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エピローグ
芹華がパリへ旅立ってからバンド活動は忙しくなった。皮肉にも芹華のために書いたあの曲がブレイクのキッカケになった。あの曲がロングセラーとなり脚光を浴びるようになったのだった。曲もクオリティの高いものを出すのでそれなりに評価されるようになった。
一方、芹華もモデルとデザインの勉強を両立させながら忙しく働いていた。言葉も覚えなくてはならず、哲哉になかなか連絡を取る時間はなかったが月に一度は近況報告のため手紙を書いた。それに対して哲哉も近況報告を手紙で送ってくれた。たまに写真を入れたりしながら遠距離恋愛を続けた。芹華は休日も返上で勉強に励んだ。少しでも早く日本に帰るため。哲哉からもらった指輪を励みにしながら3年の月日が流れた。

「哲哉。あんま焦んな。事故るで。」
走ると遼平に注意される。
「そら嬉しいんは分かるけどさ。事故ったりしたら元も子もないで。」
同じく響介が注意する。
「分かってるよ。」
哲哉はふてくされながら言う。腰まであった長い髪をバッサリ切ったのは、芹華が旅立ってからだった。自分も気持ちを入れ替えるため、願をかけていた髪を切った。表向きの願いは『バンドで成功しますように。』だったが、本当の願いは『芹華とずっと一緒に居られるように。』だった。この願いが確かなものになるまで、髪を切るつもりはなかった。指輪を渡し、プロポーズをすると芹華は了承してくれた。それで心は決まった。バッサリと髪を切り、気持ちを新たに芹華が戻ってくるまで頑張ろうと決意した。
今日、3年の時を経て、芹華が戻ってくる。会うのは3年ぶり。それまでは手紙や時々の電話でしか芹華の近況を聞くことができなかった。哲哉は空港のロビーを急ぎ足で歩いた。メンバーも続く。そこで国際線の出口から出てくる芹華を発見した。腰までの長い髪に少しウェーブがかかっている。
「芹華!」
哲哉が呼ぶと、芹華が気づいた。少しの荷物を手に持ち、哲哉たちの前に現れた。哲哉は思わず芹華を抱きしめた。驚いた芹華は持っていた荷物を落とす。
「会いたかった。」
哲哉は芹華の耳元に呟いた。
「うちも会いたかった。」
芹華も哲哉を抱きしめた。その時初めて、哲哉は安心感に包まれた。
「芹華、おかえり。」
遼平が声をかける。哲哉は芹華と離れた。芹華は皆に挨拶する。
「ただいま。」
笑顔で皆が迎える。変わらない笑顔に全員が安心する。そしてやはり左手の薬指にはあの婚約指輪がしてあった。遼平は妙に安心した。

芹華が戻ってきて1年後。哲哉と芹華は地元の小さな教会で式を挙げた。
「芹華姉。おめでとう。」
「篤季、遙、ありがとう。」
「芹華姉、綺麗。」
「ありがと。」
遙の言葉に芹華は照れた。芹華は純白のドレスに身を包んでいた。そこにノック音が聞こえる。
「どうぞ。」
芹華が返事すると、哲哉が入ってくる。芹華のドレス姿を見て、哲哉は妙に照れた。
「おぉ。綺麗やん。芹華さん。」
響介が照れもせずに言う。
「馬子にも何とやら・・。」
遼平の言葉に芹華が睨む。そして哲哉の鉄拳制裁が下る。
「ってっ。」
「お兄ちゃん・・。」
遙が呆れたように言う。毒舌は健在だ。
「お邪魔のようなので退散っと・・。」
篤季が言うと、部屋に哲哉と芹華だけを残して全員退散した。
「やっと・・一緒になれるな。」
哲哉が最初に口を開いた。
「うん。遠回りばっかしてたね。」
「やな。」
2人は笑った。ドアをノックする音が聞こえ、スタッフが呼びに来る。
「もうそろそろ時間です。準備お願いします。」
「はい。」
2人はスタンバイした。結婚式は身内と友人たちのみ招待した。もちろん世間でも話題にはなったが、ファックスで結婚報告をした。今日、やっと2人は一緒になれる。遠回りをして、すれ違ったが、やっと2人は一緒になれる。
式は順調に進んだ。もちろん、一番の山場、誓いのキスも行う。2人は幸せな笑みを浮かべながらキスをした。そんな幸せな2人を参列者は見守った。

ライスシャワーを浴びながら、教会から出てくる。
「行くよー?」
芹華は背を向け、ブーケを投げた。
ポスッ。
「今度は遙かぁ。」
ブーケを見事ゲットしたのは、遙だった。遙は篤季と顔を見合わせて照れた。
「篤季ガンバ。」
芹華が意地悪く言う。篤季は顔を真っ赤にして反撃した。

そんな2人の話はまたいつか・・。