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 後悔先立たずとはよく言ったもので、人はよくどうにもならない過去を思い返しては後悔してしまう。しかも場合によっては長期間それで悩んだりする。
 俺の場合もそうだ。
 −'Cause I MISS YOU

 クリスマスを目前に街は浮き足立っていた。どこの店からも流れているクリスマスソングと渋滞でいらつくクラクションが鳴り響く。
 不意にフラッシュバックしたのは、彼女と過ごしたあの日々だった。吹っ切れたと思っていたのに・・・・・・。
 もうあの頃には戻れないことは百も承知なのに、どうして今更思い出すんだろう?
 分かってるんだ。どこにもキミはいないと。
 だけど探してしまう。いつも二人で歩いていた道を通る度、キミと見上げた街路樹やいつもキミが通る改札。残像が現われては消えていく。
 思わず携帯電話を取り出し、彼女の短縮ボタンを押す。通話ボタンを押そうとした親指が動かなくなる。電源ボタンを押し、待ち受け画面に戻る。そこには彼女と撮ったツーショットの写真。いい加減未練がましいと自分でも思う。
 ふとメールボックスを覗く。あれはいつのメールだったんだろう。彼女からの最後のメール。
『別れよう?』
 たったそれだけの文字。あのメールさえも保存し忘れたまま、いつの間にか消えてしまっていた。
「何やってんだ・・・・・・俺」
 思わず呟く。携帯をコートのポケットに押し込み、自宅のアパートへと戻る。

 古いアパートには狭い階段があり、俺の部屋へはこの階段を使って二階へと上らなければならない。カツンカツンと靴音が響く。
 小さな扉を開けると、二人で過ごしたあの頃の残像が目の前に一瞬だけ現われた。
「あ・・・・・・」
 声をかけようとすると、スーっと消えていった。
「重症だな。俺も」
 ペチッと自分の頭を叩く。溜息をつきながら、靴を脱ぎ部屋に入る。
 1Kの狭い部屋にはテレビと小さなテーブルとギターしかない。しかも押入れには布団しか入っていない。物凄くシンプルな部屋。
 俺は冷蔵庫からビールを取り出すが、今日夕飯を食べていないことに気づき、そのままビールを戻す。まずは何かを食べなければと冷蔵庫を物色するが、何もない。冷蔵庫を閉めて部屋の方へ戻る。
 ふと見ると、ポツンと手帳が転がっていた。去年のだ。未だに捨てられないその手帳を手に取り、パラパラとめくる。十一月二十七日に赤いハートが書いてある。彼女が勝手に書き込んだものだった。
『あたしの誕生日なんだから、忘れないでよ』
 そう言った彼女の顔を今でも鮮明に思い出す。新しい手帳を買った途端、彼女につけられた印。指でなぞる。
 その時、カツンカツンと階段を上る足音が聞こえた。俺は思わず振り返り、扉を見た。足音は俺の部屋の前を通り過ぎ、奥の部屋の鍵を開け中へと消えた。
「ハァ・・・・・・」
 期待した俺がバカだった。外からドアを開ける人なんてもういないのに。未だに足音を聞く度に彼女が帰ってくるような気がして、思わず扉に見入ってしまう自分がいる。
「未練がましいな」

 俺はコンビニで何かを買おうともう一度外に出た。ふと気づくと、目の前に彼女の後姿が見えた。
「あ・・・・・・」
 声をかけようとした瞬間、気づいた。彼女に似た別人だった。なぜか動けなくなる。ふと見えたショーウインドウ。いつも彼女と二人で映っていたのに、今はもう一人きり。
 未だに消えない彼女の面影が胸を締め付ける。苦しくて、悲しくて、寂しくて、こみ上げてくる涙を必死で堪える。
 俯いた視界にひらひらと雪が舞い降り、アスファルトに当たって消えた。空を見上げると、たくさんの白い雪の結晶が降り注いでいた。息が白く染まる。
 行き交う人々は一斉に傘を開いた。まるで花が咲くようにたくさんの色の傘が溢れる。
 ボーっと立ち尽くしていると、傘に背中を押された。
「すいません」
 傘の持ち主が一言告げ、俺の前を歩いていく。
「何やってんだ・・・・・・。俺」
 何を探しているんだろう? 見つかる訳なんてないのに。
 何であの時、大事な一言が言えなかったんだろう。もしあの時口にしていれば、今もまだ彼女と過ごせていたかもしれないのに。
『俺の傍にいてくれ』
 言えなかった言葉が胸を締め付ける。

 今年の冬は、いつもにも増して寒いよ。
 キミがいなくて、すごく寂しいから・・・・・・。
 −'Cause I MISS YOU


inspired:'Cause I MISS YOU/中島卓偉

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