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最初から分かってた。実るはずないって。
「守、入部届け出した?」 「もちろん」 幼馴染の修治が確認すると、守は頷いた。修治はカッコよくて、スポーツ万能なのだが、なぜか守と同じ写真の趣味を持っている。修治はもっぱら風景だが、守は人物写真だった。 「楽しみだな」 「うん」 守と修治は楽しみで仕方がなかった。高校に写真部があると知った時、彼らは絶対に入ろうと決めていたのだ。 早速部室に顔を出すと、三人の先輩と同い年の女の子が居た。まず先輩たちがそれぞれ自己紹介をし、彼女の番になる。 「一年A組の石橋奈美です。よろしくお願いします」 それはまさに一目惚れってヤツだった。 同い年の三人はすぐに仲良くなった。 「へぇ。二人は幼馴染なんだ」 「うん。生まれた時から一緒」 「いいね。そういうの」 奈美は楽しそうに笑った。彼女を知る度に惹かれていく自分に気づく。同時に奈美の気持ちにも。 「ねぇ、守くん。修治くんって好きな子いるのかな?」 部室でたまたま二人になった時、唐突に奈美が聞いてきた。 「さぁ? どうだろ」 動揺を隠しながら、そう答える。 「そういう話はしないの?」 「あんまりしないかな」 「そっかー。守くんはいないの? 好きな子とか」 『君だよ』と言いたい気持ちを押し込め、「いないよ」と答える。 「そうなんだ。ねぇ、修治くんって中学時代とかどんなだったの?」 すぐに話題が修治の方へ移り、守は何だか面白くなかった。 「奈美は、修治の事が好きなの?」 つい口をついて出た言葉は、直球すぎた。慌てて繕おうとするが、遅かった。奈美は少し俯き、顔がみるみる赤くなっていくのが見えた。 (やっぱり・・・・・・) そう確信した瞬間、彼女が顔を上げた。 「修治くんには内緒だよ」 何てことだ。知りたくなかった。 でも分かってたことだった。修治はカッコいいし、人当たりもいい。地味な自分なんかより、ずっと素敵だと思う。 「お前さ、奈美の事、どう思う?」 修治と一緒に帰っていると、不意にそう聞かれた。 「どうって?」 ドギマギしながら聞くと、修治は少し照れくさそうな顔をした。 「俺、好きかも」 「マジで?」 修治はコクンと頷いた。 「初めてなんだよな。同じ趣味で話が合う子って」 なるほどなと守は思った。 初めから分かってた。どう考えても不利だ。不利な状況が変わらないなら、今自分ができることは・・・・・・。 「え? モデル? あたしが?」 奈美は驚いて聞き返した。守はカメラの手入れをしながら口を開く。 「うん。俺人物しか撮らないんだよね。是非協力して欲しいんだけど」 「え? でもあたし、モデルなんてやったことないし・・・・・・」 「相手役が修治でも?」 そう聞くと、奈美は顔が赤くなった。 「守くんの意地悪」 守は「ハハッ」と笑った。 奈美と不意に二人きりになった時、話題に上るのはやはり修治だった。少し美化して伝える修治の姿。奈美はそれを聞く度、嬉しそうにしていた。 どんな理由であれ、二人きりで居るのは嬉しい。だが彼女に意識されてないことが悲しくなってくる。 こっちに振り向いて欲しい。もちろんそんなの無理に決まってる。 撮影は校内で行った。テーマは学園内の恋人。しかし二人はどうしても照れが入ってしまうようだった。 「照れてちゃいい写真が撮れないだろう?」 そう言っても、よくなるどころか余計に照れていた。 何だかモヤモヤする。胸の奥が軋む。何だか分からないが、無性に腹が立ってきた。守の中で何かがプツンと音を立てた。 「奈美、ちょっといい?」 守が呼ぶと、奈美は守の近くにやって来た。 「本当はずっと言わないでおこうって思ったんだけど」 守はジッと奈美の目を見た。 「俺は・・・・・・奈美のことが好きだ」 言った。言ってしまった。もう取り返しなんてつかない。綺麗なトライアングルを今ぶち壊したのだ。奈美は驚いているのか、言葉が出ないようだった。沈黙を破ったのは修治だった。 「ちょ・・・・・・お前、何言ってんだよ!」 慌てた様子でこちらに向かってくる。 「何って本当のことだよ」 「お前、そんなこと一言も・・・・・・」 修治は動揺していた。当たり前だ。本当の事なんて言える訳なかった。 修治は何かを決心したように唇を噛んだ。そして奈美に向き直る。 「俺も、奈美の事が好きだ」 ようやく告白した。驚いた奈美は、固まっている。 そうして彼女が選んだのは・・・・・・。 「あーあ。降り出しちゃったか」 とうとう降り始めた雨に修治が呟く。 「ここに一本の傘があります」 唐突に守が傘を取り出し、二人に渡す。 「二人は俺の先を歩いて。俺は撮る」 そう言うと納得した修治が傘を広げ、奈美を招き入れる。それでも寄り添わない二人。 何だか憎らしい。本当の恋人になったのに、と守は溜息をついた。 レンズ越しに見える二人の照れた嬉しそうな笑顔。シャッタースピードはゆっくり。 (これくらいの反抗はいいよな) 守はこっそり奈美の隣からピントを外した。 |