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ACT.2 スタート
映画がクランクインすると、いつも以上の忙しさがメンバーを襲った。映画出演自体はそれほどないものの、映画音楽を担当すると言う今まで手を着けたことのないジャンルに挑戦するからだ。自身のアルバム製作や雑誌のインタビュー、ツアーなども例年より減らしたもののやることはたくさんある。 「監督が主人公が歌う曲も作って欲しいやって」 龍二が忙しさで狂いそうになっているメンバーに冷静に言い放った。 「ええ!? これ以上増やす気?」 慎吾が睨む。しかしモノともせず龍二は落ちついて、口を開く。 「俺も思った。でも映画音楽やるって言った以上、責任持ってやるべきやと思って受けた」 確かに龍二の言ってることは間違ってはいない。元々このメンバーも責任感は強いのだ。 「で、誰が作るんや?」 透が疲れた目に目薬を差しながら尋ねる。 「亮、お前やってみっか?」 「え? 俺?」 突然指名された亮は驚いた。 「お前にとってもええ勉強になると思うで」 亮はしばらく考えたように黙り込んだが、顔を上げ龍二を見た。 「どんなん作るん?」 「ラブバラード」 「「「え?」」」 龍二の言葉に全員が驚いた。 「ちょっと、龍二・・・・・・いくら何でも・・・・・・」 武士が止めに入ろうとする。歌えるようになったとは言え、まだ作ったことなんてないのだ。それなのにそんな大切な仕事を任せていいのだろうか? 「分かった。やってみる」 亮の返答に更に周りが驚く。 「え? 大丈夫なん?」 「大丈夫かどうかは分からんけど、やってみる。けどできる自信なんてない。やから、そっちで保険、作っといて欲しい」 亮の言葉に龍二は頷いた。 「分かった。こっちはこっちで作るよ。二曲提出してええ方取ってもらうってのもありやな」 「龍二、悠長なこと言うてるけど、主題歌やってまだできてへんのやで」 「いざとなったらどっちか回せばええって」 透のツッコミにあっけらかんと返す。そんなのでいいのだろうか、と全員が心の中で突っ込んだ。 亮はそれまでの仕事をこなしながらも、曲作りに入った。台本ももう既に渡されているので、イメージは作りやすい。問題はバラードを作れるかどうかだった。 「亮、そろそろ行くで」 武士に声をかけられた亮は、我に返った。 「どこに?」 「どこにて。今日は顔合わせやろ。映画の」 「あー、そっか」 すっかり忘れていた。この頃スタジオに缶詰で日付も曖昧だ。本当は家にだって帰りたい。最近ロクに帰っていないのだ。毎日葵と電話をしているとは言え、やっぱり会いたい。 スタジオから車で三十分ほど離れた撮影スタジオに到着すると、既に他の役者たちも集まっていた。会社の会議のように全員が向かい合わせの状態で座る。まず監督が立ち上がった。 「初めましての方がほとんどですので、自己紹介していきましょう。今回まだ仮題ではありますが、【BLUE SKY】と言う映画を監督させていただきます、今井と申します。よろしくお願いします」 監督が一礼すると、全員が軽く会釈をした。 「それでは順番に自己紹介お願いします」 監督は隣に居た主人公役の俳優に目配せをした。それに気づき、立ち上がる。 「初めまして。主人公コースケ役の中田博紀です。主役は初めてですし、今回は音楽もキーワードになっているということで、全てが初めての経験ですごく緊張しています。一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」 中田博紀は最近注目されている俳優だ。今回の主役を射止めたのは、話題性に加え、そのギターの腕前だった。どうやら彼も昔はバンドを組んでいたらしい。 続いてヒロイン役の演技派アイドルが立ち上がる。 「サヨ役の柏野杏里です。私なりのサヨが出せるようにがんばります。よろしくお願いします」 そして映画内に出てくるバンドの他のパート役の俳優が挨拶をする。主役のコースケがボーカルで、他にギター、ベース、ドラムがいる。 そうこうしているうちにBLACK DRAGONのメンバーも順番が回ってくる。まず龍二が立ち上がる。 「BLUE WING、ベースのヤス役、BLACK DRAGONの龍二です。何もかも初めてで、ご迷惑をかけることもあるかとは思います。また音楽の方でも参加させていただきますので、よろしくお願いします」 続いて亮が立ち上がった。 「BLUE WING、ボーカルのカイ役、BLACK DRAGONの亮です。演技をするのは初めてなので、不安な部分もありますが、一生懸命がんばります。よろしくお願いします」 次は慎吾だ。 「BLUE WING、ギターのケン役、BLACK DRAGONの慎吾です。全て初めての体験で、特に演技は本当に不安なんですが、勉強をさせていただくと思ってがんばります。よろしくお願いします」 そして武士。 「BLUE WING、ドラムのダイ役、BLACK DRAGONの武士です。メンバーにほとんど言われてしまったんですが、今回お芝居と音楽と言う二つの面で参加させていただきます。最高の作品になるように、がんばります。よろしくお願いします」 最後は透。 「BLUE WINGキーボードのユウ役、BLACK DRAGONの透です。今回貴重な体験をさせていただくことに本当に感謝しています。今まで積み上げてきたもの、蓄積してきたものを最大限に活用して素晴らしい作品にできるように尽力いたします。よろしくお願いいたします」 全ての出演者の自己紹介が終わると、台本の読み合わせが始まる。BDメンバーの出番はあまりないものの、ついていくのが大変だった。脇を固める大物俳優陣も人柄のよさそうな人たちばかりで、メンバーは安心した。 「何とか無事に終わってよかったな」 帰りの車の中、龍二が溜息をついた。あの後、衣装合わせも行ったのだ。何だか一気に疲れが出てくる。 「ホンマなー。慣れんことしたらしんどいわ」 武士が首を回すと、コキコキと鳴った。 「武士、首もげるで」 「怖いこと言うな」 慎吾があまりにも真顔で言うので、武士は本当に怖くなる。 「亮? 大丈夫?」 一人窓の外を見てボーっとしている亮に、透が声をかける。 「あー、うん」 「どしたん? 元気ないやん?」 「いや、演技も不安なんやけど、曲がまだできてなくて・・・・・・」 「曲って例の?」 もちろん、あのラブバラードのことだ。亮は頷いた。 「できそう?」 慎吾に聞かれ、亮は曖昧に頷いた。 「まだよく分からんくって。まだ全然できてへんけど」 「まぁゆっくりやったらええやん。締め切りはだいぶ先やろ?」 慎吾が慰めるように後ろの座席から肩を叩く。 「そやけど・・・・・・」 「そんなすぐできんって。他の曲やってそうやん?」 「龍二はできたん?」 武士が尋ねると、龍二は首を横に振った。 「まだ全然。ストーリー考えなあかんってのが結構ムズイな」 確かに自分たちの曲を作るのとは訳が違う。映画のストーリーを考慮して作るのは案外難しい。 「そのうち俺らの撮影入るから、あんま曲に時間かけれんで」 透が厳しくツッコむ。そうだ。出番は少ないとは言え、撮影はどれくらいかかるのか検討すらつかない。 亮は一人少し焦りを感じていた。 数日後。実際の撮影に入る。今日は映画の最初のシーン、ライブシーンである。メンバーの台詞はない。ライブシーンで使われる曲はBLACK DRAGONの持ち曲だ。 「いつも通りライブしてくれていいから」 監督はメンバーにそれだけを指示した。後はメインである博紀たちに演技指導をしている。 撮影のためにBDが演奏するのは三曲程度だが、ちゃんと会場に客を入れて撮影するので、確かにいつものライブと変わらない。この客もBDファンクラブの中から抽選で選ばれた人たちだった。 「美佳ちゃんが当たってたらおもろいのになぁ」 慎吾が呟く。 「可能性はゼロちゃうな」 龍二が笑う。美佳はBDの所属する事務所の社長令嬢なのだが、それとまったく関係なくBDのファンでもある。 「武士ぃ? 何か顔変やで?」 突然慎吾が意地悪く顔を覗いてくる。 「変って何やねん。」 武士は必死で取り繕いながら、ツッコんだ。 「顔赤いで?」 慎吾はクククと意地悪く笑った。 「暑いんやっ!」 「へぇー」 武士の言い訳に慎吾はニヤリと返す。 「何やねん。何か言いたいことあんやったら言いや!」 「はいはい、ストップ。撮影始まるで」 透がドラム越しに遊んでいる二人を止めた。 「慎吾、あんま武士で遊ぶな」 「はーい」 透に注意され、慎吾は素直に挨拶した。 「遊ぶってなんやねん」 透の言葉に武士が呟く。 「顔に出やすいお前が悪い」 「何やそれ」 透にサラリと言われ、武士は困惑した。 「お前のカウントから入るんやから、今はしっかり集中しろ」 透に言われ、武士は監督の指示を待った。今は撮影に集中だ。 監督から指示が出され、カメラが回り始める。武士がカウントを取ると、一斉に楽器隊が音を出す。その瞬間、ファンの歓声が沸き起こる。本来のライブさながらの演奏が始まる。一つ違うのはカメラが入っていることぐらいだろう。亮たちは三曲を一生懸命演奏した。 演奏が終わると、カットがかかった。 「いやぁ、素晴らしい演奏だったね。よかったよ!」 監督が褒めてくれる。素直に褒められたのは初めてだったので、亮たちは何だか妙に嬉しくなった。 今日のBDの出番はコレだけだった。一テイクでOKが出たので、何だかあっという間に終わってしまった。 「何かあっけなかったなー」 慎吾がギターを片付けながら呟いた。 「三曲だけやったしな」 武士がノビをしながら答えた。 「あ、みんな、ちょっとシーン増やしたいんだけど、いいかな?」 突然監督がメンバーを呼び止めた。 「シーン増やすって、ライブのですか?」 龍二が代表して尋ねる。 「いや、出待ちのシーンなんだけどね。君たちがこの会場から出て行く時に、主人公たちが出待ちしてるっていうシーンを撮りたいんだ」 それなら台詞はなさそうだ。 「台詞はないんだけどね。亮くん、ちょっといいかな?」 監督に呼ばれ、亮は一歩前に出た。 「出てきた時に主人公たちと目が合う、そして笑って欲しいんだ」 「笑う?」 監督の指示がイマイチよく分からない。 「何て言うかなー? 『お前もがんばれよ』みたいな」 「はぁ・・・・・・」 それでもよく分からない。 「鼻で笑う感じですか?」 龍二が聞くと、監督は「うーん」と唸った。 「ちょっと違うんだけどなぁ。まぁとりあえずやってみよう。他のみんなは一人ずつ出てきて車に乗り込むだけでいいから」 「はい」 メンバーは指示された通り、衣装を着替えてスタンバイした。 まず亮以外の四人が車に乗り込むシーンを撮影する。亮はその様子を見ながら、頭の中でシュミレーションをした。 (『お前もがんばれよ』っていう笑いってどんなんや?) もちろん役者ではないので、そんなことを言われてもさっぱり分からない。 「亮くん、いってみようか」 監督に声をかけられ、亮はスタンバイをした。亮は掴めない笑顔に頭を悩ませたが、とにかくやってみることにした。 「スタート!」 声がかかり、亮は歩いた。ふと目線を主人公たちがいる場所へ向ける。 (笑う) 亮は口元だけで笑った。亮が車に乗り込むと、カットがかかる。 亮は恐る恐る車から出た。監督が笑顔でこちらにやって来る。 「いやー、よかったよ! 一発OKだ!」 「ホンマっすか?」 亮は驚いていた。まさか一発でOKが出るとは思っていなかったのだ。 「何だか君は演技の才能がありそうだね」 「ありがとうございます」 ただ一度演技がうまくできたのにもかかわらず、そんな褒め言葉をもらえるとは思わなかった。 「亮くんのシーンを増やしてみたいんだけど、いいかな?」 「え? シーン増やすって・・・・・・」 そんな簡単にできるものなのだろうか? 「元々構想していたシーンなんだけどね。君の演技を見てからと思ったんだ。きっと君なら大丈夫」 監督はポンっと亮の肩を叩いた。 「あ、ありがとうございます」 とりあえず一礼をする。今後の仕事がまた増えるのは、嬉しいような悲しいような複雑な気分だった。また家に帰れなくなる。 数日後、新しい台本が送られてくる。確かに亮の出演シーンが増えている。 「俺たち関係なしか」 龍二は台本を見てホッとしていた。 「亮、がんばりや」 慎吾に肩を叩かれる。 「う、うん」 亮は不安だった。曲もまだできていないのに、この上芝居も増えるとは。 「そういや亮、最近帰ってないんちゃうん?」 不意に慎吾が訊いた。 「うん。スタジオ泊まっとる」 「ダメやん! 新婚さんがそんなんじゃー」 「仕事立て込んでるんやからしゃーないやん」 思わず言い訳がましく言う。 「そりゃそうやけど。帰れる時、帰っとかんかったら、ホンマ帰れんやん」 「慎吾の言う通り。いくら仕事立て込んでるって言うても、俺たちやって家に帰ったりしてるんやから、亮も帰りぃや」 龍二がたしなめる。確かに『帰りたい』と思いつつも、終わらない仕事の方が気になって、家に帰れなかったのだ。 「うん・・・・・・」 「今日はもう帰り。後は俺たちでやることだけやし。家の方が落ち着いて曲作れるかもよ?」 透が亮の肩を叩く。亮はその言葉に甘えることにした。 「すまんな。んじゃ、帰らしてもらうわ」 「ゆっくり休みや」 四人は亮を快く見送った。 「ただいま」 「りょーくんだー!」 玄関に入ると、けたたましい足音と共に龍哉が走ってきた。 「あれ? 龍哉?」 亮は靴を脱ぐ間もなく、龍哉に抱きつかれ、その場に立ち往生した。そこに葵がやって来る。 「あれ? 亮くん、おかえり」 「ただいま」 久々に見る葵の顔に、ホッとしている自分に気づく。 「どうしたの? 今日は早かったんだね」 「うん。たまにはゆっくり休めって帰された」 「そうなんだ」 葵は亮に抱きついている龍哉を抱き上げた。亮はその間に靴を脱いで家に上がる。 「何で龍哉がおるん?」 「ベビーシッターだよ。香織さん一人で見るの大変だから」 「なるほど」 龍哉が赤ちゃんだった頃を知っているので、赤ん坊の世話がどれだけ大変かは何となく分かる。それに加え、やんちゃな龍哉まで面倒見れないのだろう。 「そういや、幼稚園入れるとか言うてなかった?」 リビングのソファに座り、くつろぎながら問う。龍哉もリビングの床に広げているおもちゃの前に座った。 「何かどこもいっぱいらしくて、予約待ちみたい」 「そーなん?」 葵の言葉に驚いた。この辺ってそんなに子供いるんだろうか? 仮に幼稚園に入れても、夕方になれば帰ってくるのだろうが。 「香織は?」 「今はお買い物。あたしが行くって言ったんだけど、たまには行かないとストレス溜まるとか言って出かけちゃった」 確かにずっと家に居てもストレス溜まりそうだ。 「りょーくん、見て! ウルトラマン!」 龍哉は持っているおもちゃを亮に見せた。それは小さなウルトラマンの人形だった。他にも怪獣などのいろんな人形が転がっている。さっきもこれで遊んでいたのだろう。 「ウルトラマンとか龍哉知っとんや」 「パパがかってくれたー」 龍哉は嬉しそうにそう言った。龍二も忙しいなりに父親らしいことをしているらしい。 「愛理は香織が連れてったん?」 「ううん。そこで寝てるよ」 キッチンでお茶を淹れていた葵がリビングを指差した。亮からは死角になっている位置に、いつも愛理が寝ている籠があった。その中で熟睡中なのだろう。亮は少し移動して、籠の中を覗いた。 「何か見んうちにちょっと大きいなった?」 「そうね。亮くん退院祝いの時にしか見てないんだっけ?」 そう言えば一度しか見ていない。 「うん」 「りょーくん、あいちゃん寝てるからシーね」 龍哉は一人前に口元に人差し指を持ってきて、静かにというポーズを取った。 「分かっとるって」 亮は座り直して龍哉の頭を撫でた。 「たっくん、おやつにするからお片付けしてー」 「はーい」 葵が言うと、龍哉は返事をして広げているおもちゃを片付け始めた。 「葵の言うこと聞くんやな」 「たっくんはいい子だから、みんなの言うこと聞くよ」 葵は持ってきた紅茶やケーキを亮の前に置いた。龍哉の分もちゃんと用意されている。 「ブランデーは入れてないからね」 葵の一言に亮は思わず笑った。そう言えば一番最初に葵手作りのケーキを食べた時、少々のブランデーが入っていた。お酒が本当にダメな亮はそれでバタンと倒れてしまったのだ。 「懐かしいな」 「だね」 あの日、二人は初めて会ったのだ。その時はまさか恋心を抱いて、結婚するなんて考えもしなかった。 「あおいちゃん、おかたづけすんだー」 「はい。じゃあたっくんもどうぞ」 葵は龍哉をテーブルの前にある子供用の椅子に座らせた。 「いただきまーす」 「はい、どうぞ」 龍哉が食べるのを見て、亮もケーキに手をつけた。一口含むと、甘い香りが鼻を抜けた。しかし甘すぎないので、ちょうどいい。 「ウマイ」 「よかった」 亮が美味しそうに食べるのを見て、葵は安心した。 「りょーくん?」 龍哉は首を傾げて亮を覗いた。葵は口元に人差し指を当てた。 「シー。疲れてるみたいだから、寝かせてあげてね」 「はーい」 龍哉は葵の声に合わせるように、小声で返事をした。 亮はおやつを食べた後、葵が龍哉に絵本を読んであげている間に眠ってしまったのだ。葵の肩にもたれ眠る亮の頭を葵はゆっくりと膝に乗せた。龍哉は葵に頼まれた通り、タオルケットを押入れから出して、亮にかけてあげた。 葵の隣に座った龍哉に、葵は絵本の続きを読み始めた。 「ごめんねー。葵ちゃん。預けっぱなしで」 数時間後、香織が戻ってくる。 「いいえ。たっくんも愛ちゃんもいい子でしたよ」 葵はキッチンで夕飯の支度をしていた手を止め、答えた。 「あれ。寝てる?」 「ええ。絵本読んでたら、寝ちゃって」 香織がソファを覗くと、亮と龍哉が仲良く寝ていた。 「え? 亮?」 思わぬ人もいたので、香織は驚き入った。 「何かゆっくり休めって帰されたみたいです」 葵が答えると、香織が納得する。 「そっか。最近スタジオ篭ってたんでしょ?」 香織の言葉に葵は頷いた。 「龍二に聞いたけど、亮くんだけ撮影シーン増えたみたいね」 「そうなんですよ。あたしも亮くんに聞いてびっくりしちゃった」 「才能持つ人は大変よねー」 香織は他人事のように言いながら、溜息をついた。 「ホントに。それに亮くんは特に自分を労わらない人だから・・・・・・。だから寝顔見てると安心するんです」 「葵ちゃんも気苦労絶えないねー。まぁでも葵ちゃんがいるから、亮はやっていけるんだろうけどね」 「え?」 香織の思わぬ言葉に葵は驚いた。 「亮が自分を労わらない分、葵ちゃんが労わってるじゃない。亮は幸せ者ね。こんなできる奥さんがいるんだもん」 香織があまりに褒めるので、葵は照れた。 「そんな・・・・・・。でもあたしが亮くんの支えになれてるのなら、そんな嬉しいことはないです」 「あたしもがんばんなきゃ」 葵に感化された香織が気合を入れる。 「え?」 「あたしも葵ちゃんみたく、龍二の支えにならなきゃね。何てったってBLACK DRAGONのリーダーですもの」 「なってると思いますよ」 「えー。そうかなぁ?」 葵の言葉を素直に受け入れない。 「そうですって。だから龍二さん、安心して仕事してるんじゃないですか?」 「そうね、そう思うことにするわ。ありがとう。葵ちゃん」 二人は顔を見合わせ、思わず笑った。 |