」
 雄治の言葉に樹里は驚いた。雄治が職員室から借りてきた鍵で倉庫を開けたらしい。
「何で鍵が……」
 晴樹が疑問を口にすると、涼が口を開く。
「まぁ一つ言えるのは、誰かが仕組んだってことだろな。じゃなきゃこいつが勝手にどっか行くわけない」
 涼の意見は納得できるものだった。そこに拓実も現れる。
「虎太郎は?」
 聞かれ、全員で中を指差す。その中を見て、拓実は力が抜けたのか、そこにしゃがんだ。
「何でこんなとこに……」
「とにかく急がないと、コンテストが始まっちゃう!」
 樹里は時計を見てそう言うと、虎太郎を起こす。しかし虎太郎は寝ぼけているのか、二度寝に入ろうとした。そこで雄治がまだ半分寝ている虎太郎を担いで体育館に向かった。

 晴樹はステージの上で歌っている樹里を見つめていた。
 樹里はいつも堂々としていて、自分よりもかっこいい。さっきの事件なんてなかったかのように明るく歌っている。
 虎太郎も目が覚めたのか、どうにかちゃんと演奏していた。
(樹里は……俺のどこが好きなんだろ……?)
 ふとした疑問が沸く。樹里ならきっともっといい人がいるはずなのに……。
(こんなこと考えてる俺って……)
 自己嫌悪に陥る。せっかく樹里が自分を好きだと言ってくれたのに……。
「何、百面相してんの?」
「うをっ」
 またしても突然現れた沙耶華に晴樹は驚いた。
「お前、イキナリ現れんなよ」
「ずっと後ろにいたよ」
「さいですか……」
 あっさりきっぱり言われると反論できない。
「虎太郎、見つかったんだね」
「うん」
 校内放送までしたのだ。校内にいる全員が知っているだろう。
 ふと沙耶華が口を開いた。
「さっきね。恭一くんに告白されちゃった」
「へ?」
 突然の話題に晴樹の思考は一旦停止したが、すぐにその事態に気づく。
「え? なっ?」
「びっくりしたよ。そんな風に恭一くんのこと、見た事なかったから……」
 沙耶華はステージを見つめていた。
「お前……ちゃんと言ったのか?」
 晴樹の問いに沙耶華は頷いた。
「言ったよ。って言うか、バレてたけど」
 沙耶華は苦笑した。恭一は沙耶華の好きな人に気づいていたのに告白したのだ。
「沙耶……」
「皮肉だよね……。あたしはあたしを見てくれない人を好きで、あたしを好きだって言ってくれた人を傷つけちゃった」
 沙耶華が泣きそうだと気づく。必死で堪えている姿が切ない。いたたまれず、晴樹は口を開いた。
「恭一は、傷ついてないと思う」
「え?」
 晴樹の言葉に驚き、沙耶華は視線を晴樹に移した。
「沙耶はちゃんと自分の気持ち言ったんだろ? だったら、傷つくってよりは、すっきりするんじゃないかな?」
「そんなものなのかな?」
 沙耶華に聞かれ晴樹は頷いた。
「そんなもんだよ。恭一、傷ついたような顔してたか?」
 晴樹に聞かれ、沙耶華は恭一の顔を思い出した。寂しそうな笑顔は浮かべたが……。
「してない……」
「だろ? だから沙耶が気に病むことないよ」
 晴樹はそう言って、沙耶華の肩を叩いた。
「ハルは優しいね」
「へ?」
 突然話題が自分に変わり、晴樹は驚いた。
「まぁ優しいから樹里が好きになったんだけどね」
 あっさり付け足され、晴樹は動揺すると、沙耶華はクスッと笑った。
「樹里ってさ。強情なとこ、あるじゃん?」
 沙耶華の言葉に頷いた。意地っ張りな部分があるのは、幼馴染の晴樹はよく知っている。
「だけどハルはちゃんとそれを分かってるし。こないだ樹里が思いきり泣けたのだって、ハルのおかげだと思うよ」
「そ……かな?」
 あの時は、本当に驚いた。樹里があんなに泣いたのを初めて見たのだから。
「樹里が心の奥に閉じ込めてたものをハルが開放したんだよ」
 そう言われると何だか照れる。
「まぁ正直、樹里があんな形で告白するとは思わなかったけどね」
 沙耶華は思い出して笑った。晴樹も苦笑する。確かにあの告白は青天の霹靂だった。
「でも樹里を見て、あたしも頑張ろうって思った」
 沙耶華は強い決意を表すように、力強く言い放つ。
「え? それじゃあ……沙耶……」
「あたし、当たって砕けるよ」
 沙耶華は真剣な眼差しでそう言った。晴樹も思わず沙耶華を見つめる。
「いつまでも怖がってちゃダメって分かったんだ。逃げてばっかじゃ、自分に負けちゃうもんね」
「沙耶……」
 そう言った沙耶華は以前よりも強くなったと晴樹は思う。
「今回の事件ね、何かいろんな事件が絡み合って、樹里が一番辛い思いしたと思う」
「そだな……」
 沙耶華の言葉に晴樹は頷いた。
「でも、樹里は一度も逃げようとしなかった。全部の事に前向きに立ち向かってた。そんな樹里を見てあたしは何ができるだろうって思ったの。樹里の支えになりたかった。それと同時に、自分も逃げてちゃダメだって思ったの」
 沙耶華はそう言いながら、眼鏡をゆっくり外した。その行動に、晴樹は更に驚く。
「沙耶……眼鏡……」
「これは今日で卒業するよ。眼鏡(これ)がなくても、人と向き合えるようにならなきゃね」
 強い口調で言う沙耶華は樹里のように凛としていた。
「そうだな。頑張れよ。人付き合いのことも、貴寛の事も」
 沙耶華は力強く頷いた。

 その頃、生徒会長である拓実と副会長の貴寛はダンスコンテスト会場である運動場で待機していた。
 拓実はふと貴寛を見やった。樹里を見つめるその瞳は、以前と変わっていなかった。貴寛の樹里を想う気持ちは本気だったのだと、第三者の拓実でも分かる。
「なぁ。貴寛」
 話しかけると、貴寛はこちらを向いた。
「お前、俺にずっと負けてるって言ってたけどさ。一つだけ俺がお前に負けてることがある」
「え?」
 拓実の思いもよらぬ言葉に貴寛は驚いた。
「確かに勉強もスポーツもお前に負けたくなくて頑張った。でも、一つだけ……どんなにがんばっても手に入らなかったものがある」
「な、なんだよ。それ」
 拓実が何を言おうとしているのか全く分からず聞き返すと、拓実はコンテスト会場の準備が進む運動場を見つめながら口を開いた。
「俺が好きな人は、俺を見てはくれなかった」
「……」
 拓実が誰の事を言っているのか、どう言う意味でそう言ったのか、貴寛には全く分からなかった。

 バンドコンテストが終わると、続いて運動場でダンスコンテストが行われた。バンドコンテスト同様、こちらも盛況した。
 予選を勝ち抜いただけあって、本格的なチームばかりだ。その中にいる晴樹たちは、最初こそ緊張したものの、自分たちの練習の成果をしっかり発揮できた。
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