font-size       
ACT.2 Secret
 鈴枷天音は悩んでいた。それは同じクラスの水瀬ほたるがまったく相手にしてくれないからだ。確かに興味本位過ぎるのかもしれない。だけど、気になる。それは恋なんかじゃなく、彼が持つ雰囲気だった。人を拒絶するようなオーラを纏っている。それが何故なのか知りたい。
「チッ。また逃げられたか」
 休み時間、彼と話をしようとしてもすぐに逃げられる。お節介だとも分かってる。ただそのサングラスの奥にある目が気になったから。

 放課後もほたるを追いかけたが、バイトだと言われあっさり拒否された。
「うーん。正攻法がダメなら周りから攻めるかぁ」
 何だか違う方向に行っているが、思いついたら実行しちゃえ!という性格なので、誰にも止められない。(しかも今回は止める人間もいない)

 翌日もほたるに相手にされなかった天音は、今度は冴木真奈美に近づいた。
「ねー、冴木さんって水瀬くんの幼馴染なんだってねー」
 真奈美は特に驚いた様子もなく、「そうよ」と返した。
「水瀬くんってどこに住んでるの?」
 その質問にはさすがに面食らったような顔をした。
「本人に聞いたら?」
「答えてくれる訳ないじゃん」
「じゃあ教えられない」
 真奈美はやはりガードが固い。真奈美と話していると、真奈美の後ろから芽衣が顔を出した。
「天音ちん、水瀬のこと好きなの?」
 突然の質問に今度は天音が面食らう。
「うん」 
 あっさり言うと芽衣は不満そうな顔をした。
「えー。マジでー?何で水瀬なんかいいのー?」
 どうやら彼女はほたるが嫌いなのだと天音は直感的に気づいた。
「あー、あたしの好きっていうのは友達でって意味ね。恋とかそんなんじゃないよ」
「えー。それもどうなのー?」
 何を言っても否定されている気がしないでもない。
「興味があるんでしょ。ほたるに」
 真奈美がクールにツッコむ。
「興味・・・・・・。うん、確かに興味はある。じゃないと近づこうなんて思わないよ」
 天音は自分を納得させるように呟いた。
「どうかした?」
 真奈美に聞かれ、天音は我に返る。
「水瀬くんにね。『興味本位で俺に近づくな』って言われたの。でも普通興味あるから近づくよなぁと思って・・・・・・」
 天音がそう言うと、真奈美はジッと天音を見つめた。
「え?何?何かついてる?」
 あまりにもジーっと見られているので、天音は自分の顔に何かついているのかと両手で顔をペタペタ触り始めた。
「ううん。あ、先生に用事頼まれてるんだった。じゃあね」
「うん」
 真奈美は天音に背を向けた。
「あ、芽衣も行くー!」
 当たり前のように芽衣がついていく。
「うーん。ガード固いなぁ」
 天音は一人溜息をついた。

「真奈美?職員室こっちじゃないよ?」
「嘘よ」
 芽衣にツッコまれた真奈美は一言返した。
「へ?」
「やっぱりほたるはまだ言ってないのね」
 真奈美が呟いた。
「そりゃ、言わないでしょ。普通」
 芽衣が珍しく真面目に返す。ほたるの過去を知っているのは、ごく数人だ。芽衣もその中の一人である。
「鈴枷さんなら受け止めてくれると思うんだけどな」
「何を根拠に?」
 鋭く芽衣にツッコまれる。
「目・・・・・・」
「目?」
 真奈美の呟きを繰り返す。
「と言うか同じ匂いがするんだけどなぁ」
「匂いかい!」
 思わず芽衣はツッコんだ。
「芽衣はどう思う?」
 急に振られ、芽衣は困惑した。
「どうって言われても・・・・・・。まぁ・・・・・・いいコンビだとは思うけど・・・・・・」
「いいコンビか・・・・・・。確かにそうかもね」
「真奈美、まさか・・・・・・水瀬のこと好きなんじゃ?」
 芽衣の思いも寄らない言葉に真奈美は一瞬驚き目を丸くした。
「そんな・・・・・・まさか。ほたるは・・・・・・もう家族みたいなもんだから。そういう対象じゃないわよ」
 真奈美の言葉に芽衣がホッと胸を撫で下ろす。
「よかった」
 芽衣は自分より背の高い真奈美の右腕に腕を絡ませた。
「何よ、それ」
「真奈美には芽衣がいるもんね」
「あたし、同性愛者じゃないわよ」
「そうじゃなくてー」
 分かっているくせに真奈美が意地悪をする。そんな掛け合いがなぜか楽しい。
「ねぇ、真奈美。本当に水瀬とは何でもないんだよね?」
 急に芽衣が真剣な眼差しで尋ねる。
「えぇ、そうよ。何度も言ってるじゃない」
「ならいいんだけど」
 芽衣は安心した。真奈美のことが心配だった。世話好きな彼女のことだから、ほたるなんかにかまけて自分のことをおろそかにするんじゃないかって。それが恋愛対象になっていたら尚更だ。今のところそうではないらしいので、良かったと思う。
「何してるの?置いてくわよ」
「あー。待ってー」
 芽衣は慌てて先に歩いて行った真奈美を追いかけた。

 放課後。天音はめげずにほたるに接近した。
「水瀬くん!一緒に帰ろう」
「バイトあるから無理」
 あっさりきっぱり拒絶される。
「バイトって何してんの?」
「答える必要ない」
 今日もほたるは冷たい。一言そう言うと、さっさと行ってしまった。
「天音ちんも物好きだよねぇ」
 不意に後ろから声がした。振り返ると芽衣と真奈美が帰り支度をして立っていた。
「ほたるを追いかけ回すのはいいけど、ストーカーにだけはならないでね」
 真奈美が冷静に言い放つ。
「ス、ストーカー?!」
 あまりの言われように天音は驚いた。
「今も十分ストーカーっぽいよ」
 芽衣が笑う。
「そうね」
「ひ、ひどい・・・・・・」
 二人のやり取りに天音がショックを受ける。
「ほたるは結構頑固だから。心を開かせるのはかなり大変だと思うわよ」
 急に真奈美が真剣な眼差しになる。しかし天音は驚きもせず、笑った。
「大丈夫。そんなことくらいとっくに分かってるもん」
 天音の言葉を聞き、真奈美は不思議に思った。
「どうしてそんなにほたるにこだわるの?」
「目が・・・・・・気になったから」
「「目?」」
 真奈美と芽衣が同時に聞き返す。天音はコクンと頷いた。
「ある時見たサングラス越しの目が、すごく寂しそうだった。だから拒絶しているようでも、本当は皆と関わりたいんじゃないかって思ったの」
「要するにお節介焼きなのね」
 真奈美がズバッと言う。
「身も蓋もないなぁ」
「真奈美は人のこと言えないし」
 芽衣が横からツッコむと、天音が笑った。
「冴木さんも世話焼きなんだ」
「性格だからしょうがないわね」
 何ともクールに返ってくる。
「冴木さんはサングラスの謎、知ってるの?」
 突然天音が真剣になる。
「知ってる、って言ったら?」
 まるで駆け引きのような答えが返ってくる。
「どうもしない。幼馴染なんだから知ってるんだろうとは思うけど・・・・・・」
「ええ、知ってるわ」
 真奈美はあっさりと答えた。
「だけどこれは言えない。聞くなら本人の口から聞くべきだと思う」
「うん。あたしもそう思う」
 真奈美の意見に天音が賛同する。
「水瀬くんがもしサングラスの謎を教えてくれたら、あたしに心を開いてくれたって言うことなのかな?」
「ええ。多分ね」
「じゃあもう少しがんばらなきゃね」
 天音は両手の拳をギュッと握った。

 真奈美たちと別れた後、天音はこっそりと真奈美の後をつけていた。
「この辺に住んでるのか・・・・・・」
 真奈美が住宅街へと入って行く。これ以上尾行すると、感づかれてしまうかもしれないので、見つけた公園に入った。
「うーん。家分かったってどうしようもないんだよなぁ」
 どうせ肝心のほたるはバイトだ。それに家まで押しかけたとなるときっと心象は良くない。ただでさえうざったいと思われてるんだから。
「どうしたものか」
 そのまままっすぐ家に帰るという選択肢がなぜか出てこない。
「お前の名前、変なのー!」
 ふと小学生の声がした。声のした方を見ると、一人の小学生を四、五人が囲んでいた。
「父ちゃんも母ちゃんもいないんだってー」
「しかもこいつの兄ちゃん変なヤツなんだぜー」
「変じゃない!」
 イジメられている小学生が反論する。
「生意気なんだよ!」
 一人が殴りかかると、他の子たちも襲い掛かった。
「やめなさい!!」
 天音が一喝すると、イジメていた子供たちが止まった。
「あんたら大勢じゃないと一人に歯向かえないの?」
「ち、違うもん!」
 天音の言葉に反論する。
「それならお姉ちゃんとやり合ってみる?」
 天音がボキボキと指を鳴らす。天音の形相と気合に圧倒され、恐怖を感じた小学生たちは逃げて行った。
「大丈夫?」
 一人残されたのはイジメられていた子だった。天音は尻餅をついたままのその子を立ち上がらせた。お尻や服についた土を払う。その時、名札が目に入る。
「水瀬って・・・・・・。もしかして水瀬ほたるの弟?」
 突然天音に兄の名前を出され、たてはは驚いた。
「どうして・・・・・・」
「あ・・・・・・。お兄ちゃんの友達。クラスが一緒なの」
 『友達』は言いすぎだったかもしれない。
「真奈美ちゃんと同じ制服・・・・・・」
 真奈美ちゃんが冴木真奈美のことだとすぐに気づく。
「うん、そう。真奈美ちゃんとも同じクラスなの」
「そうなんだ・・・・・・」
 たてはは突然焦り始めた。
「お願い!お兄ちゃんや真奈美ちゃんには言わないで!」
「言わないでって・・・・・・。イジメられてたこと?」
 天音が尋ねると、たてはは頷いた。
「どうして?」
「心配・・・・・・させたくないから・・・・・・」
「分かった。言わないであげる」
 天音はたてはの気持ちを汲み、黙っていることにした。
「ありがとう。僕は水瀬たては。お姉ちゃんは?」
「鈴枷天音。天音でいいよ」
「天音ちゃん、うち来るんだったの?」
「え?」
 突然たてはに言われ、天音は驚いた。
「あ、それとも真奈美ちゃんち?」
「えーっと・・・・・・」
 まさか真奈美を尾行してたなんて言えない。
「あー、そう。お兄ちゃんに用事があって来たんだけど、途中で道が分からなくなっちゃって・・・・・・」
「そうだったんだ。でも今日お兄ちゃんバイトだから遅いよ?」
「あー、うん。聞いてる」
 どれくらい遅い時間までバイトをしているのかは知らないが。
「じゃあ家来る?」
「へ?」
 突然のたてはの申し出に天音は驚いた。
「お兄ちゃんに用事があるんでしょ?」
「え?あ・・・・・・うん」
 今更嘘だったなんて言えない。
「でも、絶対言わないでね?」
 たてはが念を押す。
「もちろんよ。絶対、口が裂けても言わないよ」
 そう返事すると、たてはは安心した顔をした。

 たてはに案内され、天音はとうとうほたるの家に来てしまった。
「上がって」
 先に玄関を開け、中に入ったたてははお客様用のスリッパを出した。
「ありがとう」
 天音は靴を脱ぎ、出されたスリッパを履いた。
 家は昔からある木造住宅で、玄関を入るとすぐに二階へ通じる階段が見えた。目の前には廊下が伸びており、左手側に引き戸があった。たてははその引き戸を開け、中に入って行った。天音も続けて入る。
「おかえりー」
 不意に女の子の声がして、天音は驚いた。引き戸の中はリビングらしき和室が広がっていた。声がしたのは続きにある台所からだった。
「ただいま。ねーちゃん。お客さん」
「え?」
 あげはようやくはたてはの後ろにいた天音に気づいた。
「あ、いらっしゃいませ」
 突然の来客に戸惑っているのか、頭を下げられた。
「あ、お邪魔します・・・・・・」
「えっと・・・・・・兄の学校の方、ですよね?」
 制服で気づいたようだ。
「あ、はい」
 天音が返事すると、あげはは台所からやって来て、居間に座布団を出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 薦められたので、座布団に座る。あげははお茶を淹れるため、台所へ戻った。
「たては、宿題してきなさい」
「あ、はーい・・・・・・」
 あげはに言われ、たてはは小さく返事した。チラッと天音を見る。
「大丈夫」
 天音は小さく呟いた。天音の言葉に安心したのか、たてはは頷いて、二階へと上って行った。
「あの・・・・・・兄に用事があったんですよね?」
 あげはがお茶を出しながら確認を取る。
「あ、はい」
「今日は帰りが九時を過ぎると思うんですけど」
「そんなに遅くまでバイトを?」
 あげはの言葉に天音は驚いた。
「ええ。いつもそれくらいですよ」
 あげはは天音の驚きに動揺せず答えた。沈黙が訪れる。天音はふと気づいた。
「あの・・・・・・ご両親は?」
 一般家庭なら母親くらいいてもいいはずだ。両親とも仕事でもしているのだろうかと軽い気持ちで尋ねる。あげははその質問に面食らう。
「兄から聞いてませんか?」
「え?」
 あげはの顔つきが変わったことに気づく。何か余計なことを聞いてしまったのだろうか?
「うちの両親は事故で二人とも・・・・・・」
 あげはの答えに天音は固まった。やっとの思いで口を開く。
「あ・・・・・・ごめんなさい。知らなくて」
「いえ。もう五年も前の話ですから」
 五年。天音は驚いた。と言うことはほたるがたてはくらいの頃だろうと察しがつく。
「兄弟だけで住んでるの?」
「はい」
 天音の問いにあげはは短く答えた。
 もしかして、もしかしなくても余計なことを聞いたのだろうか。人と関わらないようにしてたのは、両親がいないから?
 いや、多分それだけじゃない。あのサングラス越しに見た目はきっと・・・・・・。
「もう一つ聞いてもいい?」
「はい?」
 天音の声にあげはは俯いていた顔を上げた。
「水瀬くんのサングラスは一体・・・・・・。どうしてサングラスをかけてるの?」
「それは・・・・・・」
 あげはが言葉を濁す。やっぱり言えないことなのだろうか?
「ただいま」
 突然玄関の扉が開いた。
「お兄ちゃん?」
 声に気づいたあげはが小さく呟く。
(げ。マズイ)
 天音は悲鳴を上げそうになった。絶対拒絶されるに決まってる。どうやって取り繕う?
 天音が葛藤している間に、あげはがほたるを出迎えに立ち上がる。
「おかえり。今日は早かったんだね」
 あげはは居間から顔を出した。
「おう。今日は仕事少ないから帰っていいって言われた」
 ほたるの声が近づいてくる。しかし足音は居間を通り越し、隣のダイニングキッチンの方へと歩いていく。
「お兄ちゃん。お客さん来てるよ」
「客?」
 丁度ダイニングに入った時、開け放たれた扉から天音が見える。
「・・・・・・何でお前」
 驚いたのか、すぐに声が出てこなかった。
「お、お邪魔してます」
 天音が苦笑して返す。言い訳なんて思い浮かんでない。ほたるがものすごい勢いでこちらにやってきた。
「何でお前がここにいるんだよっ!」
 鬼のような形相(サングラスで目は見えないがそんな雰囲気)でほたるが詰め寄る。
「あの・・・・・・えっと・・・・・・」
「お兄ちゃんに用事があるって・・・」
 兄の変わりように驚きながらあげはが口を挟む。
「用事ぃ?」
 ほたるは天音を睨んだ。
(怒ってる・・・・・・)
 サングラスの奥の目がチラリと見えた。これは何を言っても無駄かもしれないが、無駄な抵抗をしてみる。
「あの・・・・・・えっとー、今日の英語のノート見せてもらおうかなぁと思って・・・・・・」
「はぁ?」
 ほたるは怒っていると言うより、呆れていると言った様子だ。
「英語の時間、寝ちゃって・・・・・・。水瀬くんならきちんとノート取ってるだろうなぁって思って・・・・・・」
「それで家まで来たのかよ」
 ほたるの問いに天音がコクンと頷いた。
「本当は俺のこと嗅ぎ回ってんじゃねぇだろうな?」
 ギクッ。
 動揺を隠すように天音はブンブンと両手を大げさに振って見せた。
「そんな、まさか。嗅ぎ回るだなんて」
「ノートなら何で学校いる時に言わない?それに明日だっていいだろ?」
 ほたるがまだ睨んでいる。
「それは・・・・・・ノート借りようと思ったら水瀬くんがとっとと帰っちゃったからで・・・・・・。明日あたし、当てられそうだから・・・・・・その・・・・・・」
 天音がそう言うと、ほたるは呆れからなのか溜息をついた。放り出した鞄からノートを取り出す。
「ノートは明日でいい。それ持ってとっとと帰れ。二度と来んな」
 ほたるは矢継ぎ早に言いながらノートを手渡す。
「ありがとう。ごめんね」
 天音がそう言ったが、ほたるは返事もせずそっぽを向いて台所へと消えた。
 天音は言われた通り、ノートを借り、水瀬家から退散することにした。

 水瀬家を出ると、もう辺りは薄暗くなっていた。
「やっぱサングラスの謎は本人から聞くしかないのかー」
 もしあの時ほたるが帰ってこなかったら、彼女は口を割ったのだろうか?いや恐らく本人に聞けと言うだろう。
「肝心の本人が口堅そうだもんなぁ」
 天音は溜息をついた。
「・・・・・・ちゃーん」
 ふと後ろから声がした。振り返るとたてはが息を切らせてこちらに走ってくる。
「たてはくん。どうしたの?」
「ごめんなさい」
 天音の近くに来るなり、突然たてはは頭を下げた。
「え?」
 あまりに突然だったので、天音はどう反応していいのか分からなかった。
「僕のせいだよね。僕が黙っててって言ったから・・・・・・」
 たてははどうやら自分のせいで天音が追い出されたのだと思っているようだ。
「違うよ。あたしが無理やり家に上がったりしたから怒ったんだよ」
 天音は慌ててフォローする。
「でも・・・・・・」
 たてはは納得していないようだった。顔が俯いたままだ。
「ねぇ、たてはくん。やっぱり言えない?」
 天音の問いにたてはは一瞬顔を上げたが、また俯く。
「二人を心配させたくないから・・・・・・」
 そのたてはの言動に天音はキュンとなった。
(めちゃくちゃカワイイ・・・・・・)
 思わず涎が出そうになるのをグッと堪える。
「たてはくん。イジメられてるって言うことは恥ずかしいことじゃないよ。恥ずかしいのはイジメてる方」
 天音の意外な言葉に驚いたたてはは顔を上げた。
「たてはくんは我慢してるんでしょう?自分が我慢してたら向こうの気が済むんだって」
 たてはは一拍置いてコクンと頷いた。
「我慢してたって今の状況は変わらないし、いつかお兄ちゃんたちにだってバレちゃうよ?」
 そう言うと、たてはは顔を強張らせた。
「言えるなら・・・・・・。言えるならとっくに言ってるよ!!」
 たてははそう叫ぶと、元来た道を走って戻って行った。
「あーあ。怒っちゃった」
 天音は小さくなっていくたてはの背中を見送った。