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エピローグ
父はしばらく墓の前に佇んでいた。莉緒たちは父を残してその場を去った。父もきっと母と二人で話したいだろうと思ったからだ。
駐車場で父を待つ間、莉緒はただ夕日に染まる空を見つめていた。
「はい」
目の前に突然缶コーヒーを差し出され、莉緒は現実世界へ引き戻された。
「ありがと」
爽一郎から受け取り、缶を開けて一口飲む。冷えた体が少しだけ温まる。
「やっぱり許せない?」
聞かれ、莉緒は少し考えた。
「分かんない」
莉緒の思いがけない返答に、爽一郎は驚き、顔を覗き込んだ。
「分からないって?」
「本当は許してるのかもしれない。・・・・けどやっぱり、ちゃんと顔を見て話をしたくない。嫌な感情が出てきそうで・・・」
「そっか」
爽一郎は莉緒の頭を優しく叩いた。
「莉緒」
いつの間にか父が戻ってきていた。
「爽一郎くん。莉緒を頼んだよ。・・・何て私が言えた義理じゃないが」
寂しそうに微笑む父に、莉緒は胸が痛んだ。
「お父さん」
莉緒に呼ばれ、父は顔を上げた。
「あたし、まだお父さんのこと、許せないと思う。あの時お父さんが戻ってきてくれたら、お母さん一人であんなにがんばらなくてもよかったと思うし。この先、お父さんのことを許せるかどうかなんて分からない」
莉緒の言葉を真摯に受け止める。
「あぁ。覚悟はできてるよ」
「よく言うよ。ヘタレのくせに」
莉緒の毒に、爽一郎も父も驚く。
「許せないかもしれないけど・・・たまには顔を見せに行くよ。爽一郎と一緒に」
莉緒は照れたように、顔を背けたが、それでも父は嬉しそうに笑った。

父を送り届けた後の車内。莉緒と爽一郎は運転手付の車で新婚旅行に行くため空港へ向かった。
これから先、思いがけない困難があったとしても、きっと二人で乗り越えていける。
そんな確信が二人の中にあった。今までがそうだったように。
二人は手を繋いだ。きっと誰にも解けない二人の絆のように、固く、強く。