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STAGE 3 疑惑 3-4
「樹里! 大変なの! すぐに来て」
ある日、劇の練習をしていた樹里は沙耶華に呼ばれた。
「え? どしたの?」
「いいから! 早く!!」
いつになく沙耶華が青い顔をしている。何かあったのだとすぐに気づいた。
「貴寛……」
樹里は思わず貴寛を見る。
「行って来いよ。こっちは大丈夫だから」
「ありがと」
貴寛は快く承諾したので、樹里は沙耶華と一緒に教室を出て行った。
樹里が連れて来られたのは、バンドの練習のために借りている教室だった。ドアが開きっぱなしになっている教室を覗いた。
「これ……」
教室一面に楽譜がばら撒かれていた。その楽譜は教室に置きっぱなしにしていたものだと気づく。樹里はばら撒かれた楽譜の真ん中にいる人物に近づいた。
「虎太郎」
声をかけると、虎太郎が振り返る。
「ジュリ……」
虎太郎は既に大粒の涙を流していた。近づいた樹里は、震えている虎太郎を抱きしめる。
散らばっている楽譜はどうやら虎太郎の物らしい。
「よしよし。大丈夫だよ」
樹里はまるで小さい子を慰めるように虎太郎の頭を撫でた。
「これは一体……」
雄治に呼ばれた拓実が教室を見て、声を漏らす。
「ったく。誰だよ。こんなことするの……」
いつの間にか来ていた涼が教室の入り口で呟く。
「コタ……」
虎太郎に話しかけようとした拓実を、樹里が静かに止めた。
その場にいる全員は虎太郎の経歴を知っている。アメリカで酷いイジメに遭っていたこと、そしてそれを知った虎太郎の父親が、亡くなった母親の故郷である日本に虎太郎を連れて来たこと。
「とにかく片付けよう」
しばらくして樹里は虎太郎の腕を優しく解き、立ち上がった。散らかっている楽譜を拾い始めた樹里に倣って他の人たちも片付けを始めた。
「あれ? これ……」
楽譜を拾っていた拓実はその中の一枚を取り上げた。
「『音楽をやめろ』」
拓実が読み上げ、皆に見せる。それは楽譜に血のように赤い字で書かれていた。
「……誰が……こんなこと……」
全員が不思議に思う。大体、こんなことをしても誰も得をしない。
「何のために……?」
次々に起こる疑問。
「大丈夫かっ?」
教室に駆け込んできたのは晴樹だった。沙耶華からメールで事情を知らされ、飛んできたのだ。
「ハル」
「大丈夫。楽譜をばら撒かれただけだから……」
拓実はあんまり心配をかけないように、そう言った。
「誰かのイタズラだべ」
雄治が苦笑いする。本当にそう思いたい。
「その割りに虎太郎が脅えてるじゃん」
ずっと震えている虎太郎を見やる。
「フラッシュバックしちゃったみたい」
樹里が耳打ちすると、晴樹は納得した。どんなイジメを受けたのか等の詳細は知らないが、相当酷かったのだろう。トラウマになるほどに。
「俺も手伝うよ」
晴樹も教室一面にばら撒かれた楽譜を拾うのを手伝った。
「ありがとね」
楽譜を順番通りに並べ終えた樹里がお礼を言う。
「いや、礼を言われるほどのことしてないよ。……それよりさ……これって今までの事件と関係あるんかな?」
「今までの事件と?」
晴樹の言葉に樹里が反応する。
「うん。だってさ……何で急にココがやられてたのかは分かんないけど……。でもイタズラでここまでやるかなって」
「そりゃ、まぁそうだけど……」
拓実は溜息混じりに言葉を発した。
「じゃあ犯人の目的って何?」
樹里が質問する。問われた晴樹は戸惑った。
「も、目的?」
「だって、何の目的もなしにこんなことしないでしょ?」
樹里の言うことはもっともだ。犯人には何かしらの動機はあるはずだ。しかしその目的が何なのか、全く思いつかない。
「あたしが思うに犯人の目的は『あたし』なんじゃないかと思うの」
全員が悩んでいると、樹里が静かに口を開いた。
「樹里が目的?」
「どういうこと?」
拓実と雄治が樹里に訊ねる。
「まずうちのクラスの劇の衣装やセットが壊された事件、数日前に感じた誰かの視線、それにこれ。全部あたしが関係してる」
言われてみればそうだ。全て樹里が関わっている。誰かの視線というのは置いておくとしてもだ。
「そらそうだけどさぁ……」
雄治は納得が行かない。だけど否定するにもどう返せばいいのか分からない。
「だったらこんな遠回しなことするか? それだと俺のクラスの衣装がボロボロにされた理由の説明がつかないぞ」
拓実が意見すると、樹里は言葉を濁した。
「それは……分かんないけど……」
「樹里、考えすぎだ」
今まで黙って聞いていた涼がポンっと樹里の肩を叩く。
「そうかなぁ?」
「そうだよ。全部偶然的に樹里が関わってるけど。考えすぎだ」
「そうだな。涼の言うとおりだと思うよ」
拓実が同意する。
「んだんだ。それに樹里にはアレがあるだろ?」
雄治が意地悪そうに笑う。
(……アレ……ね)
晴樹は思わず苦笑いを浮かべた。
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