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novela 【歌】エントリー作品−

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 諏訪幸介、十八歳。季節は夏を迎えようとしている。彼は人生の岐路に立たされていた。
 幸介は高校に入ってから、友人たちと一緒にバンドを組んでいる。幸介のパートはドラム。しかし高校三年生の今、卒業後の進路を決めなければならず、そのためにはバンドを辞めなければいけないかもしれなかった。バンド内で幸介と同い年は二人いる。ボーカルの樋口誠人とメインギターの川原圭吾。圭吾はともかく、誠人がちゃんと将来を考えているのか不安になる。
 なぜこんな心配を幸介がしなければならないのか。それは他でもない。幸介の想い人、西条愛久美の彼氏だからだ。
 愛久美に初めて会ったのは中学校の入学式だった。同い年とは思えぬほどの綺麗な彼女に、一目惚れした。同じクラスになれただけで、すごく嬉しかった。そして誠人とも同じクラスだった。次第に誠人と仲良くなった幸介は、誠人の幼馴染だった愛久美とも仲良くなれた。そこまでは良かった。しばらく愛久美を見ているうちに、彼女が誠人を好きだということに気づいてしまった。
 お互い動こうとしない愛久美と誠人を付き合わせたのは、他ならぬ幸介だった。こうなった以上、気持ちは打ち明けまいと決意し、彼女とは別の高校へ進学した。高校で出会った圭吾と意気投合し、バンドを結成。その後、後輩二人を巻き込んで、更に圭吾に歌唱力を買われた誠人が加わり、現在に至る。
 そのバンドも今年で終わりかもしれない。唯一の救いは、よく練習に顔を出していた愛久美と、もう会わなくてもいいことかもしれない。必死に抑えていた感情は、ちょっとしたことで爆発寸前だった。普段は抑えられても、愛久美を一目見るだけで胸が締め付けられた。そんな時、幸介はいつも音楽に感情をぶつけていた。ドラムを叩いている時だけは、無心になれた。
 本音は音楽を続けたい。だけど将来はどうなるか分からない。
 夢を追いかけること、やめること、どっちが勇気なんだろう?

「幸介。俺さ・・・・・・」
 スタジオ練習の日。先にスタジオに入っていた幸介は、同じように早く来ていた圭吾に話し掛けられた。
「うん? 何?」
「次のライブで、やめるかも」
 圭吾の言葉に、特に驚かなかった。逆に同じことを考えているのだと妙に安心した。
「うん、俺も。今度のライブで、もし全く見込みがないなら、やめようと思ってる」
「そっか。考えることは一緒なんだな」
 圭吾の言葉に苦笑する。
「そういや、誠人はどうするのか、聞いてる?」
 幸介の問いに圭吾は首を振った。
「いや。あいつのことだから、何も考えてないだろうな」
「うん」
 やっぱり、と溜息が漏れる。
「でももし二人抜けたとしたら、キツイだろうね」
「そうだな。まぁ智広や淳史はまだ高一だし、どっかで拾ってくれるだろ」
「そだね」
 誠人の心配を一切しない辺り、圭吾らしいと思った。圭吾は『あれは放置してても大丈夫』という訳の分からない信念を持っている。まぁ、確かに誠人は放置していてものらりくらりと何とか生きてそうなヤツだ。
 ただ気がかりなのは、愛久美のことだ。誠人は将来をちゃんと考えているのだろうか? もしあいつが『何とかなるなる♪』なんて言おうものなら、堪忍袋の緒が切れそうで、自分でも怖い。
「ちぃーす」
 スタジオに顔を出したのは、後輩でベース担当の志摩智広とセカンドギターの紺野淳史だった。
「お、来たな」
「誠人はまた遅刻か」
 圭吾が溜息を漏らす。いつものことなのであまり気にしないことにする。
「ちょっと早いけど、二人には言っておこうか」
 圭吾がそう言いながら、幸介を見た。
「そうだな」
「何々?」
 二人が興味津々で身を乗り出してくる。
「俺ら、次のライブでバンドやめるかもしれん」
 はっきりと言い放った圭吾の言葉に、二人が絶句する。
「え? 何で?」
「もう高三だし、将来のことちゃんと考えたら、そういう結論になったんだ」
 幸介が説明すると、二人は困った表情を浮かべた。
「えー・・・・・・。二人も抜けたらどうしたらいいんだよ」
 淳史が力なく呟く。
「誠人は? 誠人もやめんの?」
 智広の問いに、圭吾と幸介は顔を見合わせた。そして首を振る。
「それは知らん」
「俺たちも誠人のことは、何も聞いてないんだよ」
 冷たく言い放った圭吾の言葉に幸介が付け足す。
「そっか」
「二人は俺らが他のバンドに拾ってもらえるようにするからさ」
 肩を落とす智広に圭吾がフォローする。
「いや、それは別にいいんだけどさ。次のライブで、最後かもしれないってことなんだよな?」
 智広の問いに幸介と圭吾が同時に頷く。
「でもさ、やめるかもしれないってことは、続けるかもしれないってことだよな?」
 淳史は何かの望みをかけるように言った。
「そりゃな。でも正直難しいかも」
「俺たちだってやめたくないよ」
 圭吾と幸介の言葉に、二人は何も言えなくなる。
 そのしんみりとした空気が流れているところに能天気な男が入って来た。
「ちゃーっす」
 勢いよく入ってきた誠人は、その空気に何となく気づいたらしい。
「あれ? どったの? 皆」
 何だろう。説明するのがとっても面倒くさく感じる。この男ののほほんとした空気を誰かどうにかして欲しい。
 皆が脱力感に襲われているので、幸介が代表してさっきの話をする。
「えええええええええ!」
 話を聞いた誠人はその声量で、スタジオ中に響く叫び声をあげた。全員耳鳴りに襲われる。
「てっめ・・・・・・。ボリュームくらい調節しろや!」
 圭吾の逆鱗に触れ、誠人は吊るし上げられそうになるのを、他の三人で必死で止める。
「圭吾! 抑えろ! こいつはバカだから相手しちゃダメ!」
 その言葉にようやく冷静さを取り戻す。一方『バカ』と思い切り言われた誠人は、自覚しているからか、慣れているからか、特に反論はしてこない。
「二人抜けちゃったらどうしたらいいんだよぉ」
 弱音を吐く誠人に淳史が質問する。
「ねぇ。誠人はどうすんの?」
 幸介が聞きたかったことを代わりに聞いてくれたので、耳を傾けた。
「俺? 俺は続けるよ?」
「え・・・・・・? 進学とか?」
 意外な答えに思わず聞いてしまう。すると誠人はヘラッと笑った。
「んー。まだ何も考えてないし」
「「考えろぉー!」」
 幸介は思わず圭吾とハモって怒鳴ってしまった。幸介が怒鳴ることがあまりないので、全員が驚く。
「珍し・・・・・・。幸介が怒鳴るなんて」
 智広が物珍しい目で見てくる。でももうそんなのお構いなしだ。
「何怒ってんだよぉ。何とかなるって♪」
 誠人のおちゃらけた態度に、ブチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。一度ぶち切れた幸介は自分でも止まらなくなっていた。
「将来のこと何も考えてないってどういうことだよ! 大体お前はいっつも能天気過ぎるんだよ! お前のヘラヘラした態度にどれだけ俺らが迷惑してると思ってんだ!」
 誠人は初めて幸介に怒鳴られ、呆然としていた。
「お前だけならいいよ。でも愛久美のことはちゃんと考えろよ」
「は? メグ? 何でそこにメグが出てくるんだよ」
 突然彼女の名前を出され、誠人もキレかける。
「え? もしかして幸介・・・・・・メグちゃんのこと・・・・・・」
 智広の言葉に反論できず、今まで抑えていた感情を一気に爆発させた。
「あぁ。好きだよ! 初めて会った時から!」
 思わぬカミングアウトに一同呆然となる。居たたまれなくなった幸介は思わずスタジオを飛び出してしまった。
「まさか・・・・・・嘘だろ」
 誠人が呟く。思ってもみなかった。幸介が愛久美のことを好きだったなんて。
「やっぱり気づいてなかったのか」
 圭吾の冷静な言葉に我に返る。
「え? 圭吾、知ってたの?」
 淳史の言葉に頷く。
「見てたら分かるだろ」
 あっさり言われるが、他の三人は気づいていなかった。圭吾は溜息を吐きながら、口を開いた。
「幸介はずっと愛久美への気持ちを抑えてた。お前らをくっつけたから余計言えないと思ってたんだろうな。あいつは一生口に出すつもりはなかったんだよ」
 誠人は知らされる事実についていけなくなっていた。
「だけどお前があまりにもフラフラしてるから、愛久美のことが心配になった。お前が将来を考えてるなら、それであいつも納得したんだろうけど。お前は案の定『何とかなる』なんて言ったから、今度こそ堪忍袋の緒が切れたってとこだろう」
 冷静に分析する圭吾の言葉は、誠人の心に突き刺さった。
「普段温厚なヤツがキレると怖いね」
 智広が震える。
「幸介はちゃんと将来を考えてる。だからこの夏に賭けてるんだ。もし見込みがないなら、すっぱり諦めようと覚悟してる。バンドを辞める利点は、誠人と愛久美に会わなくてもよくなることだな」
 圭吾はそう言って誠人を見た。呆然としている。それは他の二人も同じだった。

 スタジオを飛び出した幸介はボーと歩いていた。
「あれ? 幸くん?」
 その声に顔を上げると、目の前に友人バンドのボーカルの黒川奈月が立っていた。
「どしたん? 練習は?」
 答えられないで居ると、奈月が首を傾げる。
「何かあったん?」
 幸介は仕方なく奈月に話すことにした。かいつまんで事情を説明する。
「で? メグちゃんを好きやってカミングアウトでもしたん?」
 奈月の問いに驚く。そんなこと一言も言っていない。
「な・・・・・・何で・・・・・・」
「やっぱりなぁ」
「な、何で知ってんの?」
 幸介は驚きが隠せなかった。
「女の勘かな?」
 そう言って奈月が笑う。
「勘・・・・・・」
「見とったら分かるよ。ずっとメグちゃんのこと見てるやん」
 あっさり言われ、幸介は動揺した。
「マコちゃんは気づいてへんみたいやけど、メグちゃんは気づいてるんちゃうかな?」
 思いもよらぬ言葉に、更に驚いた。
「なぁ、幸くん。告白したら?」
「へ?」
「もうマコちゃんに言うたんやろ? それやったらもう自分の気持ち、押し殺さんでもええんちゃう?」
「でも・・・・・・」
 奈月の言葉に気持ちが揺らぐ。今まで我慢して来たものが、さっきのですべて壊れたのだ。これ以上、何が壊れるだろう?
「もう十分やん。ずっと我慢してきて、まだ我慢するん?」
 何故か奈月が泣き出しそうだった。
「そんなんやったら、前には進めへんよ。分かってるんやろ? この恋に決着つけなあかんことぐらい」
「分かってるよ・・・・・・。でもできない」
「何で?」
 理解できないと言う表情で奈月が質問する。
「愛久美を・・・・・・困らせたくない」
「そんなん・・・・・・。今のままでも十分苦しめとるよ」
「え?」
 奈月の言葉が理解できず、幸介は首を傾げた。
「言うたやろ? メグちゃんは気づいてんねん。やけど、幸くんが言わへんから、メグちゃんからは言えへん。お互いの関係を壊したくないから。でも・・・・・・ちゃうやろ? ちゃんと話して、ちゃんと伝えな、後悔するだけやで」
 幸介は少し考え、口を開いた。
「奈月、愛久美の居場所知ってる?」

 スタジオで幸介の思いを知った三人は頭が真っ白になっていた。
 そこにカチャッと誰かがドアを開ける音がした。一斉にそっちを見る。
「奈月」
 入ってきた人物を認め、智広が呟く。
「やっぱ皆ここやったんや」
 そう言って入ってきた奈月は、何かを知っているようだった。誠人を見つけ、口を開く。
「幸くん、告白しに行ったで」
「え?」
 また頭が真っ白になる。
「うちがしてこいって言うたから」
「余計な事を・・・・・・」
 智広が呟くと、奈月がキッと睨み付ける。
「余計な事? うちは余計な事したとは思ってへんよ」
「こじらせてどうすんだよ」
 智広が頭を抱えるが、奈月は反論した。
「じゃあこれ以上幸くんに我慢しろって言うん? そんな酷な事できんよ」
 奈月は誠人を見直した。
「ずっとずっと幸くんは我慢しとった。メグちゃんのこと以上にマコちゃんのことも大切やと思ってたから、きっと傷つけたくなかったんや。けどこれ以上我慢しとったら、幸くんの心が壊れてしまう。やからうちは告白せぇって言うたんや。何か間違っとる?」
 そう言われれば、何も言い返せない。
「奈月は・・・・・・知ってたの? 幸介のこと」
 思わず智広が問うと、奈月は頷いた。
「気づいとったよ。二人と初めて会った時から・・・・・・。幸くん、ずっとメグちゃんのこと見てたから、好きなんかなぁって。でもメグちゃんにはマコちゃんがおったから、きっとずっと言わんのやろうなって」
「そっか・・・・・・」
 メンバーだった自分よりも奈月の方がよく見ていたことがショックだった。
「圭吾は? いつから気づいてた?」
 淳史が話を圭吾に振る。
「俺も愛久美に会った時かな。誠人と一緒に居る愛久美を愛しそうに見てるから、何となく。でも俺は本人の口からも聞いたけどな」
「何て・・・・・・言ってた?」
 力なく誠人が問う。
「二人には絶対に言わないでくれって。いつかちゃんと気持ちにケリつけるから、二人には気づかれたくないって」
 気づかなかった。幸介はいつも明るくて、優しく笑いかけてくれていたから、ちっともそんなことに気づかなかった。誠人は両手で顔を覆った。
「どっちを選ぶかは、メグちゃんやけど、きっとマコちゃんを選ぶと思う」
 奈月の言葉に誠人は顔を上げる。
「メグちゃんは幸くんの気持ちに気づいてて、気づかんフリしてた。それは、マコちゃんとの関係を終わらせたくないからやろ?」
「メグも気づいてたのか?」
 誠人の問いに、奈月は頷いた。知らなかったのは自分だけのようだ。
「そんな・・・・・・俺バカみたいじゃん・・・・・・。幸介の気持ちに全然気づかなかったなんて」
「でもそれが幸介にとって救いだったのかもよ?」
 圭吾は呟くように言った。
「このまま気づかれん事を、あいつは願ってた。けど、我慢も限界が来てたから無理だったみたいだな」
 圭吾はそう言いながら、隠してあった楽譜を見せた。
「楽譜?」
「幸介が書いた曲だ。裏見てみろ」
 その言葉に楽譜を裏返してみる。そこには幸介の字で、歌詞が殴り書きしてあった。
『秘めた想い 伝えられずに
 過ぎようとしている季節
 こんなにも深く 君を想う
 僕の声は届かぬまま

 過ぎる季節は呆気なく
 君への想いを募らせる
 許されぬ恋 秘めたまま
 終幕が訪れる

 数え切れぬほどの 君との思い出
 もうすぐやって来る 別れの季節

 伝えられない想い 消えることはなく
 言葉にできない もどかしい気持ち
 離れ離れになれば 想いは消えるのかな
 見上げた空に 涙を堪えた』
 詞を読んだ誠人は、力なく座り込んだ。綴られている幸介の想いの重さに、なす術をなくしていた。
「マコちゃん。これでもまだ『何とかなる』なんて言える?」
 奈月の問いに、首を横に振る。
 誠人から楽譜を奪い、詞を読んだ智広は、スタジオを飛び出した。その後を淳史が追おうとする。
「誠人も来い!」
 そう言いながら、誠人の腕を掴んで、引っ張っていく。
 残された奈月と圭吾は、安堵の溜息を吐いた。
「ったく、手がかかる」
「圭くんも大変やなぁ」
 奈月に言われ、思わず苦笑する。
「ほんとにな」
「でも、あのメンバーやから、優しい歌が書けるんやんね」
 そう言って微笑む奈月に、圭吾は笑みを漏らした。
「そうかもな」

 その頃幸介は、愛久美の学校前に来ていた。女子高の前で待つのは、今後はしたくないなと思いながら、愛久美が来るのを待っていた。
「幸介?」
 思わぬ人が待っていたので、愛久美は驚いた。
「どうしたの? 今日練習じゃ・・・・・・?」
「愛久美、ちょっといい?」
 真面目な幸介の目に、愛久美は頷いた。

 二人は近くの喫茶店に移動することにした。注文したアイスコーヒーを一口飲んで、意を決する。
「もう気づいてるとは思うけど。俺・・・・・・愛久美のことずっと好きだった」
 突然の告白に驚いたものの、動揺した様子はない。
「うん。自惚れかもしれないけど、そうじゃないかなとは思ってた。・・・・・・でもどうしたの? 突然。言わないつもりだったんじゃなかったの?」
 そこまでお見通しだったのかと驚く。幸介は告白するまでに至った経緯を話した。
「そっか。やっぱり誠人はそんなこと言ってたんだ」
 予想してた通りだと愛久美が笑う。
「愛久美、俺には全く分はないのかな?」
 愛久美は幸介の顔をしっかりと見据えた。
「ごめんね。あたし、あのバカがどうしようもなく好きみたい」
「そっか」
 はっきりきっぱり言ってくれたおかげで、すっきりした。
「誠人よりも先に幸介に会ってたら、幸介を好きになってたかもね」
 お世辞だとしても、十分嬉しい。
「ありがと」
「こんなあたしを好きでいてくれてありがとう」
 愛久美は改まって頭を下げた。
「ううん。話聞いてくれてありがとう」
 幸介も頭を下げた。俯いたまま、お願いをする。
「これからも友達で居てくれる?」
「もちろんよ」
 すぐに返ってきた答えに、幸介は笑みを零した。
「ライブも見に行くからね。がんばって」
「おう」
「あたし・・・・・・幸介の曲が一番好きだよ。優しくて暖かくて」
 その言葉に嬉しくなる。
「彼氏は褒めてやんねーのかよ」
「いいのよ。バカだし」
 『バカ』という一言で片付けられるのも少し可哀相だが、思わず笑ってしまう。
「さて。俺もう行くわ。練習しなきゃ」
「うん。がんばって」
「ありがとう」

 会計を済ませ、店を出た幸介は、晴れ渡る夏空に溜息を漏らした。
「やっぱちょっと切ないなぁ」
「幸介!」
 名前を呼ばれ、辺りを見回すと、智広と淳史が誠人を引っ張ってきているのが見えた。
「どうしたんだよ」
「メグちゃんには告ったの?」
 淳史の問いに、コクンと頷く。
「あっさり振られたけどな」
 エヘヘと笑う幸介に誠人は胸が痛んだ。
「幸介・・・・・・ごめんな」
「何で誠人が謝るんだよ」
「だって・・・・・・俺・・・・・・幸介のこと知らない間に傷つけてた・・・・・・」
「そんなこと、もういいよ。つーか俺が黙ってたんだし」
 幸介は誠人の肩をポンと叩いた。
「でも、お前がしっかりしないなら、その時は俺が愛久美もらってくからな」
 その言葉に、誠人は苦笑した。
「心しとく」
「じゃあ、さっさと愛久美んとこ行けよ。まだ中居るから」
 幸介の言葉に頷くと、誠人は店の中に入って行った。
「幸介・・・・・・」
 智広が声をかけると、いつものように笑った。
「見込みないって分かってたからさ。はっきり言われてすっきりしたよ」
「何・・・・・・笑ってんだよ。辛い時は泣けばいいっていっつもお前言ってんじゃんよ」
 智広の方が泣きたくなる。その言葉に幸介はずっと堪えていた涙が溢れた。智広と淳史は、やっと流した幸介の涙を静かに受け止めた。

 それから誠人は反省したのか、少しずつ変わり始めた。口癖は相変わらず『何とかなるなる♪』だったが、前よりは周りのことを考えるようになった。
 一方、吹っ切れた幸介は今まで以上に音楽に打ち込むようになっていた。

「コンテスト?」
 圭吾が持って来たチラシを見て、全員が顔を見合わせた。
「ライブもいいけどさ、力を試してみたいって思って」
「うん。俺もやってみたいかも」
 圭吾の言葉に幸介が賛同する。
「これでダメならすっぱり諦めつくし」
 付け足すように言うと、圭吾が頷いた。
「皆はどう?」
「いいね。面白そう」
「うんうん。やってみたい」
「一か八かやってみる価値はあるな」
 皆が乗り気になり、楽曲をどうするか決めることにした。
「俺は、コレで行きたいと思ってる」
 そう言って圭吾が出した楽譜は、幸介が書いたあの曲だった。
「え? あれ? 何で圭吾が持ってるんだよ。これ・・・・・・捨てたはずなのに」
 幸介が焦る。
「捨てたくなるような曲を書くな」
 圭吾が厳しい一言を発する。スタジオのゴミ箱に捨ててあったのを、圭吾が拾ったのだった。
「それにコレは捨てるのは勿体無いよ」
 そう言ったのは、誠人だった。
「これって一番しかないの?」
 歌詞を見て、淳史が問う。
「あ、それは・・・・・・」
 殴り書きのように書いた詞がバレていたのに、更に焦り始める。
「せっかくだから、二番も書いてみ?」
 圭吾に楽譜を渡される。
「ホントにこれやるの?」
 そう問うと、四人は深く頷いた。幸介は少し考えて、腹をくくった。
「分かった。書くよ」

 コンテスト開催日は、夏休み最後の日曜日だった。幸介はいつになく気合を入れた。今日で終わりかもしれない。いや、終わらせたくない。複雑な思いが交錯する。メンバーもいつになく緊張しているようだった。
「誠人、ちゃんと歌詞覚えたんか?」
 圭吾に言われ、誠人は振り返ってVサインをする。ちゃんと覚えたのか、と安心しているとやっぱり一言。
「何とかなるなる♪」
 メンバーの力がどっと抜けたのは言うまでもない。
「でも不思議とあいつがああ言うと、何とかなっちゃうんだよなぁ」
 智広の呟きに、幸介は頷いた。
「きっとあれで皆の緊張を解いてるんだよ。だからいつもの演奏ができるんだ」
「そうだな」

 その頃、奈月と愛久美も会場の観客席に居た。
「楽しみやね。メグちゃん」
「そうね」
「何の曲やるか聴いてへんの?」
 そう聞くと、愛久美は溜息交じりに頷いた。
「うん。教えてくれなかったのよ。会場で聴いてのお楽しみとかって」
「へぇ。マコちゃんにしては珍しいな」
「ホントに」
 誠人の場合、いつも聞かせたがるので、自然と情報が流れてくる。
「あぁ、でも今回の曲は幸介の作詞作曲って言ってた」
 愛久美は唯一の情報を奈月に告げた。
「幸くんの作詞? これまた珍しいなぁ」
 今までの曲は、誠人が作詞をしているのを知っているので、奈月は驚いた。二人は幸介たちの出番が来るのを今か今かと待ち構えていた。

 数組の演奏が終わり、やっと誠人たちが出てくる。
「LUCKY STRIKEで『FILTER』」
 コンテストの司会者が曲紹介をすると、幸介のドラムが打ち鳴らされる。流れ出すメロディーは、幸介らしく暖かい曲だったが、どことなく切なかった。
『秘めた想い 伝えられずに
 過ぎようとしている季節
 こんなにも深く 君を想う
 僕の声は届かぬまま

 過ぎる季節は呆気なく
 君への想いを募らせる
 許されぬ恋 秘めたまま
 終幕が訪れる

 数え切れぬほどの 君との思い出
 もうすぐやって来る 別れの季節

 伝えられない想い 消えることはなく
 言葉にできない もどかしい気持ち
 離れ離れになれば 想いは消えるのかな
 見上げた空に 涙を堪えた

 心にかけたフィルターが
 ふとした瞬間外されて
 君への想いが 解き放たれる
 季節が変わる その前に

 この声が届くなら 風に乗せて
 君への想いを 伝えよう

 予想通りの結末に 溜息一つ
 堪えたはずの 涙が一滴(ひとしずく)
 支えてくれた仲間(とも)の温もり
 かけがえのない 今日という時間』

 その歌詞はまさに幸介の気持ちを歌ったものだった。奈月はあの時の曲だと途中で気づいた。
「だから・・・・・・内緒なんて言ったのね」
 愛久美が呟く。確かにこれを聞かせるには少し勇気がいる。特に誠人の立場なら。
「でもええ曲やね」
 奈月の言葉に、愛久美は頷いた。

 そして結果発表。固唾を飲んで見守る。
「まず第三位。・・・・・・NOISE!」
 その瞬間ワーッと歓声が上がる。せめて三位入賞したかったメンバーは肩を落とした。
「今回はしょうがないか・・・・・・」
「まだ分からないよ!」
 智広の消極的な発言に淳史が吠える。
「上位入賞なんて考えられねぇ」
「いや、ひょっとするとひょっとするかもよ?」
 智広の発言に今度は圭吾が笑う。
「続いて第二位。コンテスト初参戦のLUCKY STRIKE!」
 司会者の言葉にメンバー全員が一瞬真っ白になる。促され、ステージで一歩踏み出す。
「初参戦で二位を獲った感想は?」
 司会者にマイクを向けられた誠人はテンションが上がった。変なことを言うなよとメンバーは誠人の背後から威嚇する。
「すっげー信じられないけど、すっげー嬉しいっす!」
 比較的まともだったので、一同ホッと胸を撫で下ろした。

 奈月と愛久美はお互い顔を見合わせた。
「嘘・・・・・・ちゃうよね?」
 奈月の呟きに愛久美が頷く。
「うん! すごい。やったね!」
 愛久美は自分のことのように喜んだ。
「いきなり二位かぁ。差付けられたわぁ」
 今回は参戦しなかったバンドのボーカルとしては、ちょっと複雑だ。
「でもホンマ良かった。めっちゃ嬉しい」
 奈月と愛久美はステージ上にいるメンバーに拍手を送った。

 控え室に戻った幸介と圭吾はお互い顔を見合わせた。
「辞められなくなっちまったな」
「ほんとだよ」
 それを聞きつけた他のメンバー三人が、二人に詰め寄る。
「ってことはっ!」
「やめないんだな?」
「これからもこのメンバーでできるんだよな?」
 矢継ぎ早に飛ぶ質問に、幸介と圭吾は顔を見合わせてから頷いた。
「こうなったらトコトンやれるとこまでやってやる」
「これからもよろしくな」
 二人の言葉にメンバーは、固い握手を交わした。

 帰り道。待っていたのは愛久美と奈月だった。誠人がそれを見つけ、早速飛んでいく。
「メグー、見てくれた? 俺カッコよかったっしょ?」
「そうね」
 適当にあしらわれ、しょんぼりとする。毎度のことながら、何でもっと優しくしてやらないんだろうとか思ってしまう。
「幸介」
 突然愛久美に話し掛けられ、幸介は驚いた。
「おめでと。あの曲、すごくよかった」
「あ・・・・・・ありがと」
 思わぬ人に褒められて、反応に困る。
「誠人より幸介が詞書いた方がいいんじゃない?」
 にっこりと酷い事を言う愛久美に圭吾が頷く。
「だよなぁ。あいつより絶対才能あるよなぁ」
「ええ! ひどいぃ」
 相変わらず二人にイジメられる誠人を見て、何となく安心し、笑みが零れる。
「あー! 幸介、何笑ってんだよぉ! いつもなら庇ってくれるとこだろぉ!」
「俺もうお前庇うの飽きた」
「ええ!」
「これからは俺もお前をイジメることにするよ」
 ニヤッと笑うと、誠人が泣きそうな顔になる。何でこいつこんなにからかいやすいんだろう。
「みんなー、アクアで打ち上げやろうってさー」
 先を奈月や淳史と歩いていた智広が叫ぶ。
「いいねぇ」
「いこいこ」
 全員がアクアといういつも溜まっている喫茶店に足を向けた。
 幸介は、皆の少し後ろで暮れてしまった夏空を見上げた。
 雲一つない満天の星空だった。




↑お気に召しましたら。

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