×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。





  

font-size       
 吐く息が白く染まる。恭子は空を見上げた。青く広がる空。もうすぐ雪が降る季節になろうとしている。
(あの人がいる街はもう雪、降ってるんだろうな)
 少し前に別れた彼の住む町は、ここよりももっと北に位置している。
 街の中にそびえ立つビルに取り付けられた巨大なテレビから流れるニュースに何となく注意を向けると、彼の住む町の映像が流れ始める。
「初雪が観測されました」
 アナウンサーが映像と共にニュースを読み上げる。
「遠いな・・・・・・」
 思わず呟いた言葉。実質の距離もそうだが、心の距離もそうだった。

『ずっと二人で一緒にいようね』
 二人で約束した言葉は、永遠に果たされることはなくなってしまった。いつの間にか、彼の心は離れていた。それでも傍にいたいと思ったのは、本当に彼を愛していたから。
 もう一度振り向いてくれると、そう思っていた。
 あんなにも愛せる人にはもう巡り合えないかもしれない。
 そう思うと恭子の胸は激しく痛んだ。自然と涙が溢れ出す。
 忘れることなんて、きっとできない。時間が解決してくれると言っても、癒えない傷だってきっとある。

 彼と出会ったのは偶然だった。街の中でコンタクトを落として困っている時に、彼が一緒になって探してくれた。ただそれだけ。
 結局コンタクトは見つからなかったが、まったく見えない状態の恭子の手を引いて、近くの眼鏡屋に連れて行ってくれた。感謝してもしきれなかった。
 ドラマのような出会い、と言えばそうかもしれない。その時は本当にただお礼がしたくて、連絡先を聞いた。
 それから何度か会ううちに、お互いが惹かれあっていた。少なくとも恭子はそう思っていた。
 だけどいつしか、彼の心は離れていった。お互いがもう少し歩み寄ることができたら、少しは変わっていたのかな?
 今更どうにもならないことは分かっている。
 けれどまだ胸の中には、まだ彼がいる。きっともう逢うことはないけど・・・・・・。
 恭子はその場にうずくまった。溢れ出した涙はとめどなく溢れた。
 行き交う人には恭子が見えていないかのように、恭子を素通りしていく。それがありがたかった。誰にも触れられたくない。こんな気持ち、きっと誰にも分からない。

「何やってんの?」
 しばらくして頭上で声が聞こえた。恭子は聞きなれた声に顔を上げた。
「恵里ちゃ・・・・・・」
 待ち合わせをしていた恭子の友人恵里は、彼女がボロボロに泣いているのを見てギョッとした。
「まさか・・・・・・またあいつのこと思い出して泣いてたの?」
 恭子は頷き、恵里に抱きついた。
「・・・・・・とりあえずあたしの家に来な」
 まだ泣いている恭子を恵里は自宅に呼んだ。

 恭子はずっと泣き続けた。目が真っ赤になって、まぶたも赤く腫れた。
「気、済んだ?」
 泣き止むのをひたすら待ってくれた恵里に聞かれ、恭子は頷いた。
「はい」
 恵里はホットミルクティーを淹れてくれた。恭子が好きな飲み物だ。その暖かさに安心する。
「恭子、分かってるだろうけど、いつまでもあんなやつのために泣いてたら勿体無いよ?」
「・・・・・・うん」
 恭子は曖昧に返事した。恵里は仕方なく一つ提案した。
「じゃあ・・・・・・今日だけ。今日だけ、あいつのこと考えていいよ。あいつに対して思ってること、全部吐き出しちゃっていいよ。全部聞いてあげる」
 ミルクティーを飲んで落ち着いた恭子は、カップを持ったまま口を開いた。
「本当は・・・・・・まだ・・・・・・あいつのことが好き・・・・・・。どうして・・・・・・どうしてこうなったんだろうって・・・・・・ずっと考えてて・・・・・・。・・・・・・あたしがもっと何かできたんじゃないかとか・・・・・・そういうことばかり考えちゃって・・・・・・」
 止まったはずの涙がまた込み上げてくる。
「・・・・・・逢いたい・・・・・・」
 ぽつりと言って深呼吸する。
「もう一度逢いたい・・・・・・」
 それが本音。でも逢ったからどうにかなるわけじゃない。ただ、まだ恭子は彼を愛している。
「・・・・・・でも・・・・・・逢ってもどうにもならないことは分かってる・・・・・・。だから、今日で・・・・・・彼のことは忘れる」
 自分に言い聞かせるようにそう言った。

 本来は一緒にご飯を食べに行く予定だったのが、そんな感じではなくなったので、恭子は一人で街を歩いていた。恵里が送ると言ってくれたが、一人で歩きたいと言って断った。
 近づく聖なる夜に街中は浮き足立っている。恭子だけがどんよりしていて、溜息だけが漏れる。
 白く染まる息が、少しずつその白さを増してきた。
 ふと目を上げる。紺色の空から、白い結晶が舞い降りた。
「・・・・・・雪?」
 差し出した手のひらに落ちた結晶は、すぐに体温で溶け出した。
 去年の今頃は、彼とこの街を歩いていた。隣にはいない彼の残像が、胸を痛める。
 ただ隣に彼がいるだけでよかったのに。いつの間にこうなってしまったんだろう。
 降り始めた雪は、恭子に再び彼を思い出させた。
 きっとこの想いは、ずっと忘れることはないだろう。何年経っても、ずっと。
 でも、もう泣かない。
 恭子は深呼吸をすると、雪の中を一歩踏み出した。儚い想いを、その胸に秘めて。


inspired:you/倖田來未

↑TOP


↑よかったらポチッとお願いしますv

  
photo by

banner by