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大好きで大好きで仕方なかった。
「好きです!」 我慢できなくなったあたしは思い切って彼に告白した。高校に入ってからずっと同じクラスの加藤くん。高二の夏、あたしは彼への気持ちを抑えられなくなった。 「もし・・・・・・よかったら、付き合ってください」 叶うなんて思っていなかった。あたしが顔を上げると、顔を赤らめた彼がコクンと頷いた。 「ほ、ホントに?」 もう一度聞くと、彼はまたコクンと頷いた。 天にも昇る思いとはまさにこのことだ。言葉にならないほど嬉しい。 初めて繋ぐ彼の左手。あたしよりも震えてるのが分かる。同じように緊張していたあたしはそれだけで少し安心した。 彼はクラスの委員長で真面目で、言葉数が少なくて、周りの人に『鉄仮面』と誤解されてる。だけどあたしは知ってるの。彼が誰よりも優しいって。 入学して一ヵ月。あたしは新しいクラスにも慣れ、友達も何人かできた。 ある日の放課後、突然雨が降り始めた。その日、委員会の会議で遅くまで残っていたあたしは当然置き傘もなく困り果てていた。 「帰らないの?」 不意に低音の声が響いた。振り返ると、同じく委員会で残っていた加藤くんだった。 「傘がなくて・・・・・・」 その頃から『怖い』と噂されていた彼とはあまり話したことがなかった。同じ委員だったけど、彼は寡黙で共通の話題が見つからなかったからだ。 「これ使えよ」 不意に彼が自分の傘を差し出した。置き傘していたらしい折り畳み傘だった。 「え? でもそれじゃあ加藤くんが濡れちゃうじゃん」 「いいよ。家近いから。じゃあな」 彼はあたしに傘を渡し、自分は鞄で雨を避けながらさっさと帰ってしまった。あまりに呆気なかったので、あたしはしばらく呆然としていたけど、せっかくなので傘を借りて帰る事にした。 その翌日、ちゃんと傘を乾かして彼に返した。 「あの、傘ありがとう。すごく助かった」 「そりゃよかった」 その時、微かに彼が笑った。あたしはその笑顔にやられてしまったのだ。 それからあたしは彼のことを目で追うようになっていた。皆は彼のことを多少避けていた。噂が先行していたからだろう。だけど彼はそんなことも気にせずに学級委員長としてクラスメートのフォローを影ながらしていた。そんな彼のさり気ないフォローは、きっとあたししか気付いてない。 彼の傍にいたい。だからあたしは意を決して彼に告白した。まさか彼も同じ気持ちでいてくれたなんて夢みたいだ。 「加藤くんはあたしの運命の人だと思うのね?」 「はいはい」 あたしが言う直球な言葉を彼は素っ気無く返す。だけど気付いてるんだ。彼が照れてること。だって耳まで真っ赤になるんだもん。 「王子様ってホントにいるんだねぇ」 「ん?」 「あたしの目の前」 そう言った時は、ボンッと顔がみるみる真っ赤になった。別に彼が照れる顔を見たいって訳じゃない。まぁ多少はあるけど。全部あたしの本心。 あたしは思った事を言っちゃうタイプ。彼は恥ずかしがり屋さん。肝心な事、言ってくれないけど、あたしは全部分かってるよ。 だけど・・・・・・いくら照れてるからって早足で歩いたら、じゃれつけないじゃん。 彼とのデートはほとんど図書館がメインだった。真面目な彼らしい。同じ大学に入るためにもあたしもがんばって勉強しなきゃ。 「だからここの訳は・・・・・・」 あたしは彼の真剣な横顔がとても好きだった。あたしがジーッと見てる事に気付くと、彼は顔を真っ赤にする。 「お前、説明聞いてないだろ」 「だってチューしたいなぁって思って」 「アホかっ」 あたしの言葉に彼は顔を真っ赤にして怒鳴る。でもここは図書館。一斉に視線が集まる。 「シー」 二人して人差し指を唇に持ってくる。 「ったく。お前は何でも直球過ぎだ」 「加藤くんが言ってくれないからでしょ?」 そう言うと彼は少しムスッとした。スネたのだろうか? 「と言うか場所をわきまえろ」 彼はぶっきらぼうにそう言った。照れてるんだ。 人影もまばらになった夕方の帰り道。手を繋いで歩く。 「加藤くんはあたしのどこが好きなの?」 思い切って聞いてみる。すると彼は照れているのか、なかなか答えない。しばらくの沈黙の後、彼が口を開いた。 「・・・・・・直球なとこ」 彼の答えに笑ってしまったのは言うまでもない。 彼との距離は本当にゆっくりゆっくり近づいた。 不器用な彼だけど、誰よりも優しくて、柔らかい笑顔を持っていて、ちょっとしたことで照れちゃう恥ずかしがり屋さん。色んな彼の顔を知る度に、『好き』の気持ちが大きく膨らんでいく。 やっと抱きしめてくれた時の彼の鼓動は少し早いリズムだった。だけどそのリズムは何だか妙に心地いい。 大好きでたまらない。一緒にいるだけで幸せ。あたし、恋してる。 大好きが止まらない。 inspired:コイスルオトメ/いきものがかり
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