プロローグ
人は必ず何かの可能性を秘めている。言わば誰しもが何かの花を咲かす素材だってこと。
でもそれは誰もが気づくわけじゃない。自分では気づかないそんな才能を咲かすことはかなり難しい。だからといって諦める必要なんてない。もしかすると自分では気づかないうちにそんな花を咲かせているかもしれないのだから。
ある日の音楽スタジオ。そこではあるバンドが入り浸っていた。
「リーダー。見るもんないんやったら、テレビ消せば?」
メンバーに言われるが、リーダーと言われた男はしぶとくテレビのチャンネルを変えていた。
「結局ニュースにしたんや」
「だって。ニュースしかしてへんねんもん」
ブーたれるリーダーに、メンバーは呆れ顔で溜息をついた。テレビの中でアナウンサーが淡々とニュースを読み続ける。
『では続いてのニュースです。今日の夕方頃、大阪府T市で少年がトラックにはねられ、死亡する事故がありました』
「うわ。まだ十五だってよ。かわいそうに」
『少年は、誤って道路に飛び出した少女を助けようと、少女の身代わりになってはねられた模様です』
「人助けか。お前にはできへんやろうな。ハル」
そう言ってリーダーは意地悪げに笑う。
「うん。できへんかも」
嫌味は通じなかったようだ。真面目に切り返されてリーダーはつまらないと舌打ちをする。
「リーダー、それより早く曲、仕上げてや」
「分かったって」
他のメンバーに催促され、リーダーは重い腰を上げた。
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