novela 【つばさ】エントリー作品−   

モドル | ススム | モクジ

  act.1 舞い降りた天使 1-3  

 天界では、勝手に下界に降り、人間に成り済ましたヨクに対する布告が出された。
 ダンは出された布告を持って、地上界へと降り立った。もちろん今回のことは任務なので、ダンの場合は問題外だ。
 ダンは人間に成り済ましているヨクを見つけ、声をかけた。
「ヨク」
 そう呼ぶと、地上で『空田翼』と名乗っているヨクが顔を上げた。
「もう決まっちゃったんだ」
 予感はしていた。降りた時点で、神は総てのことを知っている。今こうして人間に成り済ましていることも十分分かっているだろう。
「これからお前に対する布告を読み上げる。心して聞くように」
 ダンは落ち着いた口調で述べた。ヨクは顔色を変えずに、ダンを見据えた。
「『被告、ヨク。罪状、無許可で天界を抜け出し、地上に降り、人間に成り済ました第一級罪。故に……』」
 ダンは一呼吸置いて口を開く。
「『天界追放』」
 予想通りの結果に、ヨクは思わず自嘲した。
「『ただし……』」
「ただし?」
 続きの言葉に、ヨクは顔を上げ、ダンを見つめた。
「『木元優子が生きる希望を見出し生きるようになったなら、天界追放は無いものとす』」
「えっ?」
 まさかの展開に驚くとダンが説明を加える。
「要するにだ。あの少女が明るく生きれるようになれば、天界追放は無い。戻って来れるんだよ」
 ダンの言葉が信じられずに、ヨクはパニックになった。
「え……でも……」
「俺に感謝しろよ? 情状酌量を願い出てやったんだから」
 ダンは溜息を吐きながら言った。
「あ、ありがと……」
「それに神がそんな無慈悲な方じゃないと、お前もよく知ってるだろう?」
 そう言われ、ヨクは頷いた。総ての事情を知っている神はいつだって最善の選択をなさる。だから今回の件も、こんな風に情状酌量されたのだ。
「それともう一つ。お前が天使だってことは、誰にもバレちゃいけない。バレた時点で強制終了だ」
 ダンの言葉に気が引き締まる。ヨクは力強く頷いた。
「まぁ、せいぜい頑張るんだな。応援してる」
 ダンはそう言って、ヨクの肩を叩いた。
「ありがと。俺、やれること、やってみるよ」
 ヨクは一層気合を入れた。

 家に着いた優子は、自室に入ると、ベッドに倒れこんだ。うつ伏せになって枕に顔を埋める。
「はぁ……」
 小さく溜息を吐く。本当はこの家に居るのも嫌だ。まだ部屋に閉じこもることができるだけマシだ。
 生きてること自体が、息苦しい。
 どうして自分なんかが生まれてきたんだろう? 生きてる価値なんてないのに。

 苦しい。苦しい。苦しい。

 健太が怪我するくらいなら自分が下敷きになればよかった。
 どうして自分なんかを庇ったりしたんだろう? 怪我が酷ければ、大好きなサッカーすらもできなくなるのに。

 優子はふと窓の外を見た。ポツリポツリと雨が降り始める。
「やっぱり降った……」
 自分の気持ちに同調するかのように、雨が降り出す。だけどこの雨はいつかは晴れる。
 でも優子のこの気持ちが晴れることなんて、きっと有り得ない。ずっと雨雲が覆ってるような気持ち。重くのしかかるストレス。
 いっそこの雨のように、大粒の涙を流してしまえば、すっきりするのだろうか?
 しかし優子はそれができなかった。『泣く』と言う感情が欠落しているのだ。
 どうしたら泣けるのか、どうしたらこの気持ちが晴れるのか、さっぱり分からない。

 優子はおもむろに起き上がり、部屋の窓を大きく開いた。
 ここから落ちれば、楽になれる?
 胸の奥のどこかで湧き上がる思い。
 気づくと優子は窓の枠に片足をかけていた。
 ふと我に返る。こんなことをして何になる?
 例え自分が死んだとしても悲しんでくれる人なんて居ない。一人ぐらい居なくなったって、この世界は変わることはない。
「はぁ……」
 また溜息が漏れる。窓枠にかけた足を下ろしたその時。
「きーもとさん」
 ふと声がして下を見ると、転校生の空田翼が傘を差して、手を振っていた。
「え? どうして……」
 何でこんなとこに居るんだろう? 驚いてそれしか声に出ない。
「木元さん、ココだったんだねー。奇遇」
 そう言って翼は笑った。
「俺んち、あそこのマンションなんだー」
 そう言いながら数件先のマンションを指差す。
「そう……なんだ……」
 意外と近くに住んでいたと知り、またしても驚く。これは偶然なのだろうか?
「また遊びに来てねー」
 翼は相変わらず人懐っこい笑顔だった。
「……うん」
 頷くと、翼はまた手を振った。
「じゃあまた明日ねー」
 そう言ってマンションの方へと歩いて行った。その後ろ姿を、優子はただ見つめていた。
「何で……」
 思わず呟く。どうして今の、このタイミングだったんだろう?
 妙に気になったが、答えは出るはずなどない。
 優子は考えるのを諦めて、窓を閉めた。
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