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プロローグ
その家族は、とても幸せな日々を送っていた。ありふれた家族。お父さん、お母さん、娘に双子の息子たち。都会にある小さな一戸建ての家には、いつも笑い声が絶えなかった。
しかし、その家族の幸せは長くは続かなかった。
ある日、父と母は車で買い物に出かけた。大切な長女の誕生パーティーをするために。
その帰り道。よそ見をしていたトラックがハンドル操作を誤り、父の車に突っ込んできた。車はぺしゃんこに潰され、乗っていた2人は即死だった。
高校1年生の娘は病院で立ち尽くしていた。泣くこともせず、ただ呆然としていた。双子の中学1年生の息子たちは涙が止めどなく溢れていた。

この家族には身寄りがなかった。両親は駆け落ちしたので、子供たちは親族の顔は知らない。両親の手帳などから親族、友人を見つけだし、死亡通知を出した。葬儀などの手配を助けてくれたのは、唯一事情を知っている父の姉夫婦、つまりおじさんとおばさんだった。
「葵ちゃん、大丈夫?」
葵と呼ばれた少女が振り返る。
「あ、おじさん。おばさん。ありがとうございました。」
「いいのよ。身内だもの。」
「2人はどうしてるんだい?」
「・・部屋にこもったきりで・・。」
「急なことだったものね。わたしたちは帰るけど、困ったことあったらいつでも言ってね。」
「はい。ありがとうございます。」

その夜のこと。長女の葵は双子の弟たちをリビングに集めた。
「2人のことはわたしが育てるから。」
葵は双子の弟、快人と直人をじっと見つめた。2人は姉を見つめ直した。
「知ってるとおり、お父さんとお母さんは駆け落ちした。だから親族の人たちにとって、わたしたちはきっと邪魔なだけだと思うの。2人は少しだけど、貯金も残してくれた。あんたたち2人が高校に進むくらいのお金はあると思う。」
「葵ちゃんは?高校、辞める気なの?」
「ううん。辞めないよ。折角2人が入れてくれたから。卒業・・・したいと思ってる。」
直人の問いに葵は明るく否定した。
「でもちゃんと2人にも手伝ってもらうからね。」
こんな時でも明るく振舞う姉を2人は尊敬した。