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STAGE 2  事件?  2-4

「うーん。別に怪しい人いないな」
 職員室では晴樹と樹里が唸っていた。
 大人数で行っても仕方ないので、二人で調べに来たのだ。担任に事情を説明し、利用者名簿を見せてもらえることになった。
「そうだね。ココの鍵借りに来たのって、うちのクラスばっかだし」
「内部に犯人はいないだろうし……」
 もしいたとしたら動機が分からない。衣装やセットを壊せば、作り直さなければいけなくなるのは、犯人自身もそうなのだから。
「変……だよね。やっぱり」
「ん?」
 呟いた樹里に、晴樹は顔を上げた。
「だってさ。虎太郎が言ったみたいに、衣装がやられたときは何ともなかったじゃない? なのに誰かに見つかるかもしれないのに、鍵まで開けて中に入ってセットを壊すのって、大変だと思わない?」
 樹里の言葉に晴樹は頷いた。
「確かにな。今の時点じゃ誰が犯人かも全然分かんないし」
「動機も、だよ」
 樹里が付け足す。
「そうだな」
 動機は何だろう? 劇を中止させたいのだろうか? だとしたら、ベル役を取れなかった女子恨み? 今のところ動機といったらそれしか浮かばない。しかしそれは内部犯だった場合だ。
 外部犯の場合の動機は何だろう? 樹里か貴寛のファンが相手が気に入らないから、中止させようとしているのだろうか? ただのイタズラにしては手が込んでる。
「……ね」
「え?」
 考え事をしていた晴樹は、樹里の言葉を聞き取れず、聞き返した。
「やっぱり怪しい人いないよ。……ねぇ。ドラマみたいにさ、ヘアピンとかでちょこちょこってやって開けたとか?」
 樹里の冗談に晴樹は苦笑する。
「だとしても素人がやるには難しいんじゃね?」
「そっか。そうだよね」
 やっぱりダメかと樹里は苦笑した。晴樹は溜息をついて、一通り見た名簿を閉じた。
「さて、一回戻るか?」
「そうだね」
 二人は担任に名簿を返し、職員室を後にした。


 教室に戻る途中、他のクラスも準備を進めているのを横目に見ながら、二人は廊下を歩いていた。
「……!」
 ふと遠くで叫び声が聞こえた。晴樹と樹里は思わずお互いの顔を見合わせた。
「今、聞こえた?」
「うん。誰かの叫び声」
 二人は叫び声が聞こえた方に向かう。こっちには拓実のクラスがある。辿り着くと、拓実のクラスには既に人垣ができていた。
「どうかしたのか?」
 晴樹が近くにいた男子生徒に聞いてみた。
「ああ。見ろよ。これ」
 指差された方を見ると、そこには無残に切り裂かれた衣装があった。確か拓実のクラスは女装喫茶なので、恐らくその衣装だろう。
「ひどい。何でこんなこと……」
 樹里はその惨状を見て、思わず呟いた。
「ざけんなって感じだよな。折角作ったのによ」
 彼は怒りをどこにぶつければいいのか分からず、ただグッときつく拳を握った。
「だよな。俺らのクラスは劇なんだけどさ。衣装もセットもやられたんだ」
 晴樹がそう言うと、彼は溜息を吐いた。
「そりゃ、ツライな。ったく。誰だよ。こんなことするヤツ」
 彼は愚痴りながら教室に入って行った。
「同一犯かな?」
 樹里が晴樹に問い掛ける。
「どうだろう? でもその可能性はあるな」
 晴樹は切り裂かれた衣装を見つめた。
 切り裂かれた衣装、壊されたセット。誰が何のためにしているのかがさっぱり分からない。しかも晴樹たちのクラスだけでなく、他のクラスにも被害が出ている。
「樹里。教室戻ろう」
「え? うん」
 二人は急いで自分たちのクラスに戻った。


 二人が戻って来た時にはクラスのメンバーは今日は諦めたのか、ほとんど帰っていた。拓実もクラスの人に呼ばれたのか、既にいなくなってる。
 晴樹と樹里は残っていた貴寛たちに名簿に怪しい人物がいなかったことを報告をした。もちろん拓実のクラスの事件のことも。
「俺らのクラスだけを狙ってんのかと思ったけど、どうやら違うみたいだな」
 話を聞いた貴寛が口を開いた。
「動機が分かんないけど、このままだともっと他のクラスも被害を受けるかもしれない。そうなれば文化祭だって中止しなくちゃいけないかもしれないな」
 ポツリと言った貴寛の言葉に晴樹は閃いた。
「それだ! 動機」
「え?」
 晴樹の叫びに、一同が驚いた。
「もしかして俺らの劇じゃなくて、文化祭自体を中止させたいんじゃないのか? 俺、さっきまでこの劇に対してあんまりよく思ってない奴が犯人だと思ってたんだ。だけど、文化祭自体を中止させたいとしたら……?」
「他のクラスがやられた理由も分かるな」
 恭一が深く頷いた。
「だとしても、何で文化祭自体を中止させたいのかも分からないじゃないか」
「……そっか」
 貴寛の言うことはもっともだ。せっかく突破口が開けそうだったのに、一気に振り出しに戻る。
「とにかく今日は帰ろう。樹里たちはバンドの練習してたんだろ?」
「あ、うん」
 貴寛の言葉に樹里が頷いた。
「一応鍵しとくよ。後は俺がやっとくから、練習行ってきな」
 貴寛は鍵を見せながら立ち上がった。
「分かった。よろしくね」
 貴寛の言葉に甘え、晴樹たちはそれぞれの練習に向かった。


「ハル。どした?」
 樹里たちと別れ、ダンスの練習に戻った晴樹たちだったが、晴樹の様子がおかしいことに恭一が気づいた。
「いやぁ。さっきのさ……」
「うん?」
「虎太郎も言ってたけど、何で衣装とセットと分けてやったんだろう?」
「……さぁ?」
 晴樹の問いに、恭一は首を傾げた。
「まだ考えてんの?」
 要と陽介も会話に入ってくる。
「だって気になるじゃん」
「そりゃ分かるけどさ」
 陽介は同意するが、未だに考え続けている晴樹には呆れているようだ。
「それと何で新藤のクラスもやられたかってことだよなぁ」
「うん……」
 恭一の呟きに、晴樹は頷いた。やはり文化祭を中止させたいからなのだろうか?
「でもさ、今考えたって分かるわけないじゃん。犯人の目的も分かんないし。それより練習しようぜ」
 要が立ち上がり、CDを準備する間に、四人は位置に付いた。曲を再生し、一通り完成しているところまで踊る。
「問題はここからだな」
 曲の半分ほどまで踊ると、曲を流したまま晴樹が唸った。
「後半はもっとハードなカンジにしたいなー」
「曲も盛り上がってくるところだしな」
 恭一の意見に陽介も賛同する。
「ラップ入れてみたらどうだろ?」
 不意に要が思いつく。
「ラップ?」
「そう。だってただ踊るだけじゃ、他のグループと一緒じゃん。どうせやんなら他がしないようなことしなきゃ」
「まぁ。確かに今までラップやりながら踊るってのはなかったよな」
 要の提案に晴樹が納得する。
「でも誰がラップ作るんだよ?」
「そりゃ俺たちでさ」
 恭一の問いに、要が当然というように答えた。
「そんなん無理だよ。歌詞なんて作ったことないし」
 陽介は消極的だ。
「じゃあ樹里にコツ聞くか?」
 晴樹の提案に全員一致で可決した。


「ラップのコツ?」
「そう」
 四人は練習終わりに樹里のもとにやって来ていた。樹里たちもバンド練習をしていたが、晴樹たちが来た時、丁度終わったところだった。
「ラップは作ったことないけど……。でも一番大事なのはやっぱ『韻を踏むこと』なんじゃない?」
「韻?」
 晴樹が聞き返すと、樹里は「そう」と頷いた。
「歌詞書くときもそうだけど、ノリのいい曲は韻踏んだ方がリズムに乗りやすいの」
「なるほど」
 晴樹が納得すると、要が後ろから声をかけた。
「あとは?」
「あとは……リズムに歌詞が合うようにしなきゃね」
「そりゃ当たり前だべ」
 樹里の言葉に雄治が口を挟む。
「意味が通じるようにもな」
 拓実がギターを片付けながら、付け足した。
「でもよく考えたな。ラップなんて」
 先に片付けが終わった涼は、スポーツドリンクを飲み干した。
「やっぱ他のグループと一緒だと印象には残んねーかんな」
 晴樹が答えるが、思いついたのは要である。
「楽しそうだな。ま、がんばれ。んじゃ、俺、先出るわ」
 涼は立ち上がると、ベースを持って出て行った。
「さてと。俺らも帰るか」
 雄治がそう言いながら、首を回すとゴキゴキと恐ろしい音が鳴った。
「あ、あたしスーパー寄って帰るから、みんな先に帰ってて」
「荷物持ちは?」
 晴樹が申し出ると、樹里は笑顔で断った。
「あー、大丈夫だよ。ありがと」
 そうして樹里は晴樹たちと別れ、一人で買い物に出かけた。
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