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プロローグ
少年は膝を抱えうずくまっていた。

深夜、少年は激しい物音に目を覚ました。様子がおかしい。両親が喧嘩なんてするはずない。物凄く仲が良いのだから。
少年は自分の部屋のドアを少し開けて、様子を見ることにした。
少年は、自分の目を疑った。何者なのか全く分からない男たちが両親を襲っていた。
「あ・・ぁ・・。」
声にならない。助けなきゃ。そう思っても立ちすくんでいた。体が硬直して動けない。
目の前で惨殺される父と母を少年はただ見ているしかできなかった。
『次は・・僕の番・・?』
そんな疑問がふと生まれた。何故両親が殺されたのか、全く見当が付かない。少年はそっと自分の部屋を閉め、今度は窓からそっと外を見た。人は居ないようだ。窓を開け、少年は外へ出た。窓をそっと閉め、隠れられるわずかなスペースに身を隠した。膝を抱えうずくまる。震えが止まらない。
落ち着け、自分。あいつらが退散するまでは、見つかっちゃいけない。
少年はうずくまったまま、やつらが退散するのを待った。

どれくらいの時間が経ったんだろう・・。辺りは白みがかって来ている。
少年はまだ震えが止まらなかった。何とか立ち上がり、家の中に入った。当然男たちは居なくなっていた。
目に入ったのは、惨殺された両親の死体。部屋中に血が広がっていた。
悪夢なんかじゃなかった。目の前には冷たくなった両親が居る。
「父さ・・ん・・・母さ・・ん・・・。」
少年は両親の遺体の前に力なくひざまづいた。2人の手を握る。冷たい。
父の頬に触れた。あの優しかった笑顔はもう見れない。
今度は母の頬に触れた。暖かいあの料理はもう食べられない。
少年の膝にポタポタと涙が落ちた。溢れる涙を堪えるなんてできなかった。
それまでになかったくらいに声を出して泣いた。
一晩にして両親を亡くし、その意味さえも分からずに、少年はただ泣くしかなかった。
2人を助けられなかった。自分が逃げるのに必死だった。
あの時、自分が犠牲になってでも、助けに行けば・・こんなことには・・・。
そんなことを今更悔いても仕方がないことは分かってる。
でも・・ただ悔しくて、悔しくて、大声で泣き叫んだ。

涙も枯れ果て、少年はただ呆然としていた。
ここは山の奥。近所に人なんて居ない。少年は生まれた時からここに住んでいた。
その時ふと思い出した。辺りを見回す。
「ロッピー。出ておいで。」
その声に反応したのか、物陰から猿に似た生き物が出てくる。ロッピーと呼ばれたその生き物は、少年が怪我をしているのを見つけ、手当てしていたら懐いてそのまま一緒に暮らしていた。
「無事だったんだね。」
足元に駆け寄ってきたロッピーを抱き上げた。
「ピィー。」
抱き上げられたロッピーは、少年に頬擦りした。やっと温もりに触れた少年は、やっと安心した。
落ち着いた少年は、両親を家の近くに埋葬した。その間に考えていたこと。
『絶対見つけ出して、殺してやる。』
そう固く心に誓った。

少年は家に入り、まず血だらけになっている床を掃除した。両親が流した血は、既に固まりかけている。
泣きながら掃除をした。泣いているとロッピーが慰めるように肩に乗って来た。
「ありがとう。慰めてくれて。」
「ピィ。」
少年は涙を堪えてまた掃除をした。
カチャン。
何かが落ちた。少年は辺りを見回した。ロッピーが見つけ、少年に渡した。
「何だ、コレ・・?石?」
何かの欠片のような気もする。こんなもの、見たことない。もしかして両親を殺した奴らの手がかりかもしれない。
そう思い、少年はそれを服のポケットに入れた。

掃除が終わると、今度は旅に出る準備をした。
鞄の中に少しの食料を入れ、父親から受け継いだ剣を取り上げた。
この時既に日が落ちていた。このまま家を出れば、森の中で迷ってしまうことは必然だった。
「ロッピー、明日出発しよう。」
「ピィ。」
頷くように返事する。2人はこの家での最後の食事を取った。
ただ無言で、母親の手伝いで覚えた料理を作って食べた。

必ず・・必ず・・この手で、両親の仇を討ってやる。

少年は、再び決意を固くした。
こうして少年は両親の復讐を果たすため、旅に出ることにした。