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novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.1 舞い降りた天使 1-2  

 教室に戻ると担任は早速転校生の紹介を始めた。
「空田翼くんだ。ご両親のお仕事の都合でこっちに越してきたばかりだそうだ。仲良くしてやってくれ」
「よろしくお願いします」
 翼が笑顔で挨拶すると、そのかわいらしい笑顔にクラスの女生徒は瞬殺された。目がハートマークになっているのが、優子にでも分かる。
「席は……木元の隣な」
「はーい」
 翼は返事をすると、優子の隣の空いている席に座った。
 その瞬間、嫉妬した女生徒の陰口が聞こえてくる。しかし翼はそんなことはお構いなしのようだ。
「木元さん、よろしくね」
 翼の笑顔に躊躇しながらも「よろしく」と小さく答えた。

 その頃、天界ではヨクの件を審議していた。ダンはヨクの性格、これまでの業績、酌量の余地を神に訴えていた。
「事情はよく分かりました。こうしてる今もヨクは人間に成り済ましてるようですね」
 神は頭を抱えた。ダンは急いで、下界を見た。するとヨクが人間に成り済まし、優子に近づいているのが目に入った。
「あっちゃー……」
 あの馬鹿、とダンは心の中で呟き、頭を抱えた。
 どうしてあいつはこうも勝手に行動するのか……。
 地上に降りてはいけないと言う掟を破り、今度は人間に近づいてはならないと言う掟まで破った。
(情状酌量の余地、なくなったんじゃねぇか……?)
 ダンは溜息を吐いた。

「こっちの教室が第一理科室で、こっちが第二理科室」
 休み時間、優子は転校生の翼に学校案内をしていた。
 実はクラスの女子の何人かが申し出たが、翼は何故か優子に案内してもらうと言って聞かなかった。優子としては、しわ寄せがこっちに来るから、あの子達に案内してもらった方が良かったと内心思っていた。しかし翼の笑顔の前に太刀打ちできる女子はおらず、結局優子が案内することになったのだ。
 翼がどういう訳で自分にこだわっているのか、よく分からない。
 優子は隣にいる翼を盗み見た。綺麗な整った顔立ち。日本人とはまた違った顔立ちのような気がする。
「空田君って……ハーフ?」
 思わず聞いてしまった自分に、優子自身が驚いた。他人に話しかけるなんて……。
 突然の質問に翼は驚いていたが、次の瞬間、人懐っこく笑った。
「俺のことは翼でいいよ。ハーフではないけど、どっかで外国の血は入ってるみたい。そう見える?」
 翼は今までの人と違うと、実感する。健太以外でこんなに普通に話ができたのは、いつ振りだろう?
「何となく……顔立ちが……」
 小さく呟いた声も、翼はちゃんと聞いてくれた。
「そう? 俺はこれが普通なんだけどね」
 そう言ってまた屈託なく笑う。
 翼は不思議な人だった。少なくとも優子にとっては。

 それから優子は何となく翼を観察するようになっていた。
 翼は明るい性格なので、すぐにクラスの皆とも仲良くなった。女子はもちろん、男子とも仲良くなっていた。
 正直、羨ましい。
 自分もあの輪の中に入りたい。
 いつしかそう思うようになった。
 でもそれは無理なことだと分かっている。自分はあの輪の中に入れない。入る資格なんてない。あの人たちと自分は違うんだ。
 そんなこと分かってる。人を羨んでいても仕方がないことくらい、もうとっくの昔から知っている。
(蓋を……しなきゃ……)
 自分の中に湧き上がる言葉では言い表せない気持ち。優子はいつものように蓋をした。もうずっとこうしてきた。二度と開かないように、きつく、きつく。

 放課後。優子は入院してる健太の元を訪れた。授業のノートのコピーを渡すために毎日寄っている。
「はい、今日の分のノート」
 優子は健太に授業のノートのコピーを渡した。
「サンキュー。悪いな、毎回」
 優子は首を振った。
「元はあたしを庇っての怪我だし……」
 そう言うと健太は優しく笑った。
「気にすんなよ。俺がちゃんと避けれなかったから怪我したんだしさ」
「でも……」
「ちゃんとやってっか? 学校」
 急に話題を変えられ、優子は俯いた。そんな様子に健太は軽く溜息を吐いた。
「もっとさ、自信持っていんだぞ?」
 慰めるような言葉に、優子は何も言えなくなる。
 健太の優しさが、硬く閉ざしている心の中まで入ってきそうで、何だか怖かった。
「あたしには……自慢できるようなこと……何も、ないし」
「優子……」
「それに……」
 言いかけて、言葉を飲み込んだ。こんな事、健太に言っても仕方ない。
「それに?」
 聞き返され、首を振る。
「何でもない」
 優子はまた俯いた。
「そうやって俯いたりするから、暗い気持ちになるんだよ。もっと上向いて歩けって」
 そう言われたって、どうやって上を向けばいいのかなんて分からない。
「……ごめん……今日は帰るね」
「優っ……」
 呼び止められる声が聞こえたが、逃げるように病室を出た。
 あのまま健太に優しい言葉をかけてもらっていると、胸の奥が痛くなる。

 どうして健太はあんなに優しくしてくれるんだろう?
 幼馴染だから放っておけないんだろうか?
 だけどそんなことされると、余計に辛くなる。こんな人間のお守りなんてしなくていいのに。
 健太は明るくて優しくて、勉強もできて、サッカー部で活躍するスポーツマンで、人望も厚い。
 それに比べて自分は根暗で、勉強だけしか取柄がなくて、友達が一人も居なくて、スポーツなんて何もできない。
 自分で言ってて悲しくなるが、それが事実。

 ふと空を見上げた。晴れ渡る空の遠くで黒い雲が見えた。
「雨?」
 あの黒い雲はきっと雨雲だ。優子は急いで家に戻った。
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