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STAGE 1  序曲  1-1

 時は六月。快晴。まだ梅雨明けしていないのが不思議な天候である。そしてここはある高校のある教室。
「いざ! 勝負!」
 トランプを掲げた五人は、一斉に机の上に出した。
「やったー! またあたしの勝ちぃー」
 紅一点である樹里が叫んだ。
「うげっ。またおいらの負けじゃん」
 武藤雄治が肩を落とす。彼は樹里とバンドを組んでいる同級生で、ドラムを担当をしている。
「俺、コーラね」
 トランプをまとめながら、新藤拓実がリクエストをした。拓実は晴樹や樹里と幼馴染で、ギターを担当している。ちなみに彼は生徒会長でもある。
「あたし、スポーツドリンクね。虎太郎は?」
「オレンジジュース」
 小さく呟いた彼は虎太郎・J・スミス。彼はキーボード担当。名前からも分かるようにハーフだ。
「涼は?」
「俺、サイダー」
 そしてベーシスト七瀬涼。彼は樹里たちより二歳上で、この学校の卒業生である。
「分かったよ。行きゃいんだろ? 行きゃあ」
 全員にリクエストされた雄治は、半ばムキになりながら立ち上がった。
 雄治が教室のドアを開けようとした時、先にドアが開いた。
「おわっ。びっくりした」
 そのドアを開いけた人物が一歩後ろへ下がる。
「こっちがびっくりしたわ!」
 雄治も負けじと叫んだ。そこにいたのは、晴樹だった。
「どうかしたの? ハル」
 通称のハルと呼ばれた晴樹は、慌てた様子で教室に入ってきた。
「樹里、みんな、大変だよ!」
「落ち着けって。何が大変なんだ?」
 拓実が落ち着かせようと、晴樹の両肩を押さえる。晴樹に深呼吸をさせ、落ち着いたところで晴樹が口を開く。
「今度の文化祭、また涼が出られないかもしれない!」
「それ本当?」
 晴樹の言葉に樹里が詰め寄った。ドキッとした晴樹は接近してきた彼女を思わず避けながら、頷く。
「拓実。お前、生徒会長だろ? 何とかなんねーの?」
 雄治が拓実の肩を叩いた。
「そんなこと言われてもな……」
 拓実は困ったように頭をかいた。
「おい、ハル。その話、どこで聞いてきたんだ?」
 渦中の人である涼だけが一人落ち着いている。
「貴寛だよ。去年と同じく、涼はやっぱりOBだから出られないんじゃないかって」
 涼は二年前にこの学校を卒業している。今まで練習に顔を出すこと自体は、一度も文句を言われたことはない。
「貴寛が?」
 五人は一斉に聞き返した。
「うん。学校も認可してないって」
「おいおい、生徒会長。副会長に勝手に決められてんじゃん」
 雄治が拓実に掴みかかったが、涼にはがされる。
「俺、貴寛に聞いてくる」
 悩んだ拓実は事実を確かめに教室を飛び出した。
「あたしも行く!」
「俺も」
 結局メンバー全員が拓実の後に続いた。

「貴寛!」
「どうしたんだ? 怖い顔して」
 生徒会室には副会長であり、晴樹や樹里のクラスメートでもある仁科貴寛が仕事をしていた。
「涼が文化祭出られないって本当か?」
 拓実が慌てて聞くと、貴寛は拓実の後ろにいた晴樹に気づく。
「ん? ああ。ハルに聞いたのか。俺は可能性の話をしたんだよ。去年は結局出れなかったんだから、今年もそうなんじゃないかって」
「やっぱり出られないの?」
 樹里が念押しで聞くと、貴寛は頷いた。
「多分ね。その可能性のが高いと思うよ」
「そっかぁ」
 樹里が溜息をつく。その様子が今にも泣き出しそうだったので、晴樹は慌てて樹里を励ました。
「だ、大丈夫だって! 先生たち、説得すりゃ何とかなるって!」
「ハル。そんな簡単なことじゃ……」
「そっか。そうだよね」
 拓実の言葉は樹里には聞こえていなかった。拓実は頭を抱える。
「説得って、どうやってすんだ? 去年だってできなかったのに」
 雄治が鋭いツッコミをした。
「それなんだよね。ねぇ。どうしたらいいと思う?」
「へ?」
 いきなり樹里に話題を振られ、貴寛は驚いた。
「知らない。俺には一切関係ない」
 思わずプイっとそっぽを向くと、樹里は頬を膨らませた。
「けちぃ」
 樹里のかわいさにドキドキしながら、平静を装う。
「好きなのに、無理しちゃって」
「なっ!」
 後ろから涼に囁かれ、図星だった貴寛の顔が真っ赤になる。それを見た涼は、忍び笑いをした。
「?」
 涼の囁きが聞こえていなかった樹里は、貴寛の様子に首を傾げた。しかしそのやり取りが聞こえてしまった晴樹は相当焦ってしまった。
(やっべぇ。貴寛も樹里のことが好きなのかよ。これ以上ライバルが増えてどうすんだ?)
 晴樹は周囲を見渡した。
 それにしてもなぜ樹里の周りには、モテる男がたくさんいるのだろう?
 まず自分と同じく樹里の幼馴染の新藤拓実。彼はルックスよし、頭よし、運動神経よしと三拍子揃っており、更に性格も人当たりもいい。非の打ち所のない彼がモテないわけがない。
 樹里とも仲が良く、現に一緒にバンドを組んでいる。実は晴樹も入りたかったのだが、動機が不純な上、楽器が何もできないので残念ながら入ることができなかった。
 そしてバンド内で拓実と並んで人気があるのが、ベーシストの七瀬涼。彼は樹里の二歳上の兄と大親友。
 樹里たちがベースを捜していた時、涼はバンドを解散したばかりだった。ダメ元で誘ってみると、あっさり承諾され、現在に至る。
 涼は長身で、クールな性格、そして切れ長の涼しげな目を持つ整ったルックス。更に趣味は単車という、これまたカッコよさがプラスされ、拓実とはまた違うタイプで人気がある。
 そしてドラムの武藤雄治。彼は小学校からの友達。つまり腐れ縁である。彼もまた涼に負けず劣らずの長身で、何より力持ち。樹里なんかひょいっと何気なく抱き上げられる。チビな晴樹としては、羨ましい限りだ。そして見かけは威圧感があって一見怖いのだが、性格は優しいので意外と人気があったりする。
 そしていつも樹里の後ろについて歩いている、キーボード担当、虎太郎・J・スミス。ハーフである。それだけでモテる要因なのだが、帰国子女で更にピアノの腕はピカイチで、繊細でかわいらしい顔立ちをしている。何だかどこかの国の王子様的オーラを放っているように見える。
 しかし彼には欠点があった。それは人と接するのが大の苦手、ということ。
 彼がアメリカにいた頃、イジメに遭っていたらしく、そのせいで人と距離を置くようになってしまったのだ。
 彼は母親を早くに亡くし、父と兄の三人で暮らしていた。父親の転勤で日本に来たのだが、アメリカ人の父に育てられたため、日本に来た当初は日本語は全くと言っていいほど話せなかった。
 転校して来たのは中学二年生の一学期。その頃、英語しか話せずクラスに全く馴染めずにいた。アメリカン・スクールにでも行けばよかったのだろうが、虎太郎の父親はアメリカでイジメに遭っていたことも知っていたし、日本語を覚える良い機会だと、地元の中学校に転入させたのだ。クラスに馴染めない虎太郎を見かねた樹里が声をかけたのが始まりだった。初めは警戒していたが、徐々に心を開くようになり、今ではバンドメンバーや晴樹とは話せるようになった。しかしやはり、人と壁を作るきらいがあるらしく、晴樹たち以外とは自分から話そうとしない。
 そして生徒会副会長の仁科貴寛。この学園で拓実と人気を二分割している男。こいつは中学の時から拓実のライバルで……。いや、正確には貴寛が勝手にそう思っているみたいだが、晴樹の知る限り、テストでもスポーツでも今まで一度も拓実に勝った事はない。しかし貴寛にはファンクラブまであったりする。
 晴樹は今の今まで貴寛も樹里が好きだということには全く気づかなかった。
(勝ち目ねーじゃん。俺)
 思わず溜息をついてしまう。
「ねぇ、ハル。どうしたらいいと思う?」
「え?」
 急に樹里に話し掛けられ、我に返る。
「せっかく五人で練習してたのに……」
「去年みたく、四人で出れば?」
 貴寛はぶしつけにそう言った。
「ダメ! 今年は絶対五人で出るの!」
 樹里は自分の両手をギュッと握った。それを聞いた涼はおもむろに樹里の頭を撫でた。その光景を見た晴樹は妙な嫉妬に駆られる。
「何?」
 突然の意味不明な涼の行動に樹里が困惑した。
「いや、カワイイなと思って」
 恥ずかしい台詞をさらりと言う涼に、一同唖然とする。
「もー。こんな時に何言ってんのよ。涼はいいの? このまま出られなくなっても」
「いいよ。別に。お前が体で慰めてくれんなら」
 涼の発言に驚いたのは、晴樹と貴寛だけだった。
「バカ!」
 樹里は怒鳴り、メンバーはいつものことだとスルーした。
「こんな時に何言ってんだよ。おい、拓実。何か良い考えないのか?」
 雄治がじれったそうに尋ねた。
「うーん。ま、とりあえず俺から先生に聞いてみるよ。もしやっぱりどうしてもダメって言うんなら、何か方法を考えよう」
「そうだな」
 拓実の言葉に、涼が頷いた。
「今日はとりあえず解散だな」
「んじゃ、明日また同じ時間に」
 拓実の言葉に、雄治が締めくくる。
「「お疲れっした」」
 バンドメンバー五人と晴樹はそこで解散した。
「ハル。帰ろう」
「うん」
 樹里に誘われ、晴樹は上機嫌になる。しかし一緒に帰ると言っても、同じ方向の虎太郎ももれなく付いてくる。
「拓実は?」
 晴樹が聞くと、拓実は生徒会室を覗いて答えた。
「生徒会の方の仕事、終わらせて帰るよ」
「そか。んじゃ、俺らは先帰るな」
「うん。また明日」
 拓実を残し、五人は家に帰る用意をしに、元いた教室に戻った。
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