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君にはたくさんのものを見せてあげたいんだ。 十二月に入ると街は一層クリスマス一色に染められた。街中、イルミネーションやクリスマスソングが溢れ出し、近づいてくるクリスマスに人々は心を躍らせる。 そしてその街中で背ばかり高い男が一人、頭を抱えてショーウインドウを覗いていた。 「むー。何がいいんだろ・・・・・・」 須藤新。十八歳。初めてできた彼女へのクリスマスプレゼントに頭を悩ませる不良上がりの青年だ。 「せーんぱい」 下の方から声がして、新は嫌な予感が過ぎる。ゆっくりと声のした方を見やった。 「何やってんっすか?」 そこにいたのはなぜか新を慕ってくれる後輩、土谷洋二だった。彼の身長は新より二十センチほど小さい。 「何でもない」 新がプイッと顔を逸らし、歩き始めると、洋二もついてきた。 「またまたぁ。まどかさんへのプレゼントでも考えてたんじゃないんっすかー?」 分かってるなら聞くなよ、と心の中で毒づく。 「お前は何してんだよ」 「俺は普通に買い物っすよ。欲しかったCDの発売日だったんで」 「あ、そ」 CDショップの袋を掲げた洋二を冷たくあしらう。 「冷たいなぁ。先輩、何なら一緒に探しましょうか?」 「え? いいよ、別に」 突然の提案をあっさりと断ったが、洋二は諦めない。 「まぁまぁ、そう言わずに。どうせまだ決まってないんでしょ?」 何でも見透かされている気がして、新は恥ずかしくなった。 「だって・・・・・・女にプレゼントなんて買ったことねーもん・・・・・・」 ふてくされる新が妙にかわいく感じる。半年前までこの辺で名の知れた不良だったとは思えない。 「だから俺がいるんじゃないっすか。一人で考えてたって埒が明きませんよ」 半ば強引に新は洋二に連れ去られた。 「手袋とかどうっすか?」 「うーん。ありきたりじゃね?」 洋二の提案にあっさり返す。もちろん新も手袋など身に着けるものなどは考えた。だけどどうもしっくりこない。 「まどかさんが欲しそうなもの、リサーチしてないんっすか?」 「だってそういう話ならねぇんだもん・・・・・・」 喧嘩はこの辺りじゃ一番強いくせに、恋愛になると疎くなるのは、仕方ないことなのだろうか? 洋二は諦めずに次々と提案していく。 「マフラー」 「うーん」 「時計」 「こないだ新しいの買ってた」 「帽子」 「あんま被らない」 「靴」 「サイズ分からん」 「アクセサリー」 「好み分からん」 「・・・・・・・・・・・・」 ことごとく却下されるので、洋二は頭が痛くなってきた。 「せんぱーい。俺、もうどうしたらいいか分かりませーん」 半泣きで訴えると、新は困ったように笑った。 「どっかで休憩するか」 二人はすぐに目に入った近くのコーヒーショップに入った。 「奢るよ。迷惑かけてるし」 「そんな。俺が勝手に・・・・・・」 新の申し出に洋二が慌てて断るが、新は聞き入れない。 「いいんだって。俺バイトしてるからお前より金持ってるし」 そういう問題なのかどうかは別として、洋二はありがたくコーヒーを奢ってもらうことにした。 飲み物を受け取り、席に着くと、思わず溜息が漏れる。 「それにしても何が欲しいのかが分からないと難しいですねぇ」 洋二はそう言いながらカフェラテに口をつけた。 「だなぁ・・・・・・」 新も困った表情をしながら、ホットコーヒーを一口飲む。 「何かないんですか? 心当たりみたいなの」 「うーん。何かあったかなぁ・・・・・・」 新は必死に彼女との会話を思い出してみた。 彼女である三浦まどかは目が見えない。そのためプレゼントも少し幅が狭くなる。物を買うにしても好みがイマイチ分からない。 「じゃあ、好きなこととか物とか」 必死に考える新に洋二が付け足した。その言葉に彼女との会話を思い出す。 「あ、音楽は好きって言ってた」 「音楽かぁ。幅ありますよねぇ・・・・・・」 洋二は唸った。良い線だと思いつつも、だからといってプレゼントが思い浮かぶ訳ではない。 「先輩、曲とか作れないですよねぇ」 確認するように訊ねられ、新は苦笑した。 「楽器弾けないしな」 こういう時、何か習い事しておけばよかったと思う。 「となるとCDを贈るとか? でもたくさんジャンルありますもんねぇ。何が好きなんだろう? クラシック、オルゴール、J-POP、ロック・・・・・・」 洋二の呟きに新はピンッときた。 「それだっ!!」 「え?」 新は勢いよく立ち上がると、店を出て行った。慌てて洋二も立ち上がる。 「あ、待ってくださいよ。せんぱーい!」 その頃、まどかは姉の舞子に付き添われ、新へのプレゼントを購入していた。 「よかったね。いいのがあって」 「うん。ありがとう。お姉ちゃん」 まどかはプレゼントの入った袋を大事そうに抱えた。 「喜んでくれるかな?」 不安な気持ちが思わず声に出てしまう。すると舞子は優しく肩を叩いた。 「絶対喜んでくれるって」 「だといいな」 それからあっという間に時は過ぎ、待ちに待ったクリスマス・イヴになった。 その日の夕方に新とまどかはいつも会う土手で待ち合わせている。 しかし約束の時間はとっくに過ぎているのに、新はまだ来ておらず、まどかは待ちぼうけを食らっていた。 「遅いなぁ・・・・・・」 新が時間に遅れるなんて珍しい。いつも先に来て待っていてくれるのに・・・・・・。 「まさかまた喧嘩に巻き込まれたとか……?」 嫌な予感が過ぎる。不良をやめたとは言え、未だに突っかかって来る輩はたくさんいるのだ。 「・・・・・・まさかね」 まどかは頭を振った。そんな悪いことばかり考えていては、ダメだ。 するとその時、慌てて走ってくる足音が聞こえた。新の足音だとすぐに気づく。 「ごめん! 遅くなって」 声の調子はいつもと同じだ。だけど目が見えない分、不安は拭いきれない。 「ううん。それはいいんだけど、まさか喧嘩に巻き込まれたとかじゃないよね?」 突然、突拍子もない質問をされ、新は一瞬固まった。 「新くん?」 反応が返ってこないので、まどかが不安になる。 「違うよ。ごめん。心配させたね」 新はまどかの頭をポンポンと優しく叩いた。 新は心配してくれたのが妙に嬉しくて、思わず顔がニヤケる。不謹慎だとは思うが、嬉しい気持ちは抑えられない。 「それならいいけど・・・・・・」 ようやくまどかはホッと胸を撫で下ろした。ニヤケた顔をどうにか押さえ、新は口を開く。 「実はさ、連れて行きたいとこがあって・・・・・・」 「どこ?」 新の言葉にまどかは顔を上げた。 「行けば分かるよ。行こう」 新はまどかの手を自分の腕に絡ませ、まどかの歩調に合わせてゆっくり歩き始めた。 「着いたよ」 新がドアを開け、まどかを中に誘導する。 ざわついた店内。音だけではここがどこかは分からない。 「ここは?」 「ライブハウス、って言ったら聞こえがいいかな?」 「ライブハウス? 初めて来た」 まどかは初めて訪れる空間に、緊張しつつも嬉しそうに顔を綻ばせた。 「実は俺のバイト先」 「そうなの? ここでバイトしてるんだ」 バイトをしているのは知っていたが、まさかバイト先に連れて来てもらえるとは思わなかった。まどかは何だか妙に嬉しくなった。 「今日連れて来たのはさ、俺のツレが今日ライブするんだけど、チケット買わされちゃって・・・・・・」 「なるほどね」 新が苦笑しながら説明すると、まどかは納得した。 「もし嫌なら帰っても・・・・・・」 「ううん。嫌じゃないよ」 新はまどかの笑顔にホッとする。 「ライブって初めて」 「あ、でもまどかには辛いかも?」 新は今更ながらに思い出した。まどかの聴力は健常者よりもかなりいいのだ。 「どうして?」 「まどか、耳いいだろ? ここの爆音聞いたら潰れるかも・・・・・・」 その言い方にまどかは驚いた。 「そんなすごい音なの?」 「うん。音の振動が伝わってくるくらい」 「それはそれで楽しみだけどな」 話すほど楽しみにするまどかを見て、新は止めるのをやめた。 「じゃあ気分悪くなったりしたらすぐ言えよ?」 「うん」 まどかは笑顔で頷いた。 「どうだった?」 ライブが終わると、二人は外に出た。 「すごく楽しかったよ。音が体中に響いてきて、気持ちよかった」 「それはよかった」 本当に楽しそうに話すまどかに新は安心した。 「あたし、音を聞いてると安心するんだ」 「安心?」 聞き返され、頷く。 「目が見えない分、音や匂いや空気で周りを判断したりしてるんだけど、音が一番分かりやすいじゃない? だから無音になると、時々不安になるの」 「だからいつも音楽かけてるんだ」 そんな話を聞いたことがある。自分の部屋にいるときは、大きな音ではないが、音楽をかけていると。それは不安をかき消すためなんだと、今改めて気づいた。 まどかは新の言葉に頷く。 「あそこでバイトしてるんだよね?」 「うん」 「いいなぁ」 「え?」 思わぬまどかの言葉に新は驚いた。 「音を感じられる世界にいられるってすごく羨ましい」 「そ、かな」 「うん」 まどかの抱えている不安は、きっとすべては分かってあげられない。自分の無力さを改めて突きつけられたようで、胸が苦しくなる。 そんなことを感じさせないように、新は話題を変えることにした。 「あ、そうそう。メシなんだけどさ」 「うん?」 「俺ん家来ない?」 「え?」 思ってもみない提案にまどかは驚いた。 「実はメシ作ってて遅くなったんだよね」 「そうなの? なんか意外・・・・・・」 「料理は意外と得意デスヨ?」 まどかの言葉に新は自信を持って言った。 「そっか。主夫してるもんね」 「おう」 新の母は五歳の時に出て行った。今では家事のほとんどを新がやっている。 「でもお父さんがいるんじゃないの?」 「いや、親父は飲み会。今日は帰ってこないよ。って・・・・・・嫌だった?」 今更ながら、家に呼ぶことの重大性に気づく。もしかして不安を抱かせてしまっただろうか? そんな後悔をこっそりしていると、まどかは笑顔で返した。 「ううん。新くんの手料理、食べてみたい」 まどかの言葉にホッと胸を撫で下ろし、新は口を開く。 「じゃあ行こうか」 二人は腕を組み直し、新の家に向かった。 家に着くと、新はまどかをダイニングの椅子に座らせた。 「すごくいい匂いがする」 「マジで?」 まどかの言葉に新は何だか嬉しくなる。作り置きしておいた料理を温め直すと、香りが部屋に充満する。 「匂いだけでおいしそうって言うのが分かるね」 まどかは楽しそうにそう言った。その言葉だけで、新は本当に嬉しい。 「そう言ってもらえると嬉しいよ」 新は料理をテーブルに並べた。 「本当は鶏料理にしようと思ってたんだけどさ、手が汚れると思ってハンバーグにしたんだ」 まどかの目の前に新特製のハンバーグが置かれる。さっき何かを焼いていたのは、ハンバーグだったのだと気づく。焼きたてのいい香りが漂ってくる。 準備が整うと、二人は「いただきます」と合掌した。 まどかは早速ハンバーグに箸を入れ、口に運ぶ。 「じゃあ、早速」 「どうぞ」 口の中に入れると、デミグラスソースの香りが鼻を抜けた。家で食べるハンバーグ、というよりもお店で食べているような錯覚をする。 「おいしい!」 「よかった」 まどかの反応に新はホッと胸を撫で下ろした。 「そう言えば、進路決まったの?」 突然まどかに質問され、新は返答に困った。 「実は・・・・・・迷ってて」 「迷う?」 聞き返されて、頷く。 「普通に就職するってのもアリだとは思うけど、もっと自分を試したいって言うか・・・・・・」 うまく言葉にならない。それでもまどかは言葉の奥を汲み取る。 「進みたい道でもあるの?」 「まだ迷ってるんだ。ちゃんと決まったら話すよ」 「うん」 まどかは頷いた。本当は話して欲しい。だけど彼なりに結論を出そうとしているのだから、余計なことは言わないようにしようと誓う。 「ねぇ、新くん。あたしじゃ力不足かもしれないけど、相談くらいは乗るからね」 まどかの優しい一言に新は嬉しくなった。 「うん。ありがとう」 食事が終わると、二人はリビングのソファに移動した。 まどかは鞄から包装されたプレゼントを取り出すと、新に渡す。 「気に入ってもらえるか分かんないけど・・・・・・」 「ありがと。俺からも・・・・・・はい」 新はまどかからプレゼントを受け取ると、自分もプレゼントをまどかに手渡した。 新は早速プレゼントの包みに手をかける。 「開けてもいい?」 「どうぞ」 まず新がまどかからもらった物を開けた。出て来たのは薄いベージュのマフラーだった。取り出してみると、手触りが気持ちよくとても暖かそうだった。 「お、暖かそうなマフラーだな」 「オーソドックスになっちゃったけど、暖かそうだったから。お姉ちゃんも『新くんに似合うと思う』って言ってくれたし」 「うん。ありがとう。嬉しいよ」 マフラーを早速巻いてみる。一瞬にして首元が暖かくなる。ふと見るとまだ何かが入っていた。 「お、手袋だ」 「マフラーとおそろいなの」 「ホントだ」 取り出してみると、マフラーと同じ生地だった。これも早速つけてみる。 「あったけー」 「よかった」 新の嬉しそうな声を聞き、まどかも嬉しそうに笑った。 「あたしも開けていい?」 「もちろん」 まどかは受け取った箱を開けてみた。触れた面に何かの模様が入っているのが分かる。 「これは?」 まどかに聞かれ、新は箱から更に箱を取り出し、まどかに持たせた。 「これ、開けてみて」 まどかの右手を箱の蓋に乗せる。まどかはゆっくりと開けてみた。 「わ・・・・・・。オルゴールだ」 溢れ出した音がまどかの手の中で響き渡る。 「何がいいか分かんなくてさ。音楽好きだって言ってたろ? でもCDとかだと好み分かんないし、持ってるかもしれないから。オルゴールならいいかなぁって・・・・・・」 「ありがとう。嬉しい」 まどかの嬉しそうな表情を見て、新も嬉しくなった。 「実はさ・・・・・・それ、作ったんだ」 「え? オルゴールを? 新くんが?」 「うん」 さすがに恥ずかしくなり、小さく返事した。 「オルゴールの箱だけだけど・・・・・・」 「そうなんだ」 まどかは愛おしむようにオルゴールの箱を撫でた。普通のオルゴールより彫りが深いと思ったのは、まどかが指先で感じられるように新が作ってくれたのだろう。 そして再びオルゴールを開けた。 「ねぇ、この曲って・・・・・・」 聞き覚えがあるが、思い出せない。すると新が教えてくれた。 「『愛の賛歌』」 「あー、フランスの・・・・・・」 「そう。メロディも綺麗なんだけどさ、歌詞もいいなぁって思って・・・・・・」 新は照れたようにそう言った。 「どんな歌詞?」 まどかが聞くと、新の顔が赤く染まった。しかし赤くなったことはまどかには分からない。 「恥ずかしいから内緒」 「何それー」 新の返事にまどかはクスクスと笑った。 「・・・・・・箱の中」 新が呟く。言われた通り、まどかが箱の中に手を入れてみると、指に何かが当たった。取り出してみると、何かのメモのようだった。指先で触ると、そこに点字で何かが書いてあるのが分かる。 「点字?」 まどかは驚きつつも指先でそれを読み始めた。 それと同時に新は赤くなった頬を左手で抑える。 「素敵な歌詞だね。・・・・・・これ、新くんが書いてくれたの?」 「うん。・・・・・・合ってるか不安だけど・・・・・・本見ながら書いたから間違ってないと思う」 「うん。おかしいとこなかったよ」 まどかは嬉しそうに笑った。ようやく新がホッと胸を撫で下ろした。 「最高のクリスマスだね」 「そうだな」 まどかは恥ずかしそうに新の肩に寄りかかる。新は一瞬ドキッとしたが、ゆっくりと手をまどかの肩に置いた。 ドキドキと心臓がうるさいが、伝わってくる体温が心地よい。 ふと見えた窓の外では、しんしんと白い雪が降り注いでいた。 「って先輩・・・・・・?」 「ん?」 静かに話を聞いていた洋二は顔を上げた。 「その後は?」 「その後?」 洋二に聞かれ、新はもう一度思い返す。 「あ、そうそう」 何かを思い出した新に洋二が期待をした。 「門限前に送って行く時、すごい雪降っててさー。早速まどかにもらったマフラーと手袋をしてったんだ。まどかも喜んでくれて。めちゃくちゃ暖かかった」 嬉しそうに話す新とは反対に洋二は脱力した。 「あれ? どうした?」 「うん、まぁ先輩らしいっちゃらしいですよ。純愛って感じで・・・・・・」 なにやら洋二がブツブツ呟いている。 「何だよ?」 新が言うと、洋二が珍しく睨んだ。 「先輩も男ですよねぇ?!」 急に大声で確認する洋二に、驚きながら頷く。 「お、おう」 「まどかさんを家にまで呼んどいて何もなしですかっ!?」 その言葉に、考えていた事を思い出した。 「何も・・・・・・ないことはない」 「へ?」 思わぬ台詞に洋二は再び力が抜ける。 「あるなら言ってくださいよ。もったいぶらないで」 洋二は今度こそ期待した。 「夢ができた」 「夢?」 期待とは全然違う台詞に洋二は眉をひそめる。新は頷いて、言葉を続けた。 「そう、夢。俺、将来ライブハウスみたいなとこやりたい」 「ライブハウス?」 思ってもみない言葉に驚きながら聞き返すと、新が頷く。 「そう。ライブハウスじゃなくてもいいんだけど。一日中音楽が流れてるような店」 「音楽?」 まったく意味が分からず、洋二はただ新の言葉を繰り返した。 「俺、楽器とか弾けねぇし、今から練習したってプロみたくなるとは限らないし。でもライブハウスなら毎日音楽が流れてるじゃん」 「あー、まぁそうですけど・・・・・・。でも何で?」 突然の展開に洋二は必死についていこうと質問を返す。 「まどかがさ、無音になると不安になるんだって。だから俺は無音を作らないようにしてあげたいって・・・・・・」 そう話す新の顔が段々と赤く染まった。意図を読み取れた洋二はニヤっと笑った。 「いいっすね。じゃあ先輩がお店持ったら、俺働かせてくださいよ」 「コキ使うぞ」 「望むところです」 新の意地悪を笑顔で交わす。 「あ、そう言えば、今日バイトじゃなかったんっすか?」 「あ、そうだった。わりぃな」 新はそう言って立ち上がり、伝票を取ろうとした。そこに洋二が割り込む。 「今日は俺が奢ります」 「え?」 思わぬ言葉に新は思わず聞き返した。 「実は俺もバイト始めたんっすよ。それに先輩、店持つなら今から金溜めとかなきゃ」 洋二はそう言いながら新から伝票を奪う。新は驚いていたが、すぐに笑顔になった。 「そうだな。じゃ、ゴチんなります」 素直にお礼を言って新は店を後にした。 洋二はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。喧嘩ばかりしていたあの頃とは全然違う、楽しそうな後ろ姿。 「いいなぁ。俺も先輩みたいな恋したいな・・・・・・」 「げ。雪降ってきた」 店を出た新はまどかにもらったマフラーを首に巻きつけ、手袋をはめた。傘なんて持っていないので、少し走ることにする。 何だかいつもに増して足が軽い。 見つけた夢は、少し大変かもしれない。 だけど君の笑顔があるからきっと大丈夫。 君に街中に溢れるイルミネーションや白い雪を見せることはできないけど、音なら作り出せる気がするんだ。 いつか君にプレゼントしよう。 君を包むメロディを・・・・・・。 |