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エピローグ
 ある日曜日。新は机の引き出しを開けた。未だに持ってる溶けてしまった飴を取り出す。
 今では元の形すら分からなくなってしまっているその飴玉を右手でぎゅっと包んだ。
「ほんの少しでいい。俺に勇気をください」
 握り締めた手にそう呟くと、新は階段を下り、玄関のドアを開けた。
 今日も気持ちがいいくらいの晴天だ。
「よし」
 新は心を決め、外へ出た。

 向かう先はいつもの土手。今日もまどかが待って居るだろう。
 土手に近づくにつれて、心臓が高鳴る。
(落ち着け。大丈夫だ。落ち着け)
 早鐘のように鳴る心臓に言い聞かせる。右手に握り締めているのはあの飴玉。
 今日こそ告白しよう。
 新はそう決めていた。

 高鳴る心臓を抑えながら、土手に近づく。新の目がまどかの姿を捉えた。体中に緊張が走る。
 新は深呼吸をして、まどかに近づいた。
「お、おはよ」
「おはよ」
 まどかの笑顔が返って来る。新はゆっくりとまどかの隣に腰を下ろした。
「あ・・・・・・のさ」
「ん?」
「俺の話、聞いてもらっていいかな?」
「うん」
 新は回転が鈍くなっている頭をフル回転させて、次の言葉を探した。
「俺、まどかちゃんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
「うん?」
 唇が震えてなかなか言葉が出ない。
「お、俺、まどかちゃんのこと、す、好きだ」
 やっと言えた。まどかの方を見やると、驚いているのか固まっていた。
「まどかちゃん?」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって。あ、あたしも。あたしも好きだよ。新くんのこと」
「・・・・・・ずっと俺の傍に、居てくれる?」
 新の質問にまどかは笑顔になった。
「あたしなんかでよかったら」
 嬉しすぎて言葉が出てこない。にやける自分の顔を、何とか普通に戻した。
「ありがと」
「やっと告白しましたか、先輩」
「うわぁぁあ!!!」
 突然現れた洋二に、新は驚いて後ずさった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」
「お、お前は神出鬼没すぎるんだよ!!!」
 心臓にとっても悪い。告白する前とは違う意味で心臓がバクバク言ってる。
「てかお前、いつからいたんだ!」
「ずっといましたよ? 先輩の後ろに」
「はぁ?」
 あっけらかんと言い放つ洋二に、変な声で聞き返す。
「先輩、全然気づかないからそのまま後つけてきたんですよ。何か妙に緊張してるから告白でもするのかなぁと思って」
「ついてくるなっ!!!!」
 やっぱりこいつはストーカーだ。
「まぁよかったじゃないですか。先輩」
「お前がいなかったらな!」
 怒声で返すが、洋二はちっとも堪えていない様子だ。
「酷いなぁ。言ったでしょ? 『俺はずっと先輩の近くにいます』って」
 言ってた気がする。
「お前、今度ストーカーみたいなことしたらぶっ飛ばすぞ」
「えー? 先輩に殴られたら、まどかさんに言いつけますよ?」
「うっ」
 一番痛いところを突かれ、反応に困る。
 当のまどかはクスクス笑ってるし、洋二も意地悪く笑っていた。
 こいつら、ホントは【手の中の飴玉】なんかじゃなかったんじゃ・・・・・・。
「お前ら笑うなぁ!!」
 新の声が晴れ渡る空にこだました。