font-size L M D S |
エピローグ
それから武士は音楽にのめりこんでいった。ヴォーカルが抜け、亮が加入するという変化はあったものの、ドラムを叩く楽しさは変わらなかった。ドラムを叩いている時は、義彰をとても近くに感じられたからかもしれない。 プロデビューが決まった時は本当に驚いた。仕事にまでできるとは思わなかったからだ。 それも総て義彰のおかげだと思う。義彰がドラムの楽しさを教えてくれた。義彰が命を救ってくれた。義彰が生きる大切さを教えてくれた。感謝してもしきれない。 武士は窓の外を見つめた。いつの間にか雨は上がり、空の片隅に虹が見えた。 「おおきにな。・・・アキ」 空に義彰の笑顔が浮かんだ気がした。 「武士?何言うてんの?」 呟いた武士に、慎吾が尋ねた。 「何でもない」 そう首を振ると、慎吾はぷぅと頬を膨らませた。 「何やねん。武士おかしいでー?」 「こいつがおかしいのはいつもやん」 慎吾の言葉に間髪入れずに透が毒を吐く。 「はいはい。喧嘩は後。音合わせするでー」 龍二の言葉に、全員が従う。ぞろぞろとスタジオに入っていく。 武士はもう一度窓の外を見やった。晴れ間から見える太陽が、眩しく光った。 「アキ、見とってな」 そう呟くと、武士はスタジオに入り、扉を閉めた。 |