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プロローグ
莉緒はただ呆然としていた。たった一枚の紙切れだけがテーブルの上に乗っている。

『すまない。探さないでください。 父』

取り上げてみると、その一言だけが書かれていた。紙を持つ手がワナワナと震える。
「ただいま。あら?莉緒、今日は早かったのね」
母が買い物を済ませて帰ってくる。
「お母さん・・これ・・」
母にその紙を見せると、母はフッと静かに笑った。そしてビリビリと紙を破り始めた。
「お・・お母さん?」
「忘れましょ」
「え?」
「父さんは死んだのよ。遺産も残さずに・・」
母は冷ややかな目をしていたが、明らかに怒っている。
「莉緒、ちょっといらっしゃい」
母に言われ、莉緒は母について両親の寝室に入った。
「これ見て」
差し出された紙には『借用証書』の文字があった。
「!これ・・」
「父さんの借金よ」
「借金残してったの?」
莉緒は思わず大きな声を出してしまった。母は大きく頷く。
「・・信じらんない・・」
莉緒は溜息をつきながら、脱力した。大体父は仕事をリストラされてから、再就職先も見つからず、家でボーっとしていたのだ。それが自分で耐え切れなくなったのか、分からないが、借金なんて残して行って欲しくなかった。
「まぁ、これで一人食費が要らなくなったわね」
母は思ったよりあっさりとしている。居なくなってせいせいしたと、言わんばかりだった。
「お母さん、あたし高校辞めて仕事するよ!」
母はただでさえパートばかりで疲れているのに、借金を残された今、倒れるまで働くかもしれない。
「あら。それは嬉しいけど。お願いだから、高校だけはちゃんと行って頂戴」
母は真剣な眼差しでそう言った。
「でも・・」
「あなたが行ってるのは、公立高校だから授業料もそんなに高くないし。それに高校ちゃんと出ておかないと、ちゃんとしたところに就職できないでしょ」
母にそう言われると何も言い返せない。
「とりあえず学校に許可もらって、バイト探すよ」
「ありがとう。だけど無理しないでね。成績もなるべく落とさないようなバイトにしなさい」
「はーい」

それは莉緒が高校一年生の夏休み前の出来事だった。