font-size L M D S |
「受験が終わるまで、お互い会わないようにしよう?」
突然彼女がそんなことを言った高校三年の冬。恋愛と勉学を両立できないと彼女は付け加えた。 「うん。分かった」 突然のことに耕平はただそれだけしか言えなかった。引き止めても無駄だと思った。 その後、電話やメールをしても、電話にも出ず、メールも返信してこなかった。 体のいい振り方をされたのだろうか? そんなことを考えていても、仕方がない。耕平は全て受験が終わってから決着をつけようと思っていた。 それから耕平は一人で勉学に励んだ。辛くなかった、とは正直言えない。彼女のことが忘れられず、勉強に支障をきたすことも多かった。 だけどこれさえ終われば、きっとまた会えると信じ、耕平は死に物狂いでがんばった。 合格発表当日。 掲示板の前に立った耕平は、握り締めていた受験票を開いた。少し力が入りすぎてしわが寄っている受験票を、綺麗に引き伸ばす。 一度深呼吸をし、掲示板に目を移した。 (あんなに勉強したんだから、絶対合格してるはず・・・・・・) 自分の番号の近くを発見し、一度目をそらした。呼吸を整えてもう一度見る。 「あ・・・・・・った・・・・・・」 何度か受験票の番号と掲示板の番号を見比べる。 「やったー!」 掲示板の前で思わず万歳した。他の受験生も同様で、喜んでいる者もいれば、肩を落としている者もいる。 でも無駄じゃなかった。今までがんばってきたことが報われたのだ。耕平は手放しで喜び、携帯電話で家と高校に連絡を入れた。 「合格おめでとう」 そう言われ、夢じゃないんだと確信する。 電話を切り、携帯画面を見ると、何故か彼女の顔が浮かんだ。 『春になったら、受験が終わったら会おうね』 彼女とはそう約束した。 (そんな約束、きっと覚えてないだろうな・・・・・・) 耕平は携帯電話をコートのポケットに突っ込んだ。 肩の荷が下り、心なしか気持ちが軽い。彼女に・・・・・・会いたい。 そう思ったときだった。目の前に人影が揺れる。 (まさか・・・・・・) 耕平は目を見張った。現れたのは、彼女、美沙だった。 「み・・・・・・さ・・・・・・?」 驚きながらそう問うと、美沙はにっこりと笑った。 「久しぶり。耕平くん」 目の前に居るのに、何だか信じられない。 「え? 何で・・・・・・?」 「忘れたの? 『受験終わったら会おう』って言ったじゃん」 美沙はそう言いながら、耕平に近づいた。 「でも・・・・・・お前・・・・・・俺のこと嫌いになったんじゃ・・・・・・」 「えー? 何それ?」 耕平の言葉に美沙が苦笑する。 「嫌いになる訳、ないじゃん」 美沙は優しくそう言った。 「でも・・・・・・電話も・・・・・・メールも・・・・・・」 一切返ってこなかったのに。 「辛かったよ。我慢するの。でももし受験失敗して、また会えなくなったりした方が辛いじゃない?」 美沙は耕平の手を取った。 「耕平くん、浮気しなかった」 悪戯っぽく笑う彼女に、妙に安心する。 「す、するわけないだろ! ・・・・・・お前を・・・・・・美沙を忘れられないのに・・・・・・」 つい本心が出てしまう。すると美沙は「ふふっ」と笑った。 「そういや、美沙は・・・・・・どうだったんだ?」 一瞬きょとんとした美沙は、次の瞬間ニコッと笑った。 「もちろん合格」 Vサインを作ってみせる。 「おお! やったな」 「耕平くんは?」 「俺も合格」 「わー。おめでとー」 美沙は自分のことのように喜んでくれた。 「これでまた一緒に居られるね」 美沙は優しく微笑んだ。愛しさが沸く。 次の瞬間、耕平は目の前に居る美沙を抱きしめていた。温もりが伝わる。 「耕平くん?」 美沙が驚いた声を出した。 「会いたかった。ずっと・・・・・・会いたかった」 今まで押し殺していた想いを吐き出す。 「うん。あたしも会いたかった」 美沙は耕平の腕の中で呟いた。 もう二度と離れたくない。 耕平は美沙を抱きしめてそう思った。それはきっと美沙も願っているはずだ。 少しだけ早く訪れた春に、二人の心は温かくなった。 −−春、爛漫。 |