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 目覚まし時計がけたたましい音を立てて、眠りから呼び覚ます。
「・・・・・・ん・・・・・・」
 伸明は目をつぶったまま手を伸ばして、目覚まし時計を叩いた。けたたましく鳴り響いていた音が止み、伸明は寝返りを打った。二度寝に入る気持ちのいいタイミングで目が覚める。
「やっべっ」
 伸明は慌てて飛び起き、時計を見た。時計の針は八時を指していた。
「マジでやべー」
 伸明は着ていた寝巻き代わりのジャージを脱いで、スーツに手をかけた。ふと横にあったカレンダーが目に入る。
「・・・・・・」
 携帯電話で日付を確認して、力が抜けた。
「・・・・・・休みじゃん」
 慌てて損した。ベッドに座り、机の上の煙草と灰皿を引き寄せる。このまま寝るのはもったいない気がする。それに目が冴えてしまった。
「どうすっかなぁ・・・・・・」
 煙草に火をつけ、煙を吐く。換気のために窓を開けようとまずカーテンを開けると、外は快晴だった。
 ふと彼女の顔が浮かぶ。彼女は一体今何してるんだろう?

 二年半付き合った彼女とは、一ヶ月前に別れた。嫌いになった訳じゃない。彼女がそう望んだ。
 二言目には「あたしと仕事、どっちが大事?」と詰め寄り、黙っていると泣き始める。「やっぱり仕事の方が大切なのね」と。
 どっちが大事なんて、自分でも分からない。ただ仕事も大切だし、彼女も大切だった。仕事の忙しさのために、彼女に寂しい思いをさせていたかもしれない。だけど、それも理解してくれていると思っていた。

 伸明は煙草の煙を吐き、灰皿に灰を落とした。

 いつの間にかすれ違い、彼女の心は離れて行った。そして決着をつけた。
 別れは、とてもあっさりしていた。彼女には他に好きな人がいるみたいだったし、ちょうどよかったのかもしれない。
 伸明も思ってたより、あっさりとしている自分に驚いた。あんなにも好きだったのに、自分も彼女から心が離れていたんだと、今更ながらに気づく。

「朝から暗いな、俺」
 伸明は溜息をつき、タバコを灰皿に押し付けた。立ち上がり、服を着替える。
 今日みたいな日に家でのんびりしているのは勿体無い気がした。少し外に出れば気分転換になるだろう。

 着替えを済ませた伸明が向かった先は、近所の公園だった。ベンチに座り、立ち寄ったコンビニで買ったホットの缶コーヒーを開けて飲む。
「はぁ・・・・・・」
 よく分からない溜息が漏れる。白い息が空中へ消える。
 公園には朝から元気に遊んでいる子供たちがいた。その光景を微笑ましく思いながら、見ていた。
 この公園は、彼女との待ち合わせによく使っていた。お互いの家の近くということで、ここで待ち合わせをして、そこからいつもデートをしていた。
 しかしそれさえも、いつの間にかしなくなっていた。彼女と会う時間は仕事に奪われていった。
 もし仕事じゃなく彼女を優先させていれば、今も彼女と繋がって居られたのだろうか?
(何考えてんだ?)
 伸明はコーヒーを飲み干し、少し離れたゴミ箱へ投げる。気持ちいいほど綺麗に入る。
(女々しいな、俺)
 立ち上がって伸びをする。彼女と思い出の場所なんているから、久しぶりにゆっくりした時間を過ごしているから、こんなこと思い出すんだ。
 伸明は公園を立ち去った。

 行く先々、彼女との思い出が残っていた。思えば、付き合い始めた頃は毎日のように彼女と会っていた。忙しすぎて思い返す暇なんてない方が、伸明にとって幸せだったかもしれない。だけど、今日は何をしていても思い出す。
(休日なんて・・・・・・いらね)
 忙しくしていたほうが、いつの間にか忘れられたかもしれないのに・・・・・・。

 伸明はいつの間にか自宅とは反対方向へ足を向けていた。
(どこだ? ここ)
 周りの雰囲気を見て、気づく。
(しまった!)
 いつの間にか彼女の家の方へ来てしまっていた。彼女のことばかり考えていたからかもしれない。
 くるりと身を転じ、今まで歩いてきた方へ足を向ける。何となく道の反対側を見ると幸せそうなカップルが目に入る。
(あ・・・・・・)
 彼女だ。隣には優しそうな男性が居る。どうやら彼女が好きだった人らしい。上手く行っている事を知り、複雑な想いになる。
(今・・・・・・幸せなんだな)
 彼女の顔を見ると分かる。それでいい。彼女が今幸せなら、それでいい。
「幸せに・・・・・・な」
 伸明は呟くと、彼女に気づかれないように立ち去った。

(切ねぇな・・・・・・)
 そう思いつつも、彼女への想いが吹っ切れた・・・・・・気がする。
 マンションに着くと、玄関の前に誰かが立っていた。
「朝帰り?」
 そう聞いたのは、大学時代からの友人の由梨だった。
「ちげーよ。それより何か用?」
「今日休みなんでしょ? どっか行かない?」
 突然の誘いに伸明は驚いた。
「今から?」
「そ。どうせ暇してるんでしょ?」
 由梨が意地悪く笑う。
「まぁ暇っちゃ、暇だけど・・・・・・」
「じゃあ決まり!」
 勝手にそう決めると、由梨は伸明の腕に自分の腕を絡めた。
「しゅっぱーつ」
「ちょ、お前なぁ」
 半ば強引に引っ張られ、伸明は出かけることになった。
(たまにはこんな休日もありかな?)
 二人の頭上には今年一番の清々しい青空が広がっていた。

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