novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.4 そして、彼女の事情 4-3  

 由美は必死に真由子を捜していた。
「どこ行ったんだろう?」
 追いかけ始めた時、かなりの距離が開いていたので、捜すのは困難だった。いつも寄り道する喫茶店やゲームセンターなどを覗いたが、真由子はいなかった。
 そして駅まで辿り着いてしまった。真由子はもう電車に乗って帰ってしまっただろうか?
 駅舎へと続く広場を歩いていると、同じ制服の後ろ姿が見えた。髪を二つに結んでいて、天然パーマが綺麗にかかっている。
 間違いない。真由子だ。
 そう思い、急いで駆け寄ると、何だか様子がおかしいことに気づいた。
 彼女は、真由子は泣いていた。どうして泣いているのか、よく分からないが、声をかけずにはいられない。
「真由子」
 声をかけると、真由子はビクッと肩を震わせた。そしてゆっくりと振り返る。思った通り、真由子は涙を流していた。
「どうしたの? 何で泣いてるの?」
 由美がそう質問しても、意地っ張りな真由子は答えようとしない。
「あたしが悪かったなら、謝るよ。言い方、悪かったと思う……」
「違う」
 由美の言葉を間髪入れずに否定した。
「え?」
 驚いて真由子を見ると、真由子は涙を拭いながらこっちを見た。
「あんたのことで泣いてたんじゃない」
 その言葉にホッと胸を撫で下ろすが、疑問が沸く。
「じゃあ……どうして泣いてたの?」
 そう訊ねたが、やはり真由子は視線を逸らし、答えようとしない。一筋縄ではいかないことは、よく分かってる。
 由美は意を決して口を開いた。
「中学の時ね、イジメられてる女の子がいたの」
 突然の言葉に真由子は驚いた。由美の話を、ただ黙ってじっと聞く。
「あたしはそれを知ってて、何もできなかった。見て見ぬふりしてたの。そしたらある日、彼女は自殺しちゃった」
 残酷な結末に、真由子の大きな目が見開かれた。驚いて声が出ない。それでも由美は続けた。
「何かね、似てるの。彼女と木元さん。だから気になるんだと思う。放っておけないの」
 真由子は何か言いたそうな表情をしたが、口を開くことはなかった。
「木元さんがイジメられてる事はないと思う。あたしが木元さんのことが気になるのは、ただの自己満足かもしれない。偽善だって言われるかもしれない。でも、あたしは木元さんと友達になりたいの」
 そう言うと、真由子は視線を逸らしたまま、ようやく口を開いた。
「あたしの話、聞いてくれる?」
 その言葉を待っていたと言わんばかりに由美は頷く。
「もちろん」

 ベンチに座り、気持ちを落ち着かせると、真由子は少しずつ話し始めた。
「あたしね、好きな人がいるの」
 突然の告白に、由美は驚きを隠せなかった。
「え? そうなの?」
 今まで恋愛の話をはぐらかされていたので、思わず聞き返す。すると真由子は照れたように頷いた。
「えっと……誰か聞いてもいいのかな?」
 真由子はしばらく迷っていたようだが、ようやく口を開く。
「……高村健太」
 まさかこうも簡単に教えてくれるとは思ってもみなかったので、由美は驚いた。しかしその名前は何となく予想していたものと同じだった。
「やっぱりそうだったんだ……」
「え?」
 由美の反応に驚いたのは真由子である。
「何となくそうじゃないかと思ってたんだ」
「え? 何で?」
 真由子が慌てている。実に彼女らしくない。
「だって委員長が絡むと、態度がおかしかったんだもん。木元さんを庇って怪我した時だって、『木元さんが怪我すればよかった』って言ってたでしょ?」
 見抜かれていたことを知り、真由子は恥ずかしさが込み上げてきた。
「そ、それは……ア、アヤ! 言葉のアヤよ」
 慌てて弁解する真由子に、由美は思わず笑った。
「な、何笑ってんのよ」
「ご、ごめん」
 ここで『かわいい』なんて言ったら、真由子はどんな反応するだろうか?
「もう隠さなくたっていいじゃない。委員長のこと、好きなんでしょ?」
 そう確かめると、頬を赤らめながら真由子が頷いた。 
「確か同じ中学だよね? 中学の時から好きなの?」
 掘り下げて尋ねると、真由子はゆっくりと頷く。
「高村はね、中学の時も委員長だったの。最初はただ同じクラスで委員長だ、くらいにしか思ってなかったんだ。あるとき席替えで、隣になったのね。それから少しずつ話すようになって……」
 その時真由子は我に返った。
「ってそれはいいの!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ。
「え? 関係あるんじゃないの?」
 真由子の反応に、由美がそう言うと真由子は次の言葉を考えた。
「と、とにかく……いつの間にか好きになってたの」
 ものすごく省略された気がするが、黙って聞くことにする。
「それで気づいたんだ。高村に好きな人がいるんだって」
「それって……」
 話の流れで由美はその相手が何となく分かった。
「あいつ。木元優子」
 真由子がぎゅっと拳を握ったのを、由美は見逃さなかった。
「だから……木元さんのこと、憎んでるの?」
 あまりにも直球な言葉だったと口に出してから気づく。
「ご、ごめん。言い方おかしいよね」
 慌てて言い直そうとすると、真由子は首を横に振った。
「ううん。当たってる。あたし、あいつのこと憎んでる」
 そう言った真由子は言葉とは裏腹にどこか辛そうな表情をしている。
「真由子……何かあったの?」
 そう尋ねると、真由子は俯いてしまった。
「ねぇ、由美。あたしがすべてを話しても、友達でいてくれる?」
 そう言って、真由子はすがるような目で由美を見つめる。その言葉の真意は分からないが、由美は笑って頷いた。
「当たり前じゃない。あたしたち、友達でしょ」
 その言葉にホッとした表情をし、真由子はゆっくりと口を開いた。
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