novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.4 そして、彼女の事情 4-4  

「あたしね……中学の時、あいつのことイジメてたの」
「え?」
 思わぬ告白に驚きを隠せない。
「あいつって……木元さんだよね?」
 確認するように問うと、真由子は頷いた。視線を下に向けたまま、続ける。
「あいつ、中学の時から暗くて、いつも下ばっかり向いてて、地味で目立たなくて……。そんな奴に負けたなんて、何か悔しくて。あいつをイジメれば、気が晴れると思った。学校に来なくなれば、高村はあたしを見てくれると思った。だけど……気分は晴れないし、あいつは学校を休まなかった」
 真由子の気持ちがようやく分かった。真由子はどうにもならない感情を優子をイジメることで、解消させたかったのかもしれない。
「本当は、分かってたの。こんなことしても何もならないって。高校に行けば離れ離れになるから、今度こそ高村はあたしを見てくれると思った。だから高村が受ける高校を調べてあたしも受けたの。でも入学式の日、あいつを見つけてびっくりした。それで分かったの。高村はあいつを追いかけて来たんだって」
 その言葉はあまりにも確信がこもっていたので、違和感があった。
「どうして追いかけて来たって分かるの?」
「だって、高村の実力ならもっと上の高校に行けたはずだもの。この高校もレベルは低くないけど……」
 確かに健太は頭がいい。成績もトップだということは周知の事実だ。
「それを知ったとき、確かに悔しかったけど、もうあいつに手を出すのは止めようって思った。あいつをイジメたって、現状は変わんないもんね」
 その言葉を聞いて、少なからず由美は安心した。今はイジメをしていないということだ。
「だけど由美があいつと友達になりたいって言った時、ショックだった。あいつは……あたしの友達まで奪っていくのかと思うと、怖くなったの」
「だからあんなに嫌がってたんだ」
 数日前のやり取りを由美は思い出した。真由子の気持ちが分かった今なら、あの拒否反応も理解できる。
「ねぇ、真由子。聞いてもいい?」
 由美がそう言うと、真由子は俯いていた顔を上げた。
「委員長に告白したの?」
 そう聞いた瞬間、真由子の顔が真っ赤に染まる。
「で、出来るわけないじゃん! そんなこと」
「どうして?」
「どうしてって……」
 告白したって、玉砕するのは目に見えている。真由子は再び俯いた。
「状況が不利だから告白しないの?」
 確認され頷く。
「告白したところで、振られるのは目に見えてる」
 確かにそうかもしれない。勝算もない勝負に出るつもりはない。
 その時、ふと由美は閃いた。
「ねぇ。木元さんは委員長のこと、どう思ってるのか知ってる?」
 そう尋ねると、真由子は首を振る。
「聞いたことないもん」
「そっか。……前にプリントまとめるの手伝ってた時ね、聞いたの」
 真由子は驚いて顔を上げた。
「な、何を?」
「委員長と仲良かったから、付き合ってるのかって」
「そ、それで?」
 真由子は先を催促した。
「付き合ってない、幼馴染だって言ってた」
「それって……」
 興奮状態になってきた真由子の手を、由美は握った。
「もしかしたら、勝算あるかもしれないよ。真由子」
 真由子は驚いているのか、大きな目を更に大きく開く。
「でもね?」
 由美は言葉を続けた。
「照れ隠しでそう言ったのかもしれないし、本当は木元さんも委員長のこと好きだけど本人が気づいていないのかもしれない。それは今の時点では何とも言えない」
 由美の言葉に、真由子は納得し頷く。
「だからね、友達になろう。木元さんと」
「は?」
 突拍子もない言葉に、真由子は唖然とした。
「な、何で?」
 そう聞き返すのがやっとだった。さっきの話とどう繋がっているのか分からないのだ。
 由美は右手の人差し指を立てた。
「いい? まず木元さんの気持ちが分からないと、動きようがない。友達になれば、それを聞き出すことができる」
 それは確かにそうだ。由美は今度は中指も立てた。
「二つ目。木元さんは委員長の幼馴染よね? もし木元さんと友達になれば、委員長と接する機会も増えるかもしれない。それって木元さんに気持ちがあってもなくても、チャンスだと思わない?」
 訊かれ頷く。すると由美は苦笑した。
「なーんて。こんな打算的な友達、木元さんはいらないだろうけどね」
「ねぇ、由美。お願いがあるんだけど」
 唐突な言葉に驚きつつ聞き返す。
「お願い?」
 真由子はゆっくりと頷いた。
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