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STAGE 1  序曲  1-2

 帰り道。晴樹、樹里、虎太郎の三人は夕闇に染まる街並みをゆっくり歩いていた。
「そういや、ハル。今年は出ないの? ダンスコンテスト」
 樹里に尋ねられ、晴樹は唸った。
 この学園の文化祭ではダンスコンテストとバンドコンテストが開かれる。文化祭前日に出場希望者が集まり、全校生徒の前で予選が行われ、生徒たちは自分たちが一番いいと思ったバンドとダンスグループにそれぞれ一票ずつ投票する。生徒会がそれをそれぞれ集計し、上位三バンドと三チームが、文化祭当日客の前で発表ができる。そこで更に投票が行われ、それで順位が決まる、というシステムだ。
「うーん。だって去年のメンバー、今年は受験に集中したいからって、断られたし。一人で出てもな……」
 昨年は樹里たちのバンドと晴樹が作ったチームがそれぞれ優勝した。
「メンバーかぁ。今から探すのも難しいもんね」
「……うん」
 晴樹の唯一得意なものはダンスだ。しかし将来のことを考えると、悩んでしまう。
 幼馴染の樹里や拓実はそれぞれの夢に向かってちゃんと歩き出している。二人の夢はプロのミュージシャン。今現在、バンドを結成して、その夢に向かって進んでいる。それなのに晴樹自身は何もできていない。
 そんなことを考えながら歩いていた時、通りかかった公園から音楽が聞こえてきた。何だろう、と三人が公園を見ると、ダンスをしている三人が見えた。
「あれ? ねぇ、あれって、うちのクラスの佐伯くんたちじゃない?」
 樹里が踊っている三人を指差す。
「ホントだ。おーい!」
 晴樹は三人に駆け寄った。樹里と虎太郎も晴樹の後を追う。
「おう。ハルじゃん」
 駆け寄る晴樹に気づいた一人、吉岡恭一が顔をこちらに向ける。
「今帰り?」
「うん。三人は何してるの?」
「見ての通りのダンスの練習」
 佐伯要がタオルで汗を拭きながら答えた。
「俺たち今、ストリートダンスにハマっててさ。それで練習してたんだ」
 氷浦陽介が言葉を付け足すと、樹里が納得して頷いた。
「そうなんだ」
「文化祭とか出るのか?」
 思わず晴樹が質問すると、恭一が苦笑する。
「うーん。出られればね」
「どういうこと?」
 樹里が首を傾げた。
「だってどうせなら優勝したいじゃん? でもうちのコンテストって、毎年ハイレベルだから勝ち目ないかなーって」
 恭一の答えに、晴樹が反論した。
「でも諦めんの、もったいねーよ。せっかく練習してんのに」
「そうだよ。やるだけやってみなきゃ」
 樹里も晴樹と同じく三人を励ました。
「って言ってもな……」
 二人の励ましに、恭一は頭を掻いた。
「! なぁ、ハル。お前、確か去年出てたよな?」
 陽介がいきなり晴樹の肩を掴んだ。
「え? うん」
「ハルのチーム、優勝したんだよ」
 樹里が自分のことのように嬉しそうに話す。すると、陽介が首を傾げた。
「今年は出ないのか? コンテスト」
「いやぁ、出たいんだけどさ。去年のメンバーに受験に集中したいからって断られちゃって……」
 そう言うと、陽介は嬉しそうに笑った。
「ちょうど良い!」
「え?」
 話が見えず、思わず聞き返す。
「ハル、俺たちと一緒にやろうぜ」
「へ?」
 陽介の突然の提案に、晴樹は状況を飲み込めずにいた。
「な、いいだろ? 恭一、要」
 陽介が後ろにいた二人に聞くと、二人は驚いた顔をしつつも頷いた。
「え? まぁ、そりゃハルが一緒にやってくれんなら心強いけど……」
「俺も別に構わないけど……」
 二人の答えを聞いて、陽介はもう一度晴樹を見た。
「と言うことだ。一緒にやろうぜ」
「え?」
 話がどんどん進んでいくので、晴樹は付いていけなくなる。
「で、でもオレ、ストリートダンスなんて、やったことねーぞ!」
 そう言うと、陽介は笑った。
「いんだよ。俺らも素人なんだから」
「ハル。良かったじゃない。仲間、見つかって」
 樹里にそう言われてしまうと、やるしかなくなってくる。晴樹は腹を括った。
「んじゃ……よろしく」
「「よろしく」」
 晴樹が頭を下げると、三人も頭を下げた。
「じゃあさ、入ったってことで、とりあえずどんなのやってんのか、見せてくれよ」
 晴樹は三人にダンスを催促したが、三人は動こうとしない。
「どした?」
「踊る……のか?」
「そうだよ」
 恭一の確認に、晴樹は頷いた。
「誰が?」
「お前ら三人」
 要のボケに晴樹がツッコむ。三人は顔を見合わせた。
「どうしても?」
「どうしても! お前らの実力が分からなきゃ、どの程度のレベルでやるのか、見当つかねーだろ?」
「そりゃそうだけど……」
 三人はチラッと樹里を見た。その視線に気づく。
「ん? あたし、邪魔だった?」
「そんな!」
「違うよ!」
 樹里の問いを三人は焦って訂正した。
「何だよ。はっきりしろよ」
「いやぁ……」
 晴樹にそう言われても、曖昧な返事しか返ってこない。
「大方、樹里にカッコ悪い姿、見られたくないんだろ?」
 ふと頭上から声がした。見上げると見慣れた顔があった。
「雄治」
「よっ!」
 雄治がニカッと笑う。
「何やってんの? こんなところで」
 樹里が訊ねる。雄治はとっくに帰ってると思っていたのだ。雄治の家はこの道を通らない。
「そこ通りかかったら、ハルたちがいるの見えてさ。何やってんのかと思って」
「そうなんだ。ねぇ、雄ちゃん。さっき言ってたの、どういう意味?」
 樹里に聞かれ、雄治は説明をした。
「男にはプライドがあるって話。女の前でカッコ悪い姿なんか見せらんないってことだよ。でもさ、大丈夫だって。お前らの実力、俺が保証してやる。」
「見たことあんの?」
 晴樹の問いに、雄治は頷いた。
「おう。だってここでよく練習してるだろ? たまに見かけてさ」
「ノゾキ?」
「ちゃうわ!」
 晴樹の素の返しに雄治は思わず関西弁でツッコんだ。
「とにかく! やってみって」
「そうだよ。やってみてよ」
 雄治の言葉に晴樹も同調する。三人は渋々曲を再生させ、踊った。
「何だ。結構踊れんじゃん。全然踊れないのかと思った」
 晴樹は感心した。
「すごーい。カッコよかったよ」
 樹里が踊り終わった三人に拍手を送ると、三人は照れた。しかし三人が一番気になるのは、晴樹の反応である。
「どうだった?」
 恐る恐る恭一が尋ねた。
「いいじゃん。やり始めたばっかって言うからもっとお遊び程度のもんかと思ってた」
 晴樹の言葉に三人はホッと胸を撫で下ろす。
「そういや雄ちゃん、あたしに用あった?」
 樹里が雄治に話を戻した。
「そうそう」
 思い出した雄治はかばんをごそごそと漁った。
「この間言ってた曲、CDに落としてきた」
 雄治がCDを樹里に見せると、すぐに樹里は気づいた。
「あ、新曲?」
「そ。メロディーとコードだけだけど」
 雄治が頷く。
「聞きたい! じゃあ、ハル。私たち、先帰るね」
「おう」
 樹里は晴樹にそう言うと、手を振った。
「バイバイ」
「バイバイ」
 全員が手を振り返す。残された晴樹を含む四人が、樹里に見とれた。
「樹里ちゃん、カワイイよなぁ」
「いーなー。ハル。樹里ちゃんと幼なじみなんだろ?」
 陽介と恭一が樹里の後ろ姿を見送りながら言うと、晴樹は何だか得意になった。
「まーな」
「いーよな。樹里ちゃんと接点あって」
「何で?」
 思わず聞き返すと、恭一が呆れた。
「何でって、樹里ちゃんっていやぁ、校内のアイドルだぞ? 知らないのか?」
「それは知ってるけど……」
 樹里の人気はやっぱり気になるし、嫌でも耳に入ってくる。
「ブロマイド一枚、百五十円!」
 おもむろに恭一が樹里のブロマイドを取り出した。
「な、何持ってんだ! お前!」
 晴樹が慌てて、その写真を取ろうとするが、恭一にひらりとかわされた。
「オリジナルCD、千円!」
 今度は陽介が鞄からCDを取り出して見せた。
 それは昨年の文化祭のバンドコンテストで大きな反響があり、生徒会の依頼で自主制作したCDだった。全校生徒の約九十%が持っていると言う噂がある。
「写真集!」
「「写真集?」」
 要が鞄から取り出したものに三人が首を傾げる。
「何? 写真集って」
「俺、初めて聞いたぞ」
 恭一と陽介が要に詰め寄った。
「げ、限定なんだって! 三千円以上のグッズを買うと抽選で買えるっていう」
 詰め寄られた要は、逃げ腰で答えた。
「え? 知らねぇ。そんなの」
 恭一が眉をひそめた。
「ってか、抽選な上に金出すのかよ」
 要の言葉に晴樹は冷静にツッコんだ。
「おい。見せろよ」
「見てもいいけど、大事に見てくれよ」
 要は渋々写真集を渡した。全員で写真集を見る。
「ってか、隠し撮りとかばっかじゃん」
 写真集を見た晴樹が一言。写真集というより、アルバムみたいなものだった。
「ブロマイドもだぜ? たまーにカメラ目線あるけど」
「これ、どこで買ったんだ?」
 晴樹は思わず要を睨んだ。
「よ、よく知らねーよ。写真部だとは思うけど」
 要が答えると、突然晴樹が走り出した。
「あ、おい。ハル! どこ行くんだよ!」
 陽介の問いに答えることなく、晴樹が走り去った。三人は慌てて片付けて、晴樹に付いて行った。
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