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プロローグ
男が震えている。それに構うことなく、女は男に近寄った。「何で君が・・・・・・こんな・・・・・・!」 男は状況が飲み込めず、パニックになっている。しかし女は臆せずに口を開いた。 「貴方にさよならを言いにきたの」 その言葉に、男の表情が歪んだ。 「何を、言ってる? そんなことが許されるとでも・・・・・・」 男は女を引き留めようと女の腕を掴むが、女はその手を振り払った。 「もう貴方は終わりよ」 女は持っていた書類をぶちまける。その書類と女を交互に見つめながら、男は固まった。 「さよなら」 そして女は男の前から立ち去った。 江藤美奈子はこの上ない幸せを感じていた。大学生の頃から付き合っている彼から、とうとうプロポーズされたのだ。 もちろん、返事は「イエス」。 ささやかながらも、幸せになろうと誓った。 両家への挨拶も無事に終わり、結婚式の準備も着々と進んだ。 式は十月の半ばに行うことにした。その日取りをカレンダーに書き込む。 「楽しみだね」 そう言うと、彼は幸せそうに笑顔で頷いた。 彼、石川光俊は、将来有望の二十七歳。仕事が忙しいながらも、美奈子のために必ず時間を空けて二人の時間を取ってくれる。そんな優しい人。 彼はお金持ちなわけでも、とびきりカッコイイと言う訳でもない。美奈子は彼の優しさや人柄に惹かれたのだ。 二十五にして幸せを掴もうとする美奈子に、友達は「羨ましい」と言いつつも祝福してくれた。 願っていたのは、平凡な幸せ。これから先、ずっと二人で生きていくことができれば、それだけで良かった。 そう、それだけで良かったのに・・・・・・。 現実は何と残酷なのだろう。 |